株式会社電通デジタルでは、2023年にサステナビリティルームを設立し、サステナブル社会における事業創出に取り組む企業を支援しています。そのソリューションの1つが、「Sustainable Future Design(サステナブルフューチャーデザイン) プログラム」です。
開発に携わった電通デジタルの勝谷さや香氏にインタビューした後編では、相談を受けた企業の課題感や、サステナビリティルームの今後などについて聞いていきます。
新規事業にサステナビリティの視点は不可欠
Q.「Sustainable Future Design プログラム」のリリースから約1年経ちましたが、反響はいかがでしょう。
勝谷:「サステナブルな社会に向けて、新規事業を起こしたい」というご相談は、思いの外多いですね。女性のウェルビーイングやカーボンニュートラルなどテーマが決まっている場合もありますし、はじめは「サステナブル」と掲げていたわけではなくても、結果的に取り組むべきテーマがサステナブルにつながっていくケースもあります。
また、実際のソリューション提供の現場においては、この「Sustainable Future Design プログラム」に加えて、電通デジタルが提供している複数のソリューションを掛け合わせており、その時々のテーマによって毎回ソリューションそのものをアレンジすることで、事業開発に役立てていただいています。
株式会社電通デジタル 勝谷 さや香氏Q.相談を持ち込むクライアント企業は、どのような点に課題を感じているのでしょうか。
勝谷:テーマによって課題感もさまざまですが、例えばカーボンニュートラルのようなテーマですと、「一部の意識が高い生活者しか興味を持たないのではないか。CSRの延長になってしまうのではないか」といったお話はよく伺います。
Q.そのような相談に対し、「Sustainable Future Design プログラム」は何をどのように応えていくのでしょうか。
勝谷:カーボンニュートラルというテーマだと大きすぎてしまうので、日常生活の中でカーボンニュートラルと触れられる接点を細かく分解して探索します。また、もともと関心がない人に対してもゲーミフィケーションやコミュニティーなどの仕組みを用いて、モチベーションサイクル設計をしていくことで、生活者にとってのベネフィットと社会課題解決をつなげていきます。
Q.今の時代、新規事業を起こすには、サステナビリティやSDGsの視点は無視できません。勝谷さんは普段からさまざまなクライアント企業と向き合っていますが、各企業のサステナビリティに対する課題感をどのように受け止めていますか?
勝谷:以前、動物に関連する新規サービスの開発に携わった際、保護犬や保護猫といった動物を巡る社会課題を取り入れたことが生活者の興味を捉え、事業の成長につながった、という事例がありました。
これは1つの事例ですが、サステナビリティに対する企業の姿勢について、生活者は想像以上に敏感に反応しています。どういった事業であれ、今後サステナビリティの観点は外せないものだと思います。実際、主軸となるテーマはサステナビリティとは少し距離があっても、どこかにサステナビリティの要素を含むようなサービスは確実に増えています。
Q.このソリューションを、今後どのように発展させていきたいと考えていますか?
勝谷:「Sustainable Future Design プログラム」単体ではなく、サステナビリティルームの他のソリューションを必要に応じてアレンジしながら、クライアント企業さまのご相談に応えていきたいと考えています。「Sustainable Future Design プログラム」の事例分析には、活用できるTipsが多いので、そこは継続的にアップデートしていきたいですね。
社会課題へのコミットの深さで、事業開発のアプローチも変わる
Q.「Sustainable Future Design プログラム」をリリースして約1年経ちましたが、社会の状況や生活者の意識も変わりつつあります。あえてサステナビリティを前面に押し出さず、相談を受けた案件に対し、サステナビリティ要素を後から取り入れる手法もあるのではないかと思いますが、いかがでしょう。
勝谷:それは、社会課題にどこまでコミットするかによると思います。「新規サービスにサステナビリティ要素を取り入れることで、生活者の機運を少しずつ高めたい」というレベル感であれば、通常プロセスで事業を開発する中で、サステナビリティ要素を追加していくことができます。
ただ、真正面から社会課題を解決する場合、通常の事業開発にはないプロセスも踏む必要があると思います。そもそも社会課題は、複雑な課題がいろいろと組み合わさったものです。一方向からアプローチしても、課題解決につながらないことも多々あります。1社だけでは実現できないケースや、さまざまなアライアンスが必要になるケースも多く、その分、事業の規模も大きくなります。考えなければならないことも違うため、私たちの併走の仕方も変わってくると思います。

Q.サステナビリティルームの皆さんは、社会課題に対する知見をお持ちですが、専門分野などはあるのでしょうか。
勝谷:「Sustainable Future Design プログラム」は事例分析をベースに広くSDGsのテーマを取り扱っていますが、SNS上の生活者の声を分析して社会的不満を集めた「Socail Pain Compass」やサステナビリティへの関心が高いZ世代と共に事業開発を行う「REVERSE CONSULTING for SUSTAINABILITY」といったソリューションもあります。また、社会課題をコミュニティーで解決していく「SUSTAINABLE COMMUNITY」も現在開発中です。
Q.「SUSTAINABLE COMMUNITY」とはどういうものでしょう。
勝谷:「社会課題」のテーマと「人」を分けずに、個人の課題の集積が「社会課題」と捉え、直結する個々の課題を拾い上げるところからサービスを考えようという発想のプランニングアプローチです。
例えば、アルコール依存症のような話題は、表立って話しづらい空気がありますよね。しかし、こうした問題を抱える方々は、想像以上に多いのも事実です。家族の方も含め、悩んでいる方々が多いにもかかわらず、なかなかそれが表面化しづらい状況にあります。
こうした課題に対し、コミュニティー自体がソリューションになるのではないかと考えました。
横のつながりを生むコミュニティーをつくるとポジティブになる。例えば、ゴミ拾いなど「1人でやるよりみんなで取り組んだ方がいい」というケースは、コミュニティーの力を使いながら加速できるのではないかと思います。
Q.今、勝谷さんが関心を抱いている社会課題、事業によって解決していきたいテーマは何ですか?
勝谷:案件で深く関わらせていただいた、カーボンニュートラルやダイバーシティの領域は、日常接点も多く、個人的にも興味があります。こうしたテーマは1社だけの取り組みで社会を大きく変えるには時間がかかりますし、生活者のライフスタイルを変えて新たな事業を展開していける可能性も大きいと思います。電通デジタルとしても、新規事業開発の支援を通して、サステナブルな社会づくりに貢献していきたいですね。
今や、企業の新規事業開発において、サステナビリティの視点は欠かせません。社会課題にどこまで深く関わるかによって、事業開発のプロセス、規模感も変わるため、まずは自社の事業にひも付く領域で小さなトライを試みてはいかがでしょうか。