アンドリュー:Cinderは「業務上の必要性」から生まれました。開発当時、私はバーバリアン・グループでRobert Hodginと勤務していました。彼はProcessingには長けていましたが、C++での開発経験はありませんでした。そこでCinderでは初め、Robertにとってつくりやすい環境を整備していました。
しかし同時に、ビジネスで納品物をつくるときのコードの最適化を簡単に行おうともしていました。私は高校生のときから、Hai Nguyenと共にC++のライブラリー(よくある処理を楽に行えるよう、あらかじめ用意されたコードのこと)をいじっていました。Hai Nguyenは現在グーグルにいて、Cinderコミュニティーに今も多大な貢献をしてくれています。
彼と私が映像業界でテクニカルディレクターとして働いていたときに、このライブラリーを発展させていきました。
VFX(Visual Effectsの略。コンピューター処理を用いた映像の特殊効果のこと)用につくっていたライブラリーにクリエーティブ・コーディングの考え方を取り入れ、結果、完成したのがCinderです。
木田:最近ではAIをはじめとして、いろいろな新技術のトピックが出てきています。テクノロジーとクリエーティブの間にいる人間として、今気になっているトピックは何ですか?
アンドリュー:今、没頭しているのが、クリエーティブ・コーディングの仕事にデザイナーを連れてくることです。今までクリエーティブ・コーディングの仕事では、クリエーティブな部分はプログラマーが担当していました。なので、開発者がテクノロジーとクリエーティブの両方に責任を持ち、まるでバンドを一人で仕切っているような状態でした。Cinderはこの状況を打破し、プログラマーが、プログラミングのできないデザイナーと協力できるようにつくりました。よって、ProcessingやopenFrameworksではデザイナーへの教育が行われていましたが、Cinderは教育を追求はしてこなかったのです。
私が今わくわくしているのは、デザイナーがビジュアルに、プログラマーがプログラミングに専念し、分業できるツールをつくること。一人のプログラマーができることより、両者が協力してできることにずっと興味があります。この考え方がCinderを生む背景にあり、またRare Volumeの考え方の土台ともなっています。
木田:今、つくりたいものを教えてください。
アンドリュー:Rare Volumeは既に誇れる仕事をしていて、皆さんに公開できる日が待ち遠しいです。Cinderをクラウドコンピューティング下(インターネットなどを利用して、どんなパソコンからでもサービスが利用できる状態)で走らせていて、この仕事はわくわくするようなイノベーションにつながっていくと思います。例えば、テレビ番組が始まるときに流れるタイトルデザインなどに応用できるでしょう。
ただ、デザインとコーディングを掛け合わせていく探求はまだ始まったばかり。会社としても産業としてもまだまだなので、この探求の進むことが一番楽しみです。
木田:アンドリューさんのキャリアからCinderの歴史まで、一つ一つ答えてくださりありがとうございました。
【取材を終えて】
テクノロジーをブラックボックスにせず、積極的に異能を取り入れる
アンドリューさんの話を聞いていて面白かったのは、Cinderの利用者をプログラマーだけにとどめなかったことです。「分業」を視野に入れ、コードの書けない人も参加できるよう目指していました。
プログラミング環境をつくるだけでなく、そのプログラミング環境がいったいどういうふうに使われるのか、使われるべきなのか、ということも含めての設計。テクノロジーを使って何か新しい表現をつくろうとする際、分からないからブラックボックス化するのではなく、積極的に「異能の持ち主」を招き入れて試行錯誤できるプロセスをつくり上げることが、成功への鍵なのだと感じました。
この記事のフルバージョンはこちら