カテゴリ
テーマ
公開日: 2023/08/31

AIでクリエーティブは無限に?「AI」×「人間のアイデア」で生み出す、これからのクリエーティブ(後編)

株式会社電通デジタルがリリースした「∞AI」(ムゲンエーアイ)は、デジタル広告などの作成時において、「訴求軸の発見」「クリエーティブ生成」「効果予測」「改善サジェスト」のプロセスにAIを活用するという、新しいサービスです。

デジタル広告運用のレベルを上げるのはもちろんのこと、クリエーターの発想にヒントを与える役割も果たすものとして注目されています。前編に引き続き、「∞AI」の開発に携わった、電通デジタルの和田純一氏に登場してもらい、「∞AI」を通して考える、クリエーターや広告業界の未来などについて、話を聞きます。

クリエーターには、本質を捉えたディレクション力が求められる

Q.前編でも少しお話いただきましたが、広告分野でのAIの活用は、クリエーターにどう影響を与えていくと考えていますか?AIでできることが増えていく度に、「クリエーターの仕事が奪われる」といったような話も耳にしますよね。

和田:AIで何かを生成するには、目的に合ったデータを読み込ませたり、テキストで指示を出したりする必要があります。どんなデータを使うのか、どんな言葉で指示を出すのかという部分が、成果物に大きく影響を与えるのです。つまり、いわゆる「ディレクション能力」が大きく問われることになります。それに、AIはたくさん案を出しますが、その中からこれというのを選ぶのはやはりディレクターの仕事ですよね。

クリエーティブディレクションも、アートディレクションも、もしかしたらプロデュース作業も含まれるかもしれませんが、ディレクションの役割は非常に大きい。だから、こうした能力があるクリエーターは、今後も引き続き必要とされていくと思います。

効果の高いアウトプットを出そうと思ったら、ユーザーのインサイトをしっかり見つけないといけないし、クライアント企業の情報を常にキャッチアップして、求められているものを理解しないといけない。いわば、本質を見抜く力というものでしょうか。それは、現状のAIだけでは突破できない領域ではないか、と私は思うのです。

本質を見抜いた上で、どう言葉に落とし込んで、ビジュアルとして何を見せればいいのかを考えられる人が、これからはより重宝されるのではないでしょうか。これまでも、そういう人が成果を上げることが多かったように思いますが、一層その部分が重視されて、原点回帰していくようなイメージですね。

株式会社電通デジタル 和田 純一氏

Q.逆に、AIがあるからこそ、クリエーターになれる人も出てくるのかなという気がしますが、その点はいかがでしょうか?

和田:確かに、それもあり得ることだと思います。優秀なクリエーターになるには、教え方のうまい師匠に巡り合うとか、さまざまな経験を積むとか、チャンスをつかむとか、いろいろな条件があるのだと思いますが、目の前のチャンスが広がるという点で、AIを活用するメリットは大いにあると思います。

話題の生成AIなどを使えば、対話によって自身のアイデアを深めたり、発想の転換ができたりするような環境になっていますから、それをうまく使いこなして、AIのサポートを得ながらクリエーティブを磨いていくことはできると思います。クリエーターの可能性を拡張することはもちろん、もっと言えば、クリエーティブに従事していない人たちのクリエーティブの可能性を拡張することも、AIによって実現できるかもしれません。AIをパートナーにして、より良いものを作るクリエーターが増えていくのではないでしょうか。

人間にしかない「物語」を見せることが、価値になっていく

Q.「∞AI」のようなAIソリューションを進化させていくことはもちろんですが、これから必要とされるクリエーターを育てることも、非常に重要になりますね。

和田:そうですね。先ほどもお話ししたように、本質を捉える力を重点的に育てていく必要があると思っています。私は、テクノロジーの革新が起きるたび、本質的な価値が求められていることを実感しています。

ある有名将棋棋士が語った話が、個人的にすごく好きで。「今、将棋の世界はAIの方が強いと言われている。かつては『強いこと』が棋士の存在価値だったが、AIの方が強くなってしまった状況下で価値とされるのは、『それぞれ異なる背景を持った人間VS人間の対決』の物語である」という話です。棋士がそれぞれに別のものを背負っていて、これまでの道のりがある中で、悩みながら駒を指していく。だからこそ盤上に1人ひとりの人生の機微が表れて、そこに人は魅せられるのだと。

スポーツに例えても分かりやすいかと思います。どんな試合だって、機械同士が淡々と動いているのを見ても、興味をそそられる人はきっと少ないのではないでしょうか。肉体と精神を持った人間同士が戦うからこそ、見たくなるし、感動してしまう。人々は、スポーツで得点を取ることに熱狂するのではなくて、これまでの努力とか、物語がある選手が得点するから熱狂するのではないかと思いますし、そういった感動を作ることができるのがクリエーターなのだと思います。

話を戻すと、クリエーティブの価値は、やはり人間が生み出すアイデアだと思います。これまでに積み上げてきた経験から得た思考や価値観から生まれるアイデアがものを言う。そういう部分にクリエーターの価値が残るのだと思います。

「∞AI」を開発するにあたって、当初はクリエーターの仕事を奪うソリューションを作ることになるのではないかと思ったことも確かにありました。でも、クリエーターの本当の価値は別のところにあるはずだと信じて、やってきました。

Q.「∞AI」に関して、これから考えている展開はありますか?

和田:動画の生成にチャレンジしていきたいと考えています。AIが動画広告を生成する未来はあると思いますし、既に技術としては存在しているのですが、実用化までには至っていない、というのが現状です。動画生成の場合もテキストで指示を出すのですが、映像にしたい事柄の全てを、言葉によって指示するのはとても難しい。だからこそ、思ってもみなかったような作品が出来上がる可能性もありますけどね。

思った通りに作ることができるようになるには、もう少し時間が掛かることでしょう。でも、さほど遠くない未来に実現できるかもしれません。いろいろな可能性を視野に入れて、限界を決めずに挑戦し続けていきたいですね。

 


 

AIの進化で多くの職が取って代わられるのではないかという危機感が、少しずつ世の中に芽生えてきている昨今。そこであらためて問われるのは、物事の本質です。同じ仕事でも、そこに本質を捉えた人間ならではの感性やアイデアを乗せることができれば、AIと共存しながら自分の価値を高める働き方ができるのではないでしょうか。

※掲載されている情報は公開時のものです

この記事は参考になりましたか?

この記事を共有

著者

和田 純一

和田 純一

株式会社 電通デジタル

大手ネット専業広告会社にてウェブディレクターとして、ウェブサイトの構築・運用のプロジェクトマネジメント、およびGoogle Analytics等を活用したアクセス解析コンサルティング業務を推進。2014年ネクステッジ電通に移籍、ウェブアクセス解析、LPOツール、DMPツール、ユーザーテスト等を活用したCRO(コンバージョンレート最適化)コンサルタントとして活躍。2016年アドバンストクリエイティブセンターに立ち上げより参画し、ダイレクトクリエイティブのプランニングからPDCA、AIを活用したクリエイティブソリューションの開発を推進。2023年より現職に従事。

あわせて読みたい