電通グループ4社によって作成された「電通未来曼荼羅2023(以下:未来曼荼羅2023)」は、不確実性の時代に、企業が新たな事業やサービスを立ち上げるために活用していただきたい中期未来予測ツールです。
策定マネージャーである加形拓也氏へのインタビュー前編では、「未来曼荼羅」立ち上げの経緯や概要、最新版の特徴などを聞きました。後編では、「未来曼荼羅2023」の活用によって期待できることや、これまで「未来曼荼羅」を活用したクライアント企業さまの声など、より具体的な事例を紹介していきます。また、「未来曼荼羅」そのものが、今後どのように発展していくかといった展望にも触れていきます。
「未来曼荼羅2023」はバイブルではなく活性化ツールとして強みを発揮する
Q.前編でお話があったように、「未来曼荼羅2023」は、2030年という従来の「未来曼荼羅」よりも先の未来まで見据えて作成したことが、大きなポイントとなっています。より未来を見据えることで、現在の事象の延長線上に位置する予測ではなく、その予測された未来からさらに先の予測となるため、今までに比べて作成にもかなりの苦労があったとのことでした。ここからは、そうしたチャレンジングな取り組みであった「未来曼荼羅2023」を、具体的にどのような形で活用できるのかというところをお話いただきたいと思います。まずは、これまでの「未来曼荼羅」活用事例を教えてください。
加形:2017年から継続的に活用いただいているクライアントさまでは、「未来曼荼羅」をベースにグループ全社を横断した事業開発グループの立ち上げを実施、さらには事業領域の拡大やデータビジネスの開発などにもつなげました。
以前から、グループ内の各社で新規事業のための未来予測を行っていたものの、その範囲は各社の事業領域に限られていました。より多様性のある、グループ会社全体の資産を活用しあうような新規事業を立ち上げる議論をするために、広く世の中全体の未来予測を盛り込んだ「未来曼荼羅」がお役に立つことができました。
株式会社電通コンサルティング 加形 拓也氏Q.「未来曼荼羅」を、話し合いを活発化させるツールとして活用いただいたということですか?
加形:そうですね。デザイン思考を活用した事業構想のフレームワークで「ダブルダイヤモンド」という手法があるのですが、これは、2つのダイヤモンドを描くように思考の「発散」と「収束」を行い、課題解決の道筋を見つけていくというものです。新規事業の立ち上げに当てはめるなら、最初のダイヤモンドでは解決すべき問題・取り組む領域を決める。2つ目のダイヤモンドでは、その領域でどんなことができるか、どんどんアイデアを出し、「発散」させていく。そこから、実現性などを考え、絞り込んでいくのが「収束」です。

加形:「未来曼荼羅2023」のトレンドテーマは、72もの幅広いテーマがあるため、発散の際には、アイデアを広げるためのブースターの役割を果たしますし、収束の際には、未来予測を踏まえて実現性を図るのに役立ちます。ただ、具体的にどのような事業や商品、サービスを生み出すかは、各企業の事業実態などによって異なりますから、「未来曼荼羅」がそのまま新事業のバイブルになるわけではありません。
「明るい未来」につながるヒントを盛り込むことで、より良い世の中を目指す
Q.「未来曼荼羅」は話し合いを活性化させるツールとしての役割だけでなく、他にも活用の場がありそうですね。
加形:実際に企業でワークショップを行う際には、事前に「未来曼荼羅」を読み込んできてもらい、参加者に気になるトレンドテーマに付箋を立ててきてもらいます。参加者が7〜8人いると、共通して付箋が立つテーマもあれば、全く異なるところに立てる人もいる。その理由をヒアリングしていくことで、参加者それぞれの未来像の解像度が一気に上がります。
未来を考えるという点では、パーパスの策定にも有効です。企業の中には、経営企画部もいれば商品開発部もいて、所属する部署や関わる事業によって見ているものが大きく異なるもの。そうした中で、部署を超えて未来への視線をそろえるためにも、「未来曼荼羅」はお役に立てるのではないでしょうか。
さらに、いつも同じ集団で話し合っていると、どうしても視界が狭くなる、領域が閉じてしまうという問題があります。そうした際に、「未来曼荼羅」をもとに、幅広い領域の楽しげでポジティブな未来予測に目を向けることで、「うちの会社でもこういうことができるかもしれないね」というアイデアがたくさん出てきて、そのうちいくつかは実際に走り出すかもしれない。経営課題から考え始めるのではなく、まずは楽しく未来を考えることから事業につなげていくということもできるのでは、と思っています。
Q.楽しげな未来という言葉がありましたが、そうしたポジティブな方向性は「未来曼荼羅」の特性でしょうか?
加形:私自身何年間か「未来曼荼羅」を作ってきて感じたのは、未来をフラットに予測するだけではいけないということです。そのため、「明るい未来」の想定や「ポジティブな提案」を加えるようにしています。
暗い未来の予測や、今後ますます深刻化していきそうな社会問題はもちろん多数あります。例えば、現在日本でも「貧困」は大きな問題で、今後、経済格差がますます広がっていく未来予測はあるわけです。だからと言って、例えばスマホ1つで未成年でも簡単にお金を借りることができてしまうサービスを作ったら問題が悪化する可能性だってあるでしょう。そこで、そうした課題解決のためのポジティブなビジネスをどうつくるかということを企業の方に考えてもらうために、われわれは解決につながるヒントを探し、「未来曼荼羅」に盛り込んでいます。
きれいごとではなく、これからの企業は実際にそうした社会問題に取り組むことを求められていますから、企業のためのツールとしては自然な向き合い方だと考えています。
「未来曼荼羅」も進化を止めずにアップデートし続けたい
Q.「未来曼荼羅2023」はリリースされたばかりですが、何か反響はありましたか?
加形:今はまだ、新規で多くのお問い合わせがあるというわけではありませんが、以前からお付き合いがあるクライアントさまからは、「未来曼荼羅2023」を使いたいというお声掛けを早速いただいています。今後はさらにニーズが高まっていくのではないかと期待しています。
なぜなら、今、多くの事業者はこれまでの事業ドメインが足元から崩れるような経験をしていて、新たな事業開発に待ったなしで取り組まなければいけない状況だと考える局面も多いのではないでしょうか。そうなると、より具体的な未来予測が必要となってくるでしょう。
新規事業展開だけでなく、パーパス策定など今後の企業の在り方を考えたり、現在抱えている課題解決に取り組んだりと、さまざまな領域で「未来曼荼羅2023」を活用していただきたいですね。

Q.最後に「未来曼荼羅」は、今後どのように展開していくのでしょうか。何かビジョンがあれば教えてください。
加形:今回「未来曼荼羅2023」の作成を通じて、これまでよりもさらに先の未来へと目を向ける経験をしたことで、新たに見えてきたものがあります。今回得た経験や学んだ手法などを生かして、進化を止めず、より多くの方々のお役に立てるようにアップデートし続けていきたいと思っています。
新型コロナウイルス感染拡大による大きな社会変化をはじめ、一個人や一企業では予測しづらい出来事が次々と起こり得るのがこれからの未来です。「未来曼荼羅」は時代の変化に迅速に対応すると同時に、明るくポジティブな未来への希望を込めて作られています。2030年を見据えた「未来曼荼羅2023」をうまく活用することで、未来起点の企業経営や社会の実現への具体的な道筋が見えてくるかもしれません。