感覚的判断を排して科学的なアプローチを
南:日本のサービスというと、近頃は「おもてなし」という言葉を連想します。日本のサービスの強みは何でしょうか。
北川:海外で理解されるためには、「おもてなし」というふわっとした表現を要素分解して詰めていく必要があると思います。例えば、誠実さや親切、繊細さ。それと顧客対応や業務の速さ、時間の正確さも、おもてなしの質を大きく左右します。特に店舗の清潔感は、海外進出で成功している小売系の方々が100%口にする点です。
南:競争力にさらに磨きをかけるためには何が必要でしょうか。
北川:うちのサービスは絶対受け入れられるはずだと「日本式」にあぐらをかいていては失敗しかねません。現地のサービスとの相対比較は欠かせません。感覚的な判断ではなく、あくまで科学的な検証やアプローチが大切です。サービスの価値とは他のサービスと比べたときの「お得感」であり、決して絶対値ではありません。単純な価格ではなく、そのお得感の高さが日本のサービスの強みです。ただし、先にも触れたように、日本のサービス業、特にBtoCの海外進出が本格化したのは2000年代からで、製造業に比べ歴史が浅い。日本ならではの強みが評価として定着するには、20~30年はかかるかもしれません。ユネスコ無形文化遺産の和食にしても、ユニークなアイデアを誇る外食産業にしても、あるいは革新的なビジネスモデルを持つコンビニや理髪業にしても、現地で台頭する競合に勝ち続けていくためには進化し続けなければなりません。
支援体制の構築はサービス産業への理解から
南:今後、どのような業種の海外進出が増えていくと見ていますか。
北川:飲食と小売りの勢いは止まらないと思いますが、加えて、コインパーキングや貸しオフィス業など、「おやっ」と思う業種が成功を収めるケースも出てくるでしょう。BtoBでありながら、その先にCもある。いわばBtoBtoCビジネスですね。課題としては、なんといっても、グローバル人材の確保です。現地の社長を決めるとき、手を挙げる人がまだ少ない。現地の人材の定着率を高めることと、育成システムの確立も避けて通れません。また、進出企業への金融支援についても新たな発想が必要です。サービス業は中小の事業者が多く、メーンバンクが地域金融機関のケースが一般的です。しかし、 そこに海外市場に詳しい担当者が少ない。製造業と違って、融資の際の物的担保がとりにくい側面もあります。結果、金融機関が消極的になり、意欲ある経営者の夢の実現が難しくなってしまう。JETROでは今、金融機関からの出向者を受け入れ、海外ビジネスへの理解を深めてもらっています。
南:今後の外貨の獲得手段を考えた時、サービス産業への理解の深化が必要ということですか。
北川:日本の就業人口は今や7割以上がサービス産業です。ところが、マスメディアでも、いまだに製造業中心の議論が行われています。日本経済をけん引するサービス業を強化していかないと、次世代に影響が出かねません。金融、メディア、そして教育界も含めて、意識改革と支援体制の仕組みづくりが必要だと思います。