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AIを活用したデザインシステムによるDesignOpsの強化

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この記事は、frogが運営するデザインジャーナル「Design Mind」に掲載されたコンテンツを、電通BXクリエイティブセンター 岡田憲明氏の監修でお届けします。

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DesignOps(デザインオペレーション)とは、組織内でデザイン業務を効率的かつ効果的に進めるための機能やチームのことを指します。

本記事では、エージェント型のデジタルプロダクトデザインへの移行を進めながら、次世代の組織パラダイムに対応するために重要な、DesignOpsの強化の仕方について解説します。



将来に向けて安定した基盤を築くために、 デザインとDevOpsモデルを再設定する

新型コロナウイルス感染症の世界的流行を経た現在の世界は、不確実性が高く、企業内のデザインチームに投資価値の証明を求める圧力が強まっています。

具体的に言えば、新たな形態の価値を素早く見きわめ、現代の成功指標に表れる成果を挙げなければならない、そして、それをできるだけ少ない労力で実現する必要があると、チームリーダーたちは感じているのです。幸いなことに、新たなテクノロジー(プロダクトデザインにおけるAI活用など)の出現により、リーダーたちにはその責務を果たすだけでなく、周囲の期待を上回るチャンスさえ生まれています。

とはいえ、デザインチームのリーダーは、さまざまな難しい課題に立ち向かわなくてはなりません。例えば、組織内の部門の壁をいかに乗り越えるか、時代遅れのテクノロジーによる負債にどう対処するか、将来への「賭け」と過去のやり残しのバランスをとりながら、それぞれに合ったペースでいかにイノベーションを進めていくかといった課題です。

しかし、こうした企業変革の厳しい現実を乗り越えなくてはならないのは事実としても、そこには、すでに確立されたデザインとDevOps(デブオプス)(※1)のモデルを設定し直すことで、将来に向けてさらに安定した基盤を築くチャンスがあります。

生成型人工知能(生成AI)とデザイン用・開発用のプロダクションツールの急速な進化のおかげで、デザインチームはワークフローを自動化し、クリエイティビティを拡張し、DesignOpsの基本的な目標(詳しくは こちらを参照)を達成することが可能になっています。AIを活用したデザインによって、人員削減と社内能力の合理化を実現しながら、市場投入までに要する時間を短縮できる可能性があるのです。

※1 DevOps(デブオプス)=開発(Development)と運用(Operations)の連携を強化し、ソフトウエア開発と運用のプロセスを統合する考え方や手法のこと。



イノベーションの波を乗り切るための指針

世界中のデザインチームのリーダーがデザインとDevOpsの機能の効率化を進め、デザインに新しい形態の価値を生み出そうとしています。そんな状況の中で、frogでは、将来を見据えた戦略に重点を置いたクライアント支援が増加しています。

frogによく寄せられる質問

  • デザインとDevOpsに関する取り組みを、程よい規模で一定のインパクトを出せるように進めるにはどうすればいいか?
  • 日常業務と将来を見据えたイノベーション業務を、チームメンバーにどのように配分すればいいか?
  • チームが進化していく中で、最も重要な能力やスキルは何か?
  • デザインプロセスの中で、自動化したりAIで拡張できたりする部分はどこか?
  • この新しい状況の中で、当社のデザイン言語システム(DLS)(※2)はどのような機能を果たすか?効率化を実現するために短期、中期、長期的にできることはそれぞれ何か?

frogでは以上のような質問を念頭に置き、この機会を利用して、ミラノにあるグローバル・イノベーション・チームで一連の「未来シナリオ」について検討しました。これが貴重な学びとなり、DesignOpsの領域における将来の課題に直面しているクライアントにメリットをもたらす大きな可能性があります。

DLSが(生成AI、デザイン自動化、エージェント型顧客体験[CX]の文脈において)短・中期的に、DesignOpsのバックボーンであり続けると想定して、最後のDLSに関する質問に焦点を当てることにします。なぜなら、その答えを考えることが、人間が織りなすあやと、それを取り巻く役割や責任を問い直すことにつながるからです。

※2 デザイン言語システム(DLS)= Design Language System。ブランドやプロダクトの一貫したデザインを実現するためのルールやガイドラインの体系のこと。



見えてきたシグナルを読み解く

デザインプラットフォーム「Figma」は、AIを活用したトークン指向のプロダクトデザインプロセスの構築へと進化し、アプリ開発ツールの「Replit」「BOLT」「Glide」は構想からビルドまでのプロセスのノーコード化を実現しました。さらに近年は「Adobe Firefly」「Midjourney」「Sora」といった生成型コンテンツ制作ツールが次々と登場しています。私たちはこのような状況の中に、AIを活用したインテリジェントなデザインシステムを基盤とする近未来のプロダクトデザインプロセスが埋めることのできる隙間を発見しました。

私たちは未来シナリオの検討を始めるにあたって、デザインプロセスへのデザインシステムの組み込み方を考え直すことは可能だという仮説を立てていました。最初の検討段階でのインスピレーション主導のプロセス(ムードボード、ビジュアルの方向性、スタイルのガイドライン、ブランド表現)を結合して、コアコンポーネント(※3)に適用するプロダクト基盤の検討を進め、開発プロセスの初めの数段階を自動化すればいいと考えたのです。

ここで、「構想からDLSへ」について少し考えてみましょう。
もしワークフローが短くなって効率も高まり、予想もしなかった結果を生み出すとしたら、そのワークフローを使うチームは、いったいどのような影響を受けるでしょうか?

※3 コアコンポーネント=システムの基盤や中心を成す、重要な部品や要素のこと。
 

・プロジェクトの経緯
私たちはfrogのデザイン言語システム Metachrosis DLS を基礎的なインプットとし、「Figma」をメインプラットフォームとして使用しました。その上で、AIがマルチモーダルの感覚的な意図やコンテンツをリアルタイムで処理し、すぐに使えるデザインに変換できるようにするには、システム内のデザイントークンをどのようにエンコードすればいいかを探りました。

「Figma」のアーキテクチャ内のプラグインを試作し、テキストや画像をデザイン指示に変換できる検証用プロトタイプを作ってみたところ、ワークフローを効率化できる可能性と、改善の余地がある部分の両方が明らかになりました。プラグインへの入力画像に特定の方向性のある微調整を加えると、DLSの出力結果にリアルタイムで影響し、ブランド調査に関わる反復的な改良や検討がシステムレベルで可能になります。

この入力と出力の間の反復的なサイクルが、デザイン指示のニュアンスや変数の継続的な検討の出発点となります。

このプロトタイプ内のローカライズされた「トークンからデザイン言語まで」の生成スクリプトは、あるブランドに特化された対象範囲の狭い言語モデルの代替物とみなすことができます。このモデルが将来のブランドとそのデザインチームや開発チームを動かすエンジンとなり、その時々の状況やユーザーからの情報に応じてダイナミックに進化し、変容していきます。

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・将来のワークフロー
このfrogの社内プロジェクトは、次世代のコンピュータ支援プロセスに広く見られるであろういくつかのテーマを例示するものとなりました。例えば、「AIを入力・出力の両方に使用するAIツールの実験的構築」「共同著作権の調整」「AIとの共同キュレーション」「AI APIを使用する上での制約」、そして究極的には、「DLSトークンを『AIフレンドリー(AIが理解・活用しやすい形に整備すること)』なものにするための戦術的な課題」などです。

さらに、frogの各種のプログラムの日常業務においても、プロトタイプによって確認されたパターンの傾向が見られました。そこでは、ブランド表現やプロダクト表現のさまざまな面でDLSが担う役割が広がり、チームの構成がデザイン分野で過去数十年にわたって確立されてきた規範から外れ始めるのです。


「何が」ではなく、「いつ」起こるかの問題

frogのクライアントの多くは、メンバーの専門分野や経験年数、職務レベルを考慮してチーム作りをしていますが、今後はチームメンバーの特性が、イノベーション意識やプロダクトのライフサイクルそのものにもっと直接的に関係したものになっていくと私たちは予測しています。

つまり、チーム編成において典型的に用いられる確立された分類や役割(プロダクトデザイン、サービスデザイン、インタラクションデザイン、ビジュアルデザイン、ユーザー体験/ユーザーインターフェース)は、概して各メンバーがプロダクトの構築と展開における自分の役割をどうとらえるかに応じて変化していくのです。

これらのカテゴリーを軸線上に置いてみると、「全般的」と「個別的」の間のどこかに当てはまります。全般的な役割とは「水平的」で、複数の領域にまたがり、チーム間(ブランド、マーケティング、プロダクト、サービスの各部門)を結びつける役目があります。個別的な役割とは逆に「垂直的」で、特定の領域に絞った専門的な仕事をし、プロダクトの精度を高め、加速させる役目を担います。

[全般的な役割]
進化を続けるDesignOpsチームは複数の全般的な機会領域をカバーできますが、優先的に注力すべき重要な領域として次の2つがあります。

プロダクト戦略とリサーチ

  • 戦略的な「賭け」に出るべき新規の、または変化が起きているプロダクトの機会領域を探す。
  • 顕在化しつつある消費者行動を調査し、戦略的コンセプトを立案する。
  • 現状の業界トレンドやマクロトレンドからインサイトを分析・生成する。
  • フューチャープルーフ型の製品やサービスのロードマップを策定・キュレートする。


デザインシステムの管理と自動化

  • 特定のブランドを支援するための専用AIモデルを維持管理、改良、キュレートする。
  • ブランド、マーケティング、ビジネスの各部門と協力しながら、上記モデル内でブランドの属性と表現を共同開発する。
  • アセットインベントリとプロダクト横断アプリケーションのレポジトリ・ライブラリアンとしての役割を果たす。
  • プロダクトポートフォリオ全体にわたって、プロセス機能のツール化・自動化を進める(ノーコード指向のプロトタイプ制作プロセスに直接組み込む)。


[個別的な役割]
全般的な役割を担うメンバーのほかに、特定分野の専門知識を持つチームメンバーが加わることで、チームはさらに強化されます。このようなメンバーは、一つまたは複数の領域のデザインとテクノロジーを組み合わせて、プロダクト独自の特性を作り上げていきます。

プロトタイプ作成と構築

  • 業界に新たに生まれつつあるニーズに基づいて、顧客体験、フロー、機能コンセプトを設計し、進化させる。
  • 上記のフローや機能に基づき、DLSのブートストラップ機能、ノーコードのプロトタイプ作成、手作業による微調整を組み合わせながら、迅速にプロトタイプを作成し、プロダクト体験を構築する。
  • 構築した機能をエンドユーザーと共に繰り返しテストし、検証する。
  • プロダクト体験の完成とリリースに向けて、開発部門と協調しながら、十分な量の詳細なデザインを提供する。


プロダクトの改良

  • データ、分析、リアルタイムのテストを通じて、プロダクトのパフォーマンスとその低減を継続的にモニターする。
  • プロダクトパフォーマンスのシミュレーションとABテスト用として、自動化とスケーリングが可能な評価モデルを構築する。
  • プロダクト最適化のためのマイクロ介入策をデザインし、開発する。
  • プロダクションプロセスにフィードバックするインサイトを他部門向けにレポートし、文書化する。


以上の役割や責任業務の種類はDesignOpsの世界においては目新しいものではありませんが、今後数年の間に、デザイナーとして働く少なからぬ人々が削減される可能性があると私たちは予想しています。さらに重要なこととして、そうした業務を管理するための労力が圧倒的に少なくなるでしょう。全般的な役割と個別的な役割との間にあるどこかの業務領域を担う一人の担当者が、実効性のある最小限のDesignOpsチームの起点になる可能性もあります。

人材評価のあり方は専門分野重視から実際的な能力重視にシフトしつつあり、そこには、イノベーションはプロダクトのライフサイクル全体にわたって生じるという基本的な想定と期待があります。さらに、個々人がスキルを身につけ、応用するためのプラットフォームも拡大しています。近い将来、AIを活用したDesignOpsチームのメンバーは、通常業務とツールの構築や改良に同じぐらいの時間を使うことになると想定できます。

したがって、イノベーション意識とは、ユーザーとビジネスのためのデザインを行いながら、制作の手法や様式を(それを支援するエンジンやモデルと共に)継続的に改良していくことなのです。

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エージェント型AIとシンセティック・デザイン

以上のようなパラダイムシフトは、エージェント型AI、あるいは「シンセティック・デザイン」をワークフローに組み込むための基盤とプラットフォームを築く助けになるでしょう。AIモデルがDesignOpsチームの中心に据えられ、(自動化された)プロダクトプロセス全体で活用されていれば、チームメンバーたちは、比較的単純で自動化可能なタスクをエージェントに譲り渡して実行させることが徐々にできるようになります。

その明らかな結果として、人間のデザイナーで構成される比較的少人数のチームが、「システム・オブ・システムズ」を管理し、ブランドをキュレーションし、プロダクト体験の基本的要素をデザイン・開発しながら、シンセティック・デザインのプロセスにおけるその他のタスクを自動化してエージェントに任せるようになります。

このパラダイムシフトにより、すべてのブランドが効率化のための最適化を進め、プロセスと実行の面で競い合うようになるにつれて、より差別化しづらくなり、市場で実効性を持たせるのも難しくなるでしょう。プロダクトもブランドもナラティブも画一化が進み、識別しにくくなっていくはずです。したがって、嗜好(しこう)の醸成や人間の理性、クリエイティビティ、イノベーション感覚がこれまで以上に重要になります。凡庸なものの中で優れたものを際立たせるには、強力なリーダーシップと積極的なキャンペーン活動が鍵になるでしょう。

顧客体験の全体にわたって質の基準はますます高くなり、凡庸なものに対する受容度は低下していくでしょう。こうした新たな状況は今後2、3年のうちにやってくるはずです。その状況の基礎を形づくる要素が、今まさに確立されつつあります。来たるべき時が迫っています。


デザイン部門とビジネス部門のリーダーはこの変化にどう備えるか

以上のようなパラダイムシフトは、エージェント型AI、あるいは「シンセティック・デザイン」をワークフローに組み込むための基盤とプラットフォームを築く助けになるでしょう。AIモデルがDesignOpsチームの中心に据えられ、(自動化された)プロダクトプロセス全体で活用されていれば、チームメンバーたちは、比較的単純で自動化可能なタスクをエージェントに譲り渡して実行させることが徐々にできるようになります。

その明らかな結果として、人間のデザイナーで構成される比較的少人数のチームが、「システム・オブ・システムズ」を管理し、ブランドをキュレーションし、プロダクト体験の基本的要素をデザイン・開発しながら、シンセティック・デザインのプロセスにおけるその他のタスクを自動化してエージェントに任せるようになります。

このパラダイムシフトにより、すべてのブランドが効率化のための最適化を進め、プロセスと実行の面で競い合うようになるにつれて、より差別化しづらくなり、市場で実効性を持たせるのも難しくなるでしょう。プロダクトもブランドもナラティブも画一化が進み、識別しにくくなっていくはずです。したがって、嗜好(しこう)の醸成や人間の理性、クリエイティビティ、イノベーション感覚がこれまで以上に重要になります。凡庸なものの中で優れたものを際立たせるには、強力なリーダーシップと積極的なキャンペーン活動が鍵になるでしょう。

顧客体験の全体にわたって質の基準はますます高くなり、凡庸なものに対する受容度は低下していくでしょう。こうした新たな状況は今後2、3年のうちにやってくるはずです。その状況の基礎を形づくる要素が、今まさに確立されつつあります。来たるべき時が迫っています。

デザイン部門とビジネス部門のリーダーはこの変化にどう備えるか

デザインのためのAIがもたらす新たなパラダイムシフトによって引き起こされる変化に対応するために、以下の6つの原則に従って、将来を見据えたチーム作りを始めましょう。

  1. AIアーキテクチャの開発にあたっては、全体を見渡す視点を取り入れましょう。AIモデルはブランドの一貫性の原動力になり得ます。
  2. ブランド、マーケティング、プロダクトの各部門を横断する共同作業モデルを設定します。部門間の壁を壊し、同じ目標に向かって取り組みましょう。
  3. プロダクトに関する全般的な目標と個別の目標の達成に向けた戦略を立てます。将来を見据えながら、必要なスキルと経験を持つチームメンバーを確保しましょう。
  4. 自動化を進めながら、人材への投資も強化します。一段高いレベルのプロセスやツールは、チーム内から生まれることもあると考えましょう。
  5. DLS戦略の取り組みを試験運用し、検討を進めます。デザインシステムに投資し、休眠状態の「Figma」リポジトリ(※4)を超える形に進化させましょう。
  6. 先見の明があり、積極的に道を示すリーダーにかじ取りを任せましょう。適任のリーダーを見つけることが、チームを正しい方向に導く鍵です。

※4 リポジトリ=ITやソフトウエア開発の分野においては、データやコード、ファイルなどを保管・管理する場所のことを指す。

ここでご紹介した社内の取り組みを始めたとき、私たちは独自の方法をとり、自分たちで未来を築くことによってそのプロトタイプを作成し、未来をシミュレーションしようと試みました。いわば、構築による 未来予測(Futurecasting) です。DesignOpsの領域で次に来るのは、破壊的な変革とイノベーションの時代だと私たちは予想しています。ですから、さまざまな業界で実際に手を動かして、それぞれの課題に立ち向かっておられるパートナー企業やクライアントの方々にも、同じことを提言しています。

戦略を練り、考え、形にするプロセスのどこかに、魔法が起こり、新たな価値が今にも生まれようとしている「スイートスポット」があります。どうかそのプロセスの一瞬一瞬を楽しみながら進んでください。

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frogは、グローバルなデザインと戦略を提供する企業です。私たちは、秀でた顧客体験を届けるブランド、プロダクト、サービスのデザインをすることで、ビジネスを大きく変革させます。私たちは人々の印象に残る体験を提供し、市場を動かすよう努め、アイデアを現実にすることに、情熱を注いでいます。クライアントとのパートナシップを通じて、未来の予測、組織の発展、そして人間体験の進化を実現します。 <a href="http://dentsu-frog.com/" target="_blank">http://dentsu-frog.com/</a>

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