Dentsu Design Talk 第2回(2005年9月1日実施)は、共に電通OBであり、Think The Earthプロジェクト(現・一般社団法人Think the Earth)のプロデュースなどビジネスを通じて社会を変えていく活動に取り組んでいる(株)スペースポートの上田壮一氏と、クリエーティブ・ディレクターで(株)リワインド代表(実施当時)の友原琢也氏をお迎えし、「Social Value Creationへの試み」をテーマにトークセションを繰り広げた。
上田 壮一氏
一般社団法人 Think the Earth理事
プロデューサー
友原 琢也氏
株式会社 バッテリー 代表
クリエーティブ・ディレクター
自分たちでゼロからつくるThink The Earthプロジェクト
上田氏は1996年に電通を退社後、フリーランスで映像のドキュメンタリーを制作する仕事をしながら、プランナー、ディレクターとしても活動。95年の阪神・淡路大震災や国際紛争地でのNPO活動の取材などから、「自分をなげうってでもその場に新しい種をまいていくような仕事をしている人に心を打たれて、社会性のあることが世の中でもっと創造性をもってクローズアップされるようなことができないか」と考え、2000年に社会・環境テーマだけを扱う企画制作会社スペースポートを設立。さらに、クライアントのオリエンテーションに対してクリエーションをしていく仕事と別に、自分たちでゼロからつくる「オリジナルプロジェクト」として、2001年にThink The Earthプロジェクトを立ち上げ、NPOを設立する。
便利さではなくメッセージをもったプロダクツ「地球時計」の誕生
上田氏がNPOを立ち上げるきっかけになった最初のプロジェクトは、半球型のドームの中で小さな地球がゆっくりと回り、地球の時間が体感できる腕時計「地球時計(アース・ウォッチ)」の製品化。この企画の元には、上田氏が学生だった1988年に出版された写真集『地球/母なる星』に感動して、「宇宙から自分たちを振り返る視点が大事と思った」ことや、「自然のリズムと大きく切り離されてしまった現在の人間の時間に対する感性を地球時間に戻せないか考えていた」上田氏の思いがあった。NTTの研究所の技術を活用する企画でプロトタイプを作ったことをきっかけに、セイコーインスツルと2年をかけて事業化する。「その時に、この企画に共感したみんなの頭にあったのは、この時計を売ってお金もうけをしようということではありませんでした。世の中に便利さをつくる商品開発提案ではなくて、メッセージを持ったプロダクツを出してみようとしたプロジェクトだったので、売り上げの一部が地球に還元される仕組みをつくったり、インターネットを使って全世界に販売したりと、エコロジー(環境保全)とエコノミー(経済活動)が両立するようないろんなチャレンジを考えました」と上田氏は振り返る。地球時計は2001年3月に発売されて大きな話題となり、その後のThink The Earthプロジェクトを進める上での足がかりとなっていった。
友原氏は自身の経験から、「電通はパワーがあって組織力も強いけれど、ソーシャル的な活動には、個人の思いのようなもの、その強さのほうが重要な気がする」と述べる。それを受けて上田氏も、「会社対会社の関係よりも、その人がすごく信用してくれて僕らのことを面白がってくれると、お互いにいろんなものを託してみようという気持ちになる。関係性が熟してくると実現性も高まってくると思います」と話した。一方で、友原氏は電通時代に社会貢献部を兼務した実感から、「Think The Earthはすごくクリエーティブだし、デザインも言葉のセンスも優れているけど、日本のほとんどのNPOは、熱い思いにはあふれているけど、うまく伝えられずメディアを使うお金もない。広告会社の仕事はコミュニケーションの促進だから、社会を良くしていこうと純粋に思っているNPOの「伝え方」をお手伝いしたり、逆に社会貢献をしたいと思っている企業がどこと組んで何をやればいいかをコーディネートすることができる」と広告会社のCSRについて述べた。
一般社団法人Think the Earth理事/プロデューサー。
2000年にソーシャル・クリエイティブの拠点として株式会社スペースポート設立。01年よりThink the Earthをスタート。以来、コミュニケーションを通じて環境や社会について考え、行動を促す仕掛けづくりを続けている。主な仕事に地球時計wn-2、書籍『百年の愚行』『1秒の世界』『グリーンパワーブック ~再生可能エネルギー入門』、大型映像「いきものがたり」など。トヨタのソーシャルキャンペーン「AQUA SOCIAL FES!!」のアドバイザーも務める。