瀧澤:女性の高い支持がこれまでを支えてきたということですね。
西沢:はい。日経ヘルスは当初は男性読者を想定していたのですが、途中から完全に読者層を女性にシフトしました。2008年には、糖尿病だけでなく、肥満や肌の老化原因にもなる食後高血糖を防ぐのに少しでも簡単で取り組みやすい方法を探る中で、レディー・ファーストに想を得て、「ベジタブル・ファースト」という言葉をつくりました。つまり、同じ食事をするのでも、最初に血糖値が上がりやすい白米やパンに手を付けるのではなく、急激な血糖上昇を防いでくれる食物繊維を多く含む野菜から食べる考え方です。これなら今日からできますよね?
この方法を誌面などで紹介したところ、女性たちはすぐに反応してくれました。ただ「食後高血糖は危険です」と言うだけだったら反応もいまひとつだったと思いますが、リスクに関する裏付け情報と共に、簡単な食べ方で高血糖のリスクが下がることを分かりやすい表現で伝えると、必ず反応してくれる。そのような経験から言っても、機能性表示食品市場も、しっかりしたエビデンスを基に、食品の取り方や食事の仕方、あるいは相乗効果がある健康法との組み合わせなど分かりやいストーリーに落とし込んでいけば、今後も必ず安定的に成長していくと思います。例えば、1種類の食品の取り方だけではなく、こういう食事をこんなバランスで食べると体の健康維持や機能改善に有効であるといった研究もどんどん進んでいくでしょう。一つの事業者が自社製品を単体で推奨するのではなく、複数の事業者が食品の組み合わせや食事のあり方を提案する時代がくるかもしません。
「先制医療」とも密接に関わってくる食品の機能性
西沢:あと、これから10年、20年、関心が高まっていきそうなのは食物繊維類だと思います。腸内菌叢を扱った最近のテレビ番組に大きな反響があって、私のところにも、「腸で何か製品開発ができませんか」といった問い合わせが多く来ています。腸内菌叢の在り方が、生活習慣病からダイエット、心の健康状態や、妊婦さんの場合には生まれてくる子どもの将来の健康まで深く関わっていることが分かってきました。食物繊維はその腸内細菌の中でも乳酸菌やビフィズス菌といったいわゆる善玉菌の餌です。ということは、食物繊維を含むどんな炭水化物を取ったときに腸内菌叢がいい状態になるかという知見は、健康のベース戦略になるはずです。既に権威ある専門誌に、腸内細菌に関する研究論文が多く掲載されています。この腸内菌叢の研究は、将来かかる可能性の高い病気を見つけ発病を予防する「先制医療」にも大きな成果をもたらすでしょう。先制医療は、4月に開かれた第29回日本医学会総会でもキーワードとして挙げられた、予防医療よりさらに一歩進んだ考え方です。
この先制医療領域は、年間40兆円に上る医療費を削減し、世界最長寿なのに平均寿命と健康寿命の間に12.4年も差がある(日本人女性)現状を変えるために、発達させなければならない医療分野です。そして、これには食品が非常に深く関わってきます。機能性表示食品市場の進化は、これから10年、20年の食にまつわるビジネスをドラスチックに変えていくのではないかと思います。