その後、米国企業と共同でシンジケート・ローンやM&A分野における高度な数理モデルとセキュリティー技術によって人手を介さずに取引を自動実行するシステムを担当する一方、それとは真逆の「中央集権的」かつ「数多の仲介者」によって展開されるSWIFT(Society for Worldwide Interbank Financial Telecommunication)担当も兼務したことで、国際金融取引のコスト構造について思案するようになっていきました。当時は日本でもPASMOやEdyなどのサービスが登場し、鉄道会社やEC事業者など非金融機関による金融サービスが一般化してきた時期です。中でもEdy to Edyといった個人間送金やPROSPERのような個人間融資、また Winnyといった「P2P型」のファイル共有サービスが始まるなど、破壊的なICTによって社会が「組織から個へ」とクリエーティブの源泉をシフトさせていくさまを目の当たりにしたことで、2011年に渡邊信彦氏らと個の力に注目して技術プロトタイピングを進める新組織「ISIDオープンイノベーション研究所(イノラボ)」を設立しました。
イノラボではCERN(欧州原子核研究機構)の研究者とブロックチェーン技術と量子技術を掛け合わせた高度情報防衛の在り方を検討するような未来的で大掛かりな案件から、有機野菜やオーガニック・ワインなどフードサプライチェーンにICTを適用し農のトレーサビリティ向上と生産者の安定的な経営環境の整備を目指す案件のような、身近な生活課題の解決を試みるものまで幅広く担当しました。その後、電通グループ全体のR&Dを推進する組織「電通イノベーションイニシアティブ(DII)」が設立されたことで2019年に株式会社 電通へ異動し、現在は電通グループへの中途入社を経て、NFTやコントラクトウォレットなどのWeb3.0技術、NFC(Near Field Communication)やIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)などの通信技術を中心に先端ICT技術が導く未来の情報環境を予測するとともに、来たる新環境への人類の順応プロセスや新市場の形成プロセスについて研究開発を進めています。
2017年にCERNなどと国際会議体「Table Unstable」を開始。以後、気候変動や民藝などに関する社会課題に対して、伝統的な知識と先進科学技術の融合により解決を試みるとともに、その派生活動として研究者養成を目的としたアウトリーチ活動「落合陽一サマースクール」を推進。Innovators Under 35 Japan | MIT Technology Review Advisory Board、放送大学客員准教授、ブロックチェーン推進協会(BCCC)理事など兼務。