カテゴリ
テーマ

アスリートブレーンズ為末大の「緩急自在」vol.10

為末 大

為末 大

Deportare Partners代表

日比 昭道

日比 昭道

電通

為末大さんに「いま、気になっていること」について、フリーに語っていただく連載インタビューコラム。唯一、設定したテーマは「自律とは何か、寛容さとは何か」。謎の「聞き手」からのムチャ振りに為末さんが、あれこれ「気になること」を語ってくれます。さてさて。今回は、どんな話が飛び出すことやら……。乞う、ご期待。

インタビューに応える為末さん

──前回、前々回と「さびしさとは、何か?」というテーマで話を伺ってきましたが、今回はいよいよ「企業にとってのさびしさ」ということについて切り込んでみたいと思います。コロナ禍や働き方改革ということもあり、働く側も経営者も、これまで経験したことのない「さびしさ」を感じていると思うんですよ。「さびしさ」というワードが適切なのかは分からないのですが。

為末:おっしゃる意味は、よく分かります。アメリカなどでは、あくまで「個人」が基本で、会社側も「機能」を求めてる。プラモデルのパーツを集めるように不足している部分を都度、埋めていく感じです。対して日本の場合、中に入ってから人材をかき混ぜて、機能を生んでいく。いわば「信頼型」の組織であり、社会なんです。そうした仕組みが多くの100年企業を生んできたわけですが、そのベースにある信頼感が、昨今、薄らいできている感覚はありますね。そこに誰もが「さびしさ」を感じるのだと思います。

──なるほど。感情的なこともそうですが、社会全体に構造的な変化が起きている、ということですね?

為末:そうです。僕は、これからの世の中、日本だけにとどまらず世界全体で「高信頼化社会」になっていくと思っています。 

──「さびしさ」から始まって、随分と大きな話になってきました。

インタビューに応える為末さん

為末:昔は「関係をつくるために、関係をつくる」というのが常識だった。営業職でいうと「得意先と太いパイプをつくれ」みたいな。そのために接待をする、みたいな。でも、いまの時代、そんな単純なことでは真の信頼はつくれない。得意の担当者が退職した途端、関係が切れてしまう、みたいなことではビジネスは回っていかないし、仕事先だけではなく、世の中からも相手にされなくなってしまう。「高信頼化社会」とは短期間の関係性でなく、長期間の関係性を築いていく、ということ。そのためには「網目状の信頼関係」が必要なのだと思います。

──「網目状」ですか?

為末:そうです。一対一の関係ではなく、上下左右、社内社外、グローバル、あらゆる人との関係によってビジネスが前に進んでいく。つながることが目的なのではない。つながることで生まれる幸せを、みんなで共有していくことが大事なんだと思います。

──それこそが、ネットワークの本質ですものね。

為末:ともすれば人は、つながった、つながった、ということで満足してしまいますし、さびしさから逃れられたように錯覚してしまいます。でも、本質はそこにはありません。網目状につくられたネットワークを駆使して、これまでにない信頼感を共有し、その信頼感をベースに何かを生み出していく。これは、個人間でも、企業、国家間でも同じことだと思います。

──われわれはいま、そうしたことを模索している途中なのでしょうね。

為末:だと思います。

──「網目状」のネットワークをつくる上で大切なこととは何でしょうか?

為末:近年、複業みたいなワードも出てきていますが、大切なことは一箇所で築き上げたキャラクターに依存しないこと、だと思います。会社ではこの部署でこのポスト、だから、このように仕事をしておけば問題ない。家庭ではよき妻、よき夫、よき親を演じる、みたいな。それって、ネットワークを遮断しているだけなんですよね。子どもが考えた企画を、役員会議にかけたっていいじゃないですか。まったくの異業種の企業とコラボしたっていいじゃないですか。そういうことから、新しいものは生まれてくるのだと思います。 

──つまり、いろんなキャラクターに挑戦してみる、ということですね?時には
商品開発に悩みに悩んでいる弱いお父さんを娘の前でさらしてみる、とか。社外の人間と、積極的に会話してみるとか。

為末:そこから新たな、というか真の「信頼関係」が生まれるのだと思います。

──なるほど。「さびしさ」を克服するための秘訣が、見えてきたような気がします。次回は「さびしさとは、何か?」の最終回となります。信頼というキーワードから、さらに掘り下げていければ、と思います。よろしくお願いいたします。

為末:こちらこそ、よろしくお願いいたします。 

(聞き手:ウェブ電通報編集部)


アスリートブレーンズ プロデュースチーム日比より

「さびしさ」に向き合ったトップアスリートであり、その実践を解像度高く言語化できる為末さんだからこその、対話でありました。網目状のネットワークという言葉がありましたが、おそらく、為末さんも、現役時代から網目状のネットワークの必要性を感じ、それを実践してきたのだと思いました。トップアスリートは、競技のプロになるだけではなく、さびしさをはじめ、さまざまな壁を乗り越えてきた人々だと思います。改めて、アスリートブレーンズが持つ実践知を、世の中にひらいていきたいと感じました。

アスリートブレーンズプロデュースチーム 電通/日比昭道(3CRP)・白石幸平(事業共創局)

為末大さんを中心に展開している「アスリートブレーンズ」。
アスリートが培ったナレッジで、世の中(企業・社会)の課題解決につなげるチームの詳細については、こちら

アスリートブレーンズロゴ

この記事は参考になりましたか?

この記事を共有

著者

為末 大

為末 大

Deportare Partners代表

元陸上選手。スプリント種目の世界大会で日本人として初のメダル獲得者。男子400メートルハードルの日本記録保持者。現在は執筆活動、身体に関わるプロジェクトを行う。Youtube為末大学(Tamesue Academy)を運営。国連ユニタール親善大使。 主な著作に『Winning Alone』『走る哲学』『諦める力』など。45歳を迎える2023年、初めて文章執筆した本書『熟達論』を刊行する。 HP:https://www.deportarepartners.tokyo/ Twitter:@daijapan

日比 昭道

日比 昭道

電通

クリエイティブディレクターを務めつつ、ストラテジスト/ビジネスディベロッパー/ファシリテーター他、さまざまな肩書きをもつ。 ストラテジックプランニング局、営業局を経て、インターナルマーケティング、エクスペリエンスマーケティングなどの専門部署を経験。根っからのスポーツ好き。社会人アメフト・トップリーグの選手経験も。中小企業診断を士。 主な仕事:アスリートブレーンズ/電通バイタリティデザイン/BASE Qなど。

あわせて読みたい