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不安定な国際情勢が続く中、日本企業には「経済安全保障」への対応が強く求められている。海外諸国の自国優先政策による輸出入規制、関税引き上げ措置といったさまざまなリスクを回避し、事業継続の確実性を担保するためには、自社の経済安全保障は経営・事業戦略に影響を及ぼす極めて重要な取り組みだ。

そんな企業の経済安全保障に関する施策立案・実行を支援するために、国内電通グループ(dentsu Japan)の一社である電通総研は2025年3月に「電通総研 経済安全保障研究センター(DENTSU SOKEN Center for Economic Security Research、以下DCER)」を新設した。同センターの狙いと活動について、電通総研 常務執行役員の妹尾真氏、電通総研 経済安全保障研究センター 副センター長の伊藤隆氏に話を聞いた。

※このコンテンツは2025年11月13日に日経電子版に掲載されたPR記事の転載です。https://ps.nikkei.com/dentsudcer2511/index.html


日本企業に求められる経済安全保障への対応

──経済安全保障とはどういった概念なのでしょうか。

伊藤:経済安全保障とは、国外勢力や他国が経済的な力を「武器」として利用し影響を及ぼしてくるときに、自国あるいは自社が持続的な存続を確保していくための、“攻め”と“守り”を統合した総合的な戦略です。国であれば国家安全保障戦略の対応ですし、企業であれば、企業存続のためのリスクマネジメントの一環だと考えられます。

妹尾:特にビジネスの観点では、独自の技術、確保すべき資源、サプライチェーン(供給網)、保護すべき重要な情報などを確保して事業活動を継続することや、新たな勝ち筋をどのように作っていくかという活動だと捉えています。 一般的に事業活動は、“攻め”には投資しやすく、“守り”はコストと見なされて投資しにくいという側面はありますが、“攻め”と“守り”の両面で考えることが要点です。

妹尾 真氏:電通総研 取締役 グループ会社アイティアイディ(現在は電通総研に吸収合併)の代表取締役社長、執行役員、上席執行役員などを歴任し、2026年3月に取締役に就任。dentsu Japan DXプレジデントも兼任する。


──経済安全保障が重要視される理由、および日本企業の現状をどう見ていますか。

伊藤:近年、経済安全保障が重要視されている背景には、国際情勢の構造的な変化があります。特に2008年のリーマン・ショック以降、世界経済において中国が存在感を高めたことが、その後の構造変化につながりました。さらに13年に習近平国家主席が新たに「一帯一路」イニシアチブを打ち出すと、米国は中国を自国の覇権を脅かす「新たな挑戦者」として強く意識し始め、経済・技術・武力といったあらゆる面で米中間の対立と緊張関係がエスカレーションしていきました。そして、この機運を決定づけたのが、18年8月に成立した2019年版米国国防権限法(NDAA)、および新型コロナウイルスのまん延によるサプライチェーンの途絶です。

経済安全保障に関連する重要な情報を守るためのセキュリティ・クリアランス(適格性評価)制度の必要性に関して電通総研 経済安全保障研究センター(DCER)が実施した調査では、肯定的な回答が74%に上っています。これは特定秘密保護法が施行されてから約10年の間に、当時懸念されていた「国民の知る権利の侵害」といった問題が現実には起こらず、国民の間に理解が進んだことが一因です。しかし、最も大きな理由は国際情勢の激変です。22年のウクライナ侵攻、経済安全保障推進法の制定、国家安全保障戦略を含む安保3文書の策定といった一連の動きを経て、防衛や国防といった課題を正面から捉えて議論しなければならないという認識が国民の間にも広がり、セキュリティ・クリアランス制度そのものへの理解を深めたと分析しています。

出所:電通総研 経済安全保障研究センター「DCER経済安保1万人サーベイ」(N=10000)


企業の持続可能な未来づくりに伴走するDCERを設立

──そうした状況の中、DCERを設立した背景・経緯をお聞かせください。

妹尾:企業がいざ経済安全保障に取り組むとなったとき、現実には「どの情報を信じて、それに対してどういう具体的なアクションをしていけばいいのか、なかなか分からない」という状況に直面します。そのため企業は、信頼できる情報の提供と具体的な対策についてアドバイスをしてくれる、伴走型のパートナーを求めようになりました。特に最近は、クライアントの経営層から経済安全保障に関連する話題が上ることも増え、取り組み方に悩む企業が非常に多いことも実感していました。

そうした企業のニーズに対応するために、電通総研は経済安全保障の取り組みを支援するための組織としてDCERを新設しました。日本企業に対して単に情報を提供するだけでなく、個別の課題にまで伴走できる立場を築くというのが設立の目的です。従来のシンクタンクのように情報提供と実行が分かれるのではなく、当社のコンサルティングやシステムインテグレーションの機能を生かし、具体的な施策の実行まで落とし込めるという点も、DCERの大きな強みです。

──企業が経済安全保障の仕組みを導入する際には、どのような点に留意すべきでしょうか。

伊藤:企業が経済安全保障の観点から制御すべきリスクは、大きく分けて三つの要素に集約されます。

一つは「自律性の確保」、すなわち自社のサプライチェーン(供給網)をいかに強固なものにしていくかというものです。例えば、レアアースの問題が米中間で発生した際、日本企業も大きな影響を受けました。実は20年12月に中国が輸出管理法を施行した時点でリスクの兆候は顕在化していましたが、その時点で動けた企業と動けなかった企業とで影響の回避に差が生じています。二つ目は「不可欠性の確保」です。これは、その企業にとって重要で、かつ世界から求められる技術やビジネスモデルを確立し、その重要な情報を外部に「漏らさない」という対策です。そして三つ目として、情報漏えい対策に関連した「サイバーセキュリティ」が挙げられます。これらの三要素が、企業が経済安全保障リスクマネジメントを導入する上での中核的な留意点となります。

妹尾:三要素の中でも重要なのが、「サプライチェーン途絶」に対するリスクヘッジだと考えています。国や地域ごとに複雑化する規制の差異にどのように対応し、リスクを最小化するかが、経営者が意識すべき重要なポイントです。

伊藤 隆氏:電通総研 経済安全保障研究センター 副センター長 1986年 三菱電機入社。2020年から民間企業で初めて設置された経済安全保障専門部門の責任者、経済安全保障統括室長を務め、23年執行役員に就任。25年役員任期終了に伴い同社を退社し、当センター副センター長に就任。複数の民間企業や法律事務所での顧問を務めるほか、日本政府にもアドバイザーとして加わる。


企業の経済安全保障対応を“攻め”と“守り”で支援

──リスク管理と成長戦略を両立させるために、企業はどのようにして情報収集や分析を行えばいいでしょうか。

伊藤:企業には既存のリスクマネジメント体制があるにもかかわらず、経済安全保障となるとなかなかうまく運用できないという相談も寄せられます。伝統的なリスクマネジメントは、現場が直面するリスクを定量化して意思決定を図る仕組みですが、経済安全保障では時間軸、確率論、影響度のいずれも不確定な要素が多いため、リスクを定量化して測定しにくいという課題があります。まして、経済安全保障は成長戦略の阻害要因とみなされることすらあります。その結果、既存のリスク制御の仕組みに乗りにくく、担当部門がいくら進言しても経営層に届かないという問題が発生しがちなのです。

当センターでは、従来のリスクマネジメントに拡張要素を与えて経済安全保障にも耐えられる新たなリスクマネジメントの方向性を編み出すことを提案しています。情報収集の段階からリスク制御の施策完遂、その結果をフィードバックしてPDCA(計画・実行・評価・改善)サイクルを回せるようにすることが、リスクと成長戦略を両立させるための要点です。

──DCERでは具体的にどのような支援を行っていますか。

妹尾:シンクタンク、コンサルティング、セキュリティソリューションを含むシステムインテグレーションという三つの柱で企業を支援しています。

起点となるシンクタンク機能では、伊藤副センター長をはじめとする研究員が各国の政策・規制、サイバーセキュリティの「解釈」といった専門分野ごとの情報を分析し、それを「先読み」して発信していきます。公にする情報と、クライアントに対してのみ提供する情報を意識しながら、当社独自のネットワークによる情報を企業視点で提供できることがDCERの優位性です。

コンサルティング機能では、企業実務の側面からサプライチェーンなどのリスクを抽出し、具体的なリスク低減活動を支援します。企業が普段行っている業務プロセスや仕事の流れに、経済安全保障のリスク低減観点を差し込んでいくことで、コストをかけずに具体的に伴走型の支援を行うことが特長です。企業からはサプライチェーンの断絶や規制対応の影響の見える化、リスクアセスメントについての相談が多く、必要なデータの棚卸しができていない場合は当社のツールを用いてデータの構造やプロセスをデジタル上で再現してアセスメントを行い、最終的に経済安全保障の観点でリスクアセスメントを作成・実行するところまで支援します。

セキュリティソリューションを含むシステムインテグレーション機能においては、サイバーセキュリティ施策について、ソリューションの導入から立ち上げ・運用まで一気通貫で支援します。

──DCERの今後の展開についてお聞かせください。

伊藤:企業の経済安全保障やリスクマネジメントにおける課題の多くは現場にありますが、経営者が意思決定をする上でどんな情報を欲しているのかを明確にイメージできる人が少ないという問題があります。また、経営者自身も自分がどんな情報を必要としているのかを語れないことがあります。そのため、当センターではクライアントに伴走してコンサルティングを行うことが重要だと考えています。私たち自身も実際にその企業で起きていることを学び、解決をお手伝いする活動から企業との信頼関係を醸成し、DCERの手法を確立していきます。

妹尾:特にシンクタンク機能の強化・拡充を図り、リサーチ能力や先読み能力の向上を進めていく方針です。また、現在はまだ一部領域に限定されたコンサルティングメニューやセキュリティソリューションについても、国内電通グループ(dentsu Japan)各社との協働も含め、実行策を拡充していきます。繰り返しになりますが、経済安全保障はコストではなく、企業競争力の源泉です。“攻め”と“守り”の裏表一体で進めていくことで、企業の持続的成長を図っていただきたいと考えています。

※掲載されている情報は公開時のものです

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著者

妹尾 真

妹尾 真

株式会社 電通総研

取締役

グループ会社アイティアイディ(現在は電通総研に吸収合併)の代表取締役社長、執行役員、上席執行役員などを歴任し、2024年3月に電通総研の常務執行役員に就任。26年3月より現職。dentsu Japan DXプレジデントも兼任する。

伊藤 隆

伊藤 隆

株式会社 電通総研 経済安全保障研究センター

副センター長

1986年 三菱電機入社。 2020年から民間企業で初めて設置された経済安全保障専門部門の責任者、経済安全保障統括室長を務め、23年執行役員に就任。25年役員任期終了に伴い同社を退社し、当センター副センター長に就任。複数の民間企業や法律事務所での顧問を務めるほか、日本政府にもアドバイザーとして加わる。

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