日本最大級のデザインとアートの祭典「DESIGNART TOKYO(デザイナートトーキョー)」。
年に一度開催されるクリエイティブの大舞台に今、企業からの出展が増えています。家電や自動車、素材メーカーといった企業から、本業がものづくりではない企業まで出展者はさまざま。多彩な企業が、事業拡張の一手として「DESIGNART TOKYO」を選び始めています。
なぜ「デザインとアートの祭典」が、事業の新たな打ち手になるのか。DESIGNART代表の青木昭夫氏と、数々の企業出展をサポートしてきた電通のクリエイティブ・ディレクター榊良祐氏に話を聞きました。
DESIGNART TOKYO 2025の様子。東京の都市部を舞台に約100ヶ所の会場で多様な展示が開催される都市周遊型デザインイベント。 企業は「美学」で選ばれる時代に ――はじめに、DESIGNART TOKYOとはどんなイベントか教えてください。
青木:DESIGNART TOKYOは、2017年にスタートした、来場者のべ25万人規模のデザイン&アートフェスティバルです。世界中からインテリア、アート、ファッション、テクノロジー、フードなど、多彩なジャンルの才能が集結し、都内各所で展示を開催しています。 グランドコンセプトには「INTO THE EMOTIONS 〜感動の入口〜」を掲げています。東京という街を舞台に、新しい気づきを与えるものに出合う瞬間を増やすことで、領域を超えて革新的な化学反応を起こしていく。そして、クリエイティブ産業そのものを活性化させたいという思いで開催しています。みなさんのおかげで今年10回目を迎えることができました。
DESIGNART INC. CEO 青木昭夫氏 ――DESIGNART TOKYOには、どのような方が出展しているのでしょうか?
榊:以前は、クリエイターの作品発表が中心でした。しかし近年は、企業の出展が目立っています。しかも出展されているのは、完成形の商品ではありません。開発段階のプロトタイプや、コンセプチュアルな作品を通じて、自分たちの「美学」を社会に示す企業が増えているのです。
――企業の「美学」とは、具体的にどういうことですか?
榊:「私たちは何を信じているのか」「どんな未来をつくりたいのか」という思想です。それをプロトタイプや体験という形にして社会に投げかける。そして返ってきた反応を次の事業に生かしていく。そうした社会との対話の場として、DESIGNART TOKYOを活用する企業が年々増えています。
――なぜ「美学」を発信する企業が増えたのでしょうか?
榊:今の時代、企業の価値は売上高や時価総額だけでは決まりません。企業が発する姿勢やビジョンに共感して「この企業が好き」「このブランドを選びたい」と思ってもらえることが重要です。たとえ製品として完成されていなくても、時代や社会をどう捉えているのか、企業の思想をコンセプチュアルな段階でいち早く打ち出せる。そういう機会として、DESIGNART TOKYOが大きな意味を持ち始めたのだと思います。
大京は「2050年のウェルビーイングな究極のマンション」というテーマで、社員と多様な専門家と共創した飛躍的ビジョンを提示した。 青木:企業がデザインやアートの場で自分たちのスタンスを発信する動きは、海外でも見られます。有名なのが、アメリカで開催されているSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)です。もともとは音楽イベントでしたが、今では新規事業やプロトタイプが集まる、世界最大級のイノベーションの祭典になっています。 近年のDESIGNART TOKYOは、どこかSXSWに近い空気も感じます。出展企業の方々と話していると、「こんな実験的なことを考えていたのか」と驚かされることが少なくありません。普段は保守的な印象を持たれがちな企業でも、 社内には情熱や偏愛が確かに渦巻いている。その一番とがった部分を、純度の高い形でむき出しにできる。DESIGNART TOKYOは、そういった企業の内側に眠る創造性を解放する場所になりつつあります。
ブランドを成長させるのは「究極のオタク」 ――企業にとって、DESIGNART TOKYOに出展することには、具体的にどのような価値がありますか?
榊:DESIGNART TOKYOには、大きく5つの出展目的があると考えています。 1)思想・ビジョンの発信 2)プロトタイプの社会実験・市場検証 3)サステナビリティ技術の共感される体験化 4)文化的支援を通じたブランド価値の構築 5)高感度層・共創パートナーとの接点創出 特に出展をおすすめしたいのは、「ビジョンや技術・素材はあるけれど、どう世の中に発信すればいいか分からない」という課題を持った企業です。そうした企業と気鋭のクリエイターを私たち電通がマッチングすることで、これまでに数々の新しい価値を世の中へ広めてきました。
――クリエイターとのマッチングも行っているのですね。
榊:はい。建築家やプロダクトデザイナーなどの専門性あるクリエイターと企業のコラボレーションを実現することで、企業の価値をより高めるアウトプットにつなげています。ここで重要なのは、「それっぽい」もので満足しないことです。今の時代、生成AIを使えば一定のクオリティのアウトプットなら誰でもつくれてしまいます。だからこそ、既視感のないもの、人を驚かせる独創性が問われる時代がきています。 企業にとって大切なのは、AIを使いこなすことだけではなく、AIに学習される側になること。模倣されるほど独創的な思想や世界観を持つことではないでしょうか。DESIGNART TOKYOでマッチングする世界的クリエイターたちは、自分の領域をとことん掘り下げた「究極のオタク」とも言える人たちです。そうした偏愛の塊のようなクリエイターと企業が組むことで、AI時代にひときわ目立つ独自のブランドをつくれるのです。
青木:まさにそうですね。その偏愛が今最も重要で、ブランドをリードする先進的な発信をすることは、企業ブランディングに直結します。僕はこれを「一枚の布理論」と呼んでいます。布の真ん中を引き上げることで布全体が持ち上がって、裾野も広がっていきます。ブランドも同じで、トップレンジで大胆な挑戦をすることで、ミドルレンジ、ボトムレンジの裾野が広がる。結果としてブランド全体のイメージが上がり、ビジネスの裾野も拡張していくのです。
――ブランディングの効果はどれくらいで表れるのでしょうか?
青木:ブランドの浸透には時間がかかります。長期的なスパンで、トップレンジでの挑戦がどのようにミドルやボトムへ波及したのかを見る必要があります。よくあるダメな事例で言うとトップレンジだけで採算をとるようなブランディングは「見せ筋」で無理やり売り上げをあげていくことになります。これではうまくいきません。
榊:私たち電通が企業出展を支援する際は、DESIGNART TOKYO期間中だけでなく、その前後まで含めて設計します。出展前の社内の合意形成や、コンセプト設計、PR戦略の構築、展示後の事業化までを視野に入れています。出展を一過性のイベントにせず、長期的にブランドを成長させるエンジンに変えていく。それも私たちの重要な役割だと考えています。
電通 クリエイティブ・ディレクター 榊良祐氏 インナーとアウターに企業の共感者を増やす――実際に出展した企業では、どのような成果が生まれていますか?
青木:まず分かりやすいのは、アウターへの発信効果です。ニュース番組をはじめ、多くのメディアで出展内容を取り上げていただきました。ただ、それ以上に興味深いのは、インナーの変化です。DESIGNART TOKYOでプロトタイプを発信して世の中からポジティブな反応を得ると、社内の空気が変わってくるそうです。どの企業にも新しい取り組みに対して保守的な人はいると思いますが、そういう人も巻き込む前向きな空気が生まれるのです。 また挑戦的な姿勢を打ち出すことは、リクルーティングにも効果的です。面白い取り組みをしている会社だと認知されることで、若い優秀な方に働きたいと思ってもらえます。企業のインナーとアウターに、共感者を増やしていける。それが、DESIGNART TOKYOの大きな効果だと思います。
――アウター、インナー、リクルーティングに効果的なのですね。
青木:インナーに共感者が増えると、R&D部門と広報部門が一体となって動けるプロジェクトも増えてくると思います。通常の製品開発の流れでは、R&D部門がつくったものを、広報チームがどう世の中に広めていくかを考える、という役割分担になりがちです。 けれどDESIGNART TOKYOのような場を活用すると、広報側が得た社会からの反応や評価を、開発側にフィードバックできる。「こんな見え方をした」「ここに期待が集まった」「ここは刺さらなかった」といった生の声を聞くと、開発チームも新しい気づきを得て一段ジャンプアップした挑戦ができるようになる。DESIGNART TOKYOは、社会の声を取り入れた開発を加速させる場にもなると考えています。
DESIGNART TOKYO 2025 メディアツアーの様子。 大京の執行役員、建築家の永山祐子氏、電通の榊良祐氏が共同でプロジェクトを発表した。 榊:今は技術も社会のニーズも猛烈なスピードで変化する時代です。昔のように、完璧に完成させてから世の中に出す、というやり方では間に合わない。そのため近年の主流になっているのは、市場との対話を前提にしたプロトタイピングです。一度テスト的に世の中に出し、反応を見ながら改良を重ねていく。重要なのは、「未来の生活をちゃんと想像させるプロトタイプ」であることです。こんなデザインで、こんなインターフェースで、こんな体験になる、というところまで具体化されて初めて、生活者は「その未来、いいね」と本音でフィードバックをくれます。プロトタイプで示す未来像を、デザインやアートの力でより具体的に提示できるのがDESIGNART TOKYOの強みです。
――他にもDESIGNART TOKYOならではの魅力はありますか?
榊: DESIGNART TOKYOは想像していなかった出合いが本当に多いです。私自身も会期中に魅力的なビジョンを持つ企業と出合いましたし、もともと知っていた企業のブランドイメージがガラッと変わる瞬間を何度も体験しました。
青木:秋の東京は特別なのです。DESIGNART TOKYO以外にもデザインやアート、モビリティのイベントがあちこちで開催されていて、感度の高い人たちが街中を歩いています。街全体が美術館のようになるタイミングだからこそ、 思いもよらない企業と企業、人と人の出合いがあります。実際、偶然の出合いから企業同士のコラボレーションも生まれています。こうしたセレンディピティも、DESIGNART TOKYOの特徴です。
展示は、未来の事業開発の始まり ――企業が出展する上で、電通はどのような支援をするのでしょうか。
榊:支援として企業とクリエイターをマッチングすると言いましたが、それだけでは、良い作品は生まれません。クリエイターの専門性と、企業が抱える課題の間にはどうしてもギャップがあります。そこを埋める共通言語をつくるのが、私たち電通の役割です。企業が本当に伝えたいことは何か。その挑戦は社会にとってどんな意味を持つのか。核となるコンセプトを言語化し、企業の意思決定者も巻き込みながら、クリエイターとの橋渡しを行います。
青木:電通は、いつも高いボールを投げてくれます。企業の思いや技術を今より一段上、未来へ引き上げるようなコンセプトを提示してくれる。私たちとしては、それをどうDESIGNART TOKYOの空間や体験に落とし込むかに集中できるのでありがたいですね。
榊:出展を支援する上でもう一つ大事にしているのが、「点で終わらせない」ことです。DESIGNART TOKYOはあくまで起点で、未来の事業開発をトータルプロデュースするつもりで伴走しています。展示前には企業社内でワークショップを重ね、従業員の方々も巻き込みながらコンセプトをつくり上げます。そして展示の演出、サイトの構築、PR設計まで立体的に組み立てます。さらに展示後は、ブランド戦略の立案や事業化へとつなげていくところまで支援させていただきます。
――今後、どのような企業にDESIGNART TOKYOを活用してもらいたいですか?
榊:例えば、R&D段階の製品に対して、世の中から反応をもらって磨き込みたい企業。あるいは、サステナビリティ関連の技術・素材を持っているのに、発信の仕方が分からず宝の持ち腐れになっている企業。そういう企業にこそ、経営課題の解決にクリエイティブの力を使ってほしいと思います。
青木:海外展示会への出展を検討している企業にも、DESIGNART TOKYOへの出展をおすすめします。海外ほどのコストをかけずに、感度の高い来場者からダイレクトに反応を得ることができます。そして何より、東京という街そのものが海外にはない恵まれた環境なのです。海外では、アートとデザインが明確にジャンル分けされ、展示会も分断されがちです。しかし東京では、アート、デザイン、工芸、テクノロジーなどが自然に混ざり合う「ミックスカルチャー」が成立しています。ジャンルの境界がゆるやかだからこそ、一つの専門領域に閉じることなく、多彩な業界からリアクションがもらえる。その点で、東京は非常に恵まれたフィールドだと感じています。
――最後に、DESIGNART TOKYOへの出展を考える企業の方々にメッセージをお願いします。
榊:DESIGNART TOKYOは、企業の美学を可視化し、社会と対話し、仲間を増やし、次の一手を生む場所です。AIが考える予定調和な未来ではなく、みんなが驚くカオスな未来を発信する。その挑戦は、確実にインナーブランディングにつながりますし、世の中を刺激します。そして私たちは展示で終わらせるつもりはありません。プロトタイプを事業化へと進める段階では、電通の事業コンサルティングメンバーや、メーカーで実際に事業開発を経験した人材も巻き込みながら伴走します。構想から実装までのプロセスを、トータルでご一緒できればと考えています。
青木:DESIGNART TOKYOを通じて、価値が上がり続けるブランドを一緒につくっていけたらと考えています。安くていいものではなくて、高くてもそのブランドにしかない価値があるものをつくる。そうしたブランドは時を重ねるごとに価値を増し、マーケットそのものを広げていきます。未来の市場に希望が持てるようになる。そんなブランドづくりを、皆さんとご一緒できたらうれしいです。まずは、技術や構想がDESIGNART TOKYOに適しているか、壁打ちレベルでも構いません。ぜひお気軽にご相談ください。
※DESIGNART TOKYOはこちら https://www.designart.jp/designarttokyo2025/