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公開日: 2023/05/16

今話題の「GPT-4」と「ChatGPT」。AIが変えるマーケティングの未来予想図とは?(後編)

今、世間で話題沸騰中のAI「GPT-4」と「ChatGPT」。人間が出した指示文や画像に従って、さまざまな文章を生成してくれるサービスです。コンピューターが発する言葉とは思えないほどの精度とクオリティーでのアウトプットが可能なこの技術は、私たちの暮らしや社会をどう変えていくのでしょうか。

株式会社電通デジタルの山本覚氏と、アグチバヤル・アマルサナー氏へのインタビュー後編では、「GPT-4」や「ChatGPT」などのAIがマーケティングの世界にもたらす変化を中心に、話を聞きました。

AIがアイデアを引き出すきっかけを作ってくれる

Q.インタビュー前編では、「ChatGPT」を用いて個人の分身キャラクターが、本人に代わって他者からの質問に答えるメディアが誕生するのではないかというお話を伺いました。それ以外には、どんな場面でこのAI技術が生かされるとお考えですか?

山本:既に現時点で、AIがファシリテーターとして人間同士の会話に介在するというところまでは来ています。ファシリテーターが発した言葉によって、インタビュイーの会話が活性化することは往々にしてあることです。そう考えると、インタビュイーが自分でも忘れていたような過去の経験、思想をデータとして持っているAIは、ファシリテーターとしては人間以上に、とても良い投げかけをすることができるかもしれません。

実際、あるSNSで「こういう投稿をすると、エンゲージメントがどれくらいになるか」を予測する機能は既にありますし、インタビューでこういう質問をしたら、あと何回会話のキャッチボールが続くかということも、予測可能だと思います。そうなると、会話のキャッチボールの回数が低いと思われる場合は、「盛り上がらなそうな会議には、1台AIを置いておこう」ということが当たり前のようになっていくかもしれません。AIが投げ掛けた質問によって会話が弾み、いいアイデアが引き出される可能性が高くなるからです。

株式会社電通デジタル 山本 覚氏

アマル:私たちがこれまでやっていた機械学習とは全く意味合いが違う時代になってきていますよね。以前なら、自分が作ったAIモデルに何かを尋ねたり、相談したりすることはありませんでしたが、今では普通にいろいろなことをAIに聞いていますから。

山本:データ量が増えるのに伴って、出てくる情報の精度が上がるというだけではなく、データに基づいて「ちゃんとものを考えられる」というのが、AIが持つ大きな特徴であり、メリットでしょう。

AIがコンシェルジュのように人に寄り添う存在になる

Q.今後、「GPT-4」や「ChatGPT」などのAIがマーケティングの世界にどんな影響をもたらしていくと予測していますか?

山本:今、芸能人が「これを使ったら肌がきれいになりました」と商品を薦めているようなプロモーションがありますよね。それと同じように、将来はメタバースの空間で、つくられたキャラクターがお薦めの商品を自然な会話の中で教えてくれる、といったことは、もう近いうちにできるようになると思います。既に技術的には可能で、後はアバターの動きをより自然なものに仕上げていくなど、動きの生成的な面の向上に期待がかかっています。

企業のデジタル広告やオウンドメディアも近い将来、明確に変わっていくでしょう。広告が消費者にメッセージを届けるというのではなく、消費者が広告と「会話」をして、その中から商品購入に誘導する、というようなスタイルのものも出てくると考えられます。その人が必要な情報だけを取り出せる、その人向けに最適化されたコンテンツをサッと提示できるような世界観。消費者自身がAIとの会話を通して、欲しいものを得られる確率を上げていくというイメージです。

アマル:私は、データがもっと意味的な文脈でつながっていくだろうと思っています。私はモンゴル出身なのですが、知人から時々「モンゴルに行くことになったけど、防寒具は何を着ていけばいい?」と聞かれることがあって。とりあえず「寒いよ」とは答えるものの、気温も湿度も低いので、日本で体験する寒さとは質が違うんです。

ですから、「寒さの違い」も含めてベストな回答をするのが私には難しいのですが、それをAIが判断してくれるようなサービスが近いうちに普通になるのではないかと考えています。例えば、ECサイトなどで防寒具を検索すると「モンゴルに行くならこれがいいですよ」とか「ノルウェーは雪の質が違うので、これはダメだと思います」といったように、ニーズや利用シチュエーションも汲み取っておすすめを教えてくれるような感じですね。

株式会社電通デジタル アグチバヤル アマルサナー氏

Q.まさに有能なコンシェルジュのようにAIを使う日は、そう遠くないかもしれないですね。そうなった場合、メーカーは具体的で深いニーズに応えられるような商品を作らないと、AIに推薦してもらえないかもしれませんね。

山本:商品自体もそうですが、商品の伝え方の工夫でも変わってくると思っています。伝え方の面でもAIを活用することはもちろん可能で、例えば広告のキャッチコピーや記事なども、「GPT-4」を使えば効果の予測をしながら、より閲覧数が伸びる書き方や、反応がいい表現などに修正していくこともできるでしょう。こっちのメッセージの方がいいんじゃないかというのを、「GPT-4」が判断して世の中に出していくことも十分にあり得ます。

それに、「GPT-4」はあくまで言語に特化したAI技術ですが、記事のレイアウトの生成についての研究も進められており、分かりやすいレイアウトをAIが作ることもじきに可能になるでしょう。「GPT-4」にHTMLのタグを付けながら記事を書かせることができるので、Webページとして効果が出やすいレイアウトを組んで、それに合わせて「GPT-4」が文章を書くという世界は、もうすぐに実現すると思います。これからはAIが記事執筆だけではなく、レイアウトまで含めて行ってしまうのが普通、ということになるのではないでしょうか。

また、近い将来、「ChatGPT」を用いて個人の分身キャラクターを持つようなメディアが実現したら、そのブランディングやキャラクター作りというのが重要なアジェンダになりそうですよね。そこは電通グループには得意な領域かもしれません。誰もがAIを簡単に使えるようになれば、それなりのアウトプットが溢れるようになります。だからこそ、「AIが当たり前になった時代に何を作り出せるのか」を考えるクリエーティビティがとても重要になるのではないでしょうか。そういう意味では、私たちはその時代やコミュニケーション環境の中で、一貫してクリエーティビティとは向き合ってきており、これからの時代においてもいろんな役割を果たせるのではないかと思っています。

私たちも、AI技術を活用し、マーケティング課題はもちろん、企業課題を超えた社会全体の在り方をより良い方向に変えていく、ということを目指していきたいです。社会の在り方を考えるということは、当然ながらそれを生み出している生活者1人ひとりのライフスタイルの変革を支えていくことであり、1人ひとりの困りごとを解決していくというゴールなのではないかと思っています。

 


 

次々と新しい技術が開発され、世の中を驚かせているAIの進歩。日常生活への影響はもちろんのこと、ビジネスにいち早く取り入れてうまく活用することで、次のステージが見えてきます。AIは可能性に満ちた領域であることは言うまでもないでしょう。

※掲載されている情報は公開時のものです

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著者

山本 覚

山本 覚

株式会社 電通デジタル

東京大学松尾豊教授のもと人工知能(AI)を専攻。2013年にデータアーティスト株式会社を設立し、2023年に電通デジタルと合併・参画。AIとビックデータを活用し、広告の自動生成、広告効果の予測、CROやSEOなど、多数のデジタルマーケティングサービスを提供。テレビ番組をはじめとしたメディアへの出演や、企業・大学などでのセミナー登壇も多数。主な著書「売れるロジックの作り方」(宣伝会議)、「AI×ビックデータマーケティング」(マイナビ出版)など。

アグチバヤル アマルサナー

アグチバヤル アマルサナー

株式会社電通デジタル

モンゴル出身。東京大学松尾豊研究室でデータマイニング専攻。データ&AI部門ではエグゼクティブディレクターを務めながら、子会社である電通データアーティストモンゴルも統括。元国際数学オリンピックメダリスト。

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