紀里谷氏はまず、自身の半生についての話題からトークをスタート。何事にも疑問を持っていた幼少期、日本の教育システムに強い不満を持ち始めた小学校時代、中学卒業後「移住のつもりで」赴いたアメリカでの落ちこぼれ学生生活へと話は進む。10代で突如訪れたターニングポイントは誕生したばかりの「MTV(Music Television)」との出会い。それが自身の人生に大きく影響を与えることになったと振り返る。「僕は人口2000人の日本の地方の小さな町で生まれ育って、東京をすっ飛ばしてアメリカに来てるわけです。だから、クリエーティブとかアートとか、そういったもので人が生きていけるものだとは思ってなかった。全く今まで想定もしていなかった扉が(アメリカに行ったことで)俺の中で開いたんです」。そうやって未知なる世界との遭遇を経験した彼は、公立の学校から全米一のアートハイスクール、Cambridge School of Westonへと転校。アートに関する「充実した英才教育」を受けることとなる。
2001年、彼はカメラの世界から映像の世界へとシフトチェンジを果たす。アメリカから取り寄せたFinal Cut Pro 2を使って、THE BACK HORNや宇多田ヒカルのPVを撮影するようになったのだ。その中でも、当時大ヒットとなった宇多田ヒカル『traveling』のPV製作で「足りないものはCGで補えばいいんだ」と気づいたと述べる。そして、その方法論は新たな可能性として初監督作品『CASSHERN』にも繋がった。
その後の映画活動はそう楽なものではなかった。リーマンショックによって企画途中の作品が一気に無しになる、いわく「二度目の暗黒時代」。そして、CGのレベルが追いつかないまま作り上げたため、前作ほどのリアクションが起きなかった映画『GOEMON』製作。
現在は2014年4月に公開予定のハリウッド映画『The Last Knights』(仮)の最終製作段階に取りかかっている。出演はクライヴ・オーウェンとモーガン・フリーマンという豪華キャスト。「とにかく一回スタジオ・システムから抜け出そう」として製作した作品だ。アメリカで、しかもインディペンデントに映画を製作しようとした理由について彼は、まず日米の映画業界では「スタジオ・システムによって、クリエーターが奴隷のように使われていることもある」という問題点を強く指摘。さらに、なにより日本が「グローバルに通用する映画を撮るには物理的に不可能な状況にある」と語る。
1968年熊本県生まれ。83年15歳で渡米、マサチューセッツ州ケンブリッジ高校卒業後、パーソンズ大学にて環境デザインを学ぶ。94年写真家としてニューヨークを拠点に活動を開始。数々のアーティストのジャケット撮影やミュージックビデオ、CMの制作を手がける。2004年映画「CASSHERN」で監督デビュー。09年映画「GOEMON」を発表。著書に小説『トラとカラスと絢子の夢』(幻冬舎)がある。現在、モーガン・フリーマン、クライヴ・オーウェン出演「The Last Knights」(仮)撮影、編集中。