押さえておきたいブランディングの視点
─経済的価値、社会的価値、ブランド価値 ─
企業広報戦略研究所(電通PRコンサルティング内)は、「魅力度ブランディングモデルVer.3」を基に設計した「魅力度ブランド調査」を実施しました(詳細はこちら)。本調査は、生活者が企業のどのような活動や事実(ファクト)に魅力を感じ、どのように伝わっているのかを明らかにすることを目的としています。
本連載では、この調査から得られた主なファインディングスを紹介します。連載3回目の今回は、企業価値を3つに分けて深掘りし、企業の魅力との関係性について解説します。
企業のブランド価値向上のためには、どのような魅力を高めることが有効なのでしょうか。そのヒントをお伝えします。
企業の“価値”の定義
一般的にブランドは、「商品ブランド」と「企業ブランド」に大別され、 「企業ブランド」は理念や信頼性を、「商品ブランド」は製品の独自性や優位性を表す、などと言われています。そしてブランドは、企業がステークホルダーに提供する「価値」と密接に関連していると考えられています。
今回の「魅力度ブランド調査」では、全国の生活者1万人を対象に、20業種・200社についての調査を実施し、企業の“価値”と“魅力”の関係を明らかにするため、以下の視点から分析を行いました。
まず、企業の“魅力”に関しては、これまでお話ししてきたように、「人的魅力」「社会的魅力」「商品的魅力」の3要素、24領域(選択肢は48項目)を企業ごとに調査しました。
そして、企業の“価値”に関しては、企業の“魅力”とは別の設問において、「経済的価値」「社会的価値」「ブランド価値」の、それぞれ3つの価値に該当すると感じる企業を生活者に聞きました。
下記の図3は、3つの企業価値の相関分析の結果です。一般的に相関係数は0.7以上で強い相関があると考えられるため、「経済的価値」「社会的価値」「ブランド価値」の3つは、いずれも強く相関していることがわかります。
経済的価値、社会的価値、ブランド価値向上に寄与する企業の魅力とは
さらに、「経済的価値」「社会的価値」「ブランド価値」の3つの価値と、企業の魅力との関係を見ていきたいと思います。重回帰分析(※)を行い、プラスの影響があると認められる(有意な)魅力領域をピックアップしてみると、下記のようになりました。
※重回帰分析=結果に影響する複数の要因が、結果にどれくらい影響しているかを数式で表し、その要因の影響を推定したり、将来の結果を予測したりする統計手法。
重回帰分析において、標準偏回帰係数は各説明変数が結果にどれくらい影響しているかを示す指標。値の絶対値が大きいほど、その説明変数が結果に与える影響が大きいと判断される。また、*<0.05、**<0.01はp値といい、その係数の有意性を表す判定指標。
係数が大きいもの程、影響が大きい要因と見ることができます。経済的価値、社会的価値、ブランド価値それぞれに影響の大きい魅力領域があり、それぞれ違った領域が存在していることがわかります。
これらの結果、「ブランド価値」を構築する土台となっているのは、「安定・透明性」や「パーパス・ビジョン」といった、企業の“信頼”や“安心”と考えることができます。この2つの魅力領域の係数がほかに比べて圧倒的に大きく、ブランドに大きく影響することを証明しています。つまり、安定した経営、透明性をもった経営、企業が向いている指針や方向性を明示すること=“安心感や信頼”を得ること、と捉えることができます。
また、「ブランド価値」は、さまざまな魅力が同じレベルで効いているわけではなく、前述の“信頼性や安心感” というブランド価値の土台が醸成されて、初めて“接客”や“評判”、“イシュー対応”という“価値につながる”と推察されます。
これらの分析結果をまとめると、「ブランド価値」には下記が必要であることがわかります。
- 企業の「ブランド価値」を高めるためには、「経済的価値」と「社会的価値」の両方をバランスよく向上させていくこと。
- 「ブランド価値」を構築する上で土台となるのは、“信頼、安心できる企業”であること。すなわち「安定した経営を行えること」と「明確なパーパス・ビジョンを有していること」をステークホルダーに理解してもらうこと。
- その上で、「フロンティアスピリット」や「イシュー対応」「評価・評判」「接客対応」といった、経済的価値や社会的価値とは異なる「ブランド価値特有の魅力」の提示。
ブランド価値でより高みを目指すには
これまで述べてきた知見は、200社全体の分析から得られたものであり、「ブランド価値」において平均以上の評価を得るために注力すべきポイントだといえます。もちろん、今回の分析対象である200社は、20業界を代表する企業群であり、この結果だけでも十分に今後の企業の行動指針となるものです。
では、さらなるブランド価値の向上を目指すにはどうしたらよいのでしょうか?
そこで、「ブランド価値」が特に高いと評価されている上位30企業と200社全体について、「ブランド価値」と各魅力領域の相関係数を比較しました。その結果、上位企業ならではの注目すべき特徴が見えてきました。
まず、ブランド価値の高い上位30企業と200社全体で共通して上位5領域に入った魅力は、以下の2つのみでした。
- 「パーパス・ビジョン」(人的魅力)
- 「ニーズ開発」(商品的魅力)
一方で、200社全体では上位5領域に入っていた「安定・透明性」や「モチベーション」「安全・安心」は、上位30企業ではランクインしていません。その代わりに、上位30企業の上位5領域に入った魅力は、下記の3つです。
- 「インターナル」(社会的魅力)
- 「情報開示」(社会的魅力)
- 「評価・評判」(商品的魅力)
これらの結果を見ると、ブランド価値が高い上位30企業は「社会的魅力」の領域が支持されやすい傾向にあります。特に“インターナル”や“情報開示”といった企業の取り組みや姿勢の発信が“ブランド価値が高い企業”としての評価につながっている点は注目すべき点です。
ブランド価値の高い企業にとって、経営の安定やイシュー対策などは取り組んで当然の要素であり、もはや差別化のポイントにはなりにくいのかもしれません。
今後ブランド価値において上位を狙う企業は、自社のどの要素を魅力として伝えるべきか、そしてレピュテーションをどのようにマネジメントしていくかが、より重要になると考えられます。
ブランド価値を高める企業イメージ
次に、40個の企業イメージ項目とブランド価値との相関を調べた結果を、以下に示します。
「ブランド価値」を高める企業のイメージとして、「一流である」「成功している」「安定感がある」「クオリティが高い」「信頼できる」「人気がある」「実行力がある」などは、評価されるための土台のイメージとなる基本的な要素として挙げられています。
その一方で、「コンセプト・信念を感じる」「こだわりがある」「センスが良い」といったイメージは、その土台の上に積み上げられる、企業としての“オリジナリティ”を表す重要なイメージ要素であることもわかりました。基本的なイメージを押さえつつ、オリジナリティをどのように表現していくかがブランド価値をさらに高めるカギとなりそうです。
ステークホルダー視点を意識した、“レピュテーション”管理が重要!
企業広報戦略研究所では、“企業価値と魅力との関係性”の分析から、以下の3つの大きな示唆を得ました。
- 企業は、「ブランド価値」を高めるために、「経済的価値」と「社会的価値」の両方をバランス良く高める必要があること。
- 「ブランド価値」を高めるためには、“信頼に値する企業”であること、すなわち安定した経営と明確なパーパス・ビジョンを有していることが前提となること。
- その前提をクリアした上で、“行動力”や“社会性”、“レピュテーション”といった要素も継続的に示していく必要があること。
また、今回特にわれわれが注目したのは、「評価・評判」すなわち“レピュテーションの重要性”です。
ブランドの起源が、「他の牧場の牛と見分けがつくようにするための焼き印から始まった」と言われるように、企業ブランドにおいてもステークホルダーの視点を意識することが不可欠であることがあらためて示されました。
企業の「ブランド価値」は、経済的価値や社会的価値を一方的に伝えるだけで完結するものではありません。ステークホルダーが企業をどのように認識し、評価し、レピュテーションを形成していくか、そのプロセスの中で育まれる価値だといえます。
ステークホルダーの意識が変化しやすく、ビジネス環境の変化も激しい現代において、広告や広報、SNSなどを通じて自社のレピュテーションをいかにマネジメントしていくか――。
それこそが、企業にとってのブランディングであると、われわれは考えます。
これまで3回にわたり、魅力度ブランディングモデルに基づく分析をご紹介してきました。
なお、魅力度ブランド調査は、個々の企業についても詳細な分析が可能です。ご興味のある方は、下記までご連絡ください。
■電通PRコンサルティング 企業広報戦略研究所
info-csi@dentsuprc.co.jp
■当研究所の他テーマについてもご紹介しています。
https://www.dentsuprc.co.jp/csi/
【調査概要】
調査名:魅力度ブランド調査
調査時期:2025年6月20日~2025年7月8日
調査方法:インターネット調査
調査対象エリア:全国
調査対象・サンプル:20歳~69歳の全国の男女 10,000ss(以下セグメントごとに男女均等割付)
(内訳)20代/ 30代/ 40代/ 50代/ 60代 各2,000ss)
※上記サンプルの抽出のために、20~69歳の一般男女(高校生以上、未既婚・職業不問)を対象にスクリーニング調査を実施。年代条件に加え、魅力に感じる20の業界(企業)が各500ssになるように振り分けた。
調査リリース:
https://www.dentsuprc.co.jp/releasestopics/news_releases/20251020.html
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著者

末次 祥行
株式会社 電通PRコンサルティング
企業広報戦略研究所
副所長
広告会社からプランニング会社を経て、2007年電通パブリックリレーションズ(現電通PRコンサルティング)入社。飲料、電機、通信、大学などのコミュニケーションプランニングを手掛ける。現在、企業広報戦略研究所にて、レピュテーション分析、広報効果測定、IR発信力調査、イシュー分析やソーシャルリスクなどの調査・分析、コンサルティングに従事。


