ブロックチェーン×AIで実現する、「ひとつなぎの顧客接点」とは?
デジタル技術の進化で、企業と生活者の関係は大きく変わりつつあります。オンライン・オフラインを問わず、あらゆる接点で生まれる体験を、どう理解し、どう次の体験へとつなげていくのか。
そのカギを握るのが、ブロックチェーンとAIです。
ブロックチェーンは行動を“記録”し、AIはその記録を“読み解き”ます。この2つを組み合わせることで、これまで点在していた顧客接点を“ひとつなぎの体験の流れ”として把握し、その流れを次のより良い体験につなげることができます。
本稿では、SUSHI TOP MARKETINGの取り組みをもとに、ブロックチェーンとAIがどのように顧客接点のあり方を変えていくのかを紹介します。

顧客接点の多様化で一変した“生活者理解”
これまでの生活者理解は、年齢・性別・居住地といったデモグラフィック情報をもとに考えるのが一般的でした。しかし近年、年齢という境界があいまいになり、同じ世代の中でも行動や価値観は大きく多様化しています。
たとえば、60代でオンラインゲームを楽しむ人もいれば、20代で紙の雑誌を愛読する人もいる。もはや「属性」という枠組みだけでは、生活者の実像を捉えきれない時代になりました。
さらに、SNSやEC、イベント、自社アプリなど、企業と生活者が触れ合う接点が広がっています。生活者から見れば、SNSでブランドを知り、イベントに参加し、オンラインで商品を購入する。そのすべてがひとつなぎの“ブランド体験”です。
しかし企業側では、これらの接点が個別のデータとして扱われることが多く、ひとりの行動の流れを「ひとつの体験」として把握するのは容易ではありません。
たとえば、あるサッカークラブのファンを思い浮かべてみてください。
- オンラインストアで応援グッズを購入。
- 週末はスタジアムで試合を観戦(来場)。
- 試合後には、スタジアム近くの提携飲食店(スポーツバーなど)に立ち寄って、仲間と試合の余韻に浸る。
本人にとっては、どれも“応援”というひとつの体験としてつながっています。
ところがクラブ(企業)の視点では、同じファンが
- 「ECサイトの購入者」
- 「試合の来場者」
- 「提携店の来店者」
として、別々のデータ(人)として扱われてしまうことが少なくありません。行動データがつながっていなければ、ファンとの関わりの全体像や“文脈”を正確に捉えることは困難です。
結果として、クラブ(企業)とファンの関係は“気持ちとしてはつながっている”はずなのに、ロイヤルファンの姿や、積み重ねてきた行動の履歴が、個々の施策やチャネルの中で“点”として分断されがちなのが実情です。

ブロックチェーンが生み出す、“つながる顧客体験”
この課題を解決するヒントが、ブロックチェーンにあります。
ブロックチェーンというと、暗号資産や金融のイメージを持つ方も多いでしょう。しかし、その本質は
「データを改ざんしにくく、長期にわたって保存できるデジタル台帳」
であることです。この仕組みを生活者との関係づくりに応用すると、「人の行動の軌跡を、時間を超えて記録し続ける」ことが可能になります。
その記録フォーマットとして活用されるのが、NFT(Non-Fungible Token)です。NFTとは、ブロックチェーン上で扱う「固有性を持ったデジタルデータ」のことです。
一般的には高額なデジタルアートを思い浮かべる方も多いかもしれませんが、私たちはNFTを“資産”ではなく、“行動の証跡(あしあと)”と捉えています。

たとえば、来店・購買・観戦・地域イベントへの参加といった行動履歴を、何らかのNFTとして発行すれば、それらは「ウォレット」と呼ばれる共通IDにひもづいて蓄積されていきます。
ウォレットとは、ブロックチェーン上でNFTを保有・管理するための仕組みで、NFTを受け取るとその履歴が順に記録されます。また、ウォレットごとに発行される固有の「アドレス(住所)」が、そのウォレットを識別する共通IDとして機能します。
このウォレットには個人情報は含まれません。誰のものかを特定できない匿名性を保ちながら、行動履歴を可視化できるのが特長です。
ウォレットに集約されるのは、「いつ・どんなNFTを受け取ったか」という行動の記録。
たとえば、駅で取得したスタンプNFT、店舗で配布された購買NFT、イベント参加時の特典NFTなどが、ひとつのウォレット内に集約されます。

企業は、各ウォレットに記録された情報、つまり「そのウォレットがどのNFTを保有しているか」を参照できます。そうすることで、「Aというキャンペーンに参加した人が、Bというイベントにも参加している」といったように、異なる施策をつないだ体験の流れを横断的に把握できるようになります。

“行動の履歴”が、時間を超えて残るとはどういうことか?
ブロックチェーンの大きな特長は、一度記録されたデータが改ざんされにくく、長期的に保持される点にあります。
これは、データが特定の企業システム(たとえば専用アプリのデータベース)に依存せず、独立して存在し続けることを意味します。そのため、キャンペーンが終わっても、サービスが切り替わっても、生活者が積み重ねてきた“行動の履歴”は失われることなく、参照し続けられるのです。
こうしてブロックチェーンは、従来のCDP(顧客データプラットフォーム)とは異なり、企業ごとのサーバーやシステムの垣根を越えて「横断的な体験の流れ」を把握できる、新しい方法を提供しています。
ブロックチェーン活用領域は、いまや金融分野にとどまらず、“関係を記録し、育てるための基盤”として、非金融分野でも存在感を高めつつあるのです。
実践から見える変化:「沿線」を舞台にした新しい顧客体験
こうした考え方を実際に形にしているのが、東急電鉄とSUSHI TOP MARKETINGの取り組みです。ブロックチェーンとNFTを活用し、沿線を舞台に“移動の新しい価値”を生み出しています。
目的は、キャンペーンやイベントを単発で終わらせず、街歩きなどの沿線体験を通じて、継続的な関係づくりへとつなげることにあります。

従来の紙のスタンプラリーでは「履歴」が残らず、デジタル版でもキャンペーンごとにデータが分断されるという課題がありました。多くの施策では、キャンペーンごとに専用アプリや外部システムを導入しており、それぞれが独立したデータベースを持つため、記録が“点”のままで終わってしまいます。結果として、生活者の体験を“線”としてつなげにくい構造になっていました。
さらに、こうしたデータは、施策ごとに導入するアプリやシステムの運用環境に依存しており、キャンペーンが終了すると管理の対象外となるケースも少なくありませんでした。
こうした課題に対し、NFT(ブロックチェーン)は有効な解決策となります。
NFTは、特定のアプリに依存することなく、共通のID(ウォレットアドレス)を介して行動データを記録できます。これにより、異なる施策ごとにデータベースが分断されることなく、行動履歴を同一のブロックチェーン上で一元的に管理できるのです。その結果、施策をつないだデータ連携や、時間を超えた関係性の可視化が実現します。
この仕組みを具体的に活用したのが「NFTスタンプラリー」です。
駅や商業施設に設置されたQRコードを読み取るとNFTスタンプが発行され、「どの駅を訪れたか」「どんな順番で回ったか」といった行動履歴がブロックチェーン上に記録されます。

さらに、デジタルスタンプラリーにとどまらず、東急ストア(一部店舗)、toks、東急線駅構内自販機で販売されている「のるるんWater」のラベルにも、NFT取得に必要となる東急電鉄NFT公式LINEアカウントのQRコードを掲載。街歩き(回遊)と購買という異なる行動を、ひとつの体験としてつなげました。

加えて、接点の拡張として、セブン銀行ATMと連携したスタンプラリーも展開しています。ATMで交通系電子マネーをチャージするとNFTスタンプを取得できる仕組みを導入し、駅や街、ATMといった日常動線上の顧客接点をつなぐことで、“移動を軸にした関係づくり”をより立体的に広げています。

とはいえ、どれほど企業側にメリットがあっても、生活者が参加したくなる理由がなければ意味がありません。生活者がこの仕組みに参加するのは、NFTという技術自体の魅力ではなく、スタンプラリーを通じた“体験の楽しさ”や、“集めることで得られる特典(限定グッズや特別な体験など)”にあります。
たとえば、東急電鉄が展開する「NFTゲージ」では、NFTとして発行された3D車両をデジタル空間上で“走らせて遊ぶ”ことができます。集めた3D車両は単なるコレクションデータではなく、実際にデジタル空間内で動かしたり配置を変えたりできる“デジタル上のアイテム”として機能します。
こうした体験を通じて、鉄道や沿線との関わりを現実からデジタルへと拡張し、日常の中で“楽しみながら関わり続ける”ファン体験を生み出しているのです。

(実際の動画:https://youtu.be/7nXlLO2pqOc?si=3cY1l2dyTjMUsNSD )
NFTを、画像ファイルや動画ファイルと同じように、あくまで“データ形式”のひとつと捉えると、生活者にとって価値があるのはNFTそのものではなく、「NFT(=行動の証し)を持つことで体験できる“次の楽しさ”」です。一方で企業にとっては、その“行動の証し”を記録し、複数の施策をまたいで連携できる点が大きな価値になります。
複数施策を横断した体験データをブロックチェーン上で連携することで、東急電鉄は生活者との関係を継続的に理解し、次のコミュニケーションへと発展させられるようになりました。
たとえば、「前回のスタンプラリーに参加した方が、今回どの程度再参加しているか」といった継続状況を把握できるようになり、ロイヤルティの高いファン層に向けたコミュニケーション設計にも生かされています。
このように、東急電鉄の“生活者との関係づくり”は、単発的な接点から継続的な関係へと発展しています。ブロックチェーンは“体験を記録し、関係を育てる”新たなコミュニケーション基盤として機能し始めているのです。
AIを通じた、“行動の証跡(あしあと)”の理解が可能に!
ここで鍵となるのが、冒頭で触れた「年齢や属性では生活者を捉えきれない」という現代の変化です。ひとりひとりの価値観や関心を、属性情報ではなく、実際の行動として残された“あしあと”から読み解く。そのための手段として、AIが機能します。
今回の仕組みでは、ブロックチェーンが「行動を記録する」役割を担い、AIはその記録を「解釈し、次の体験へと導く」存在といえます。
この2つを掛け合わせることで、施策を横断してデータを蓄積するだけでなく、その中に潜む関係性や傾向を見いだし、「より良い体験を生活者に還元する」ことが可能になります。
SUSHI TOP MARKETINGでは、NFTを通じて記録された行動データをAIで解析し、生活者の行動パターンや関係の深まり方を可視化する取り組みを進めています。
たとえば、あるスポーツクラブでは、来場スタンプやキャンペーン参加履歴を統合的に分析し、ファンのロイヤルティを見える化。AIによる解析結果をもとに、応募キャンペーンでは「真にロイヤルティの高いファン」がより高い確率で当選できる仕組みを導入しました。
日ごろの応援や参加行動に応じて体験を還元することで、単なる抽選ではなく、ファンの関係性を軸にしたフェアで持続的な関係づくりを実現しています。

また、電通とSUSHI TOP MARKETINGは共同で、顧客体験価値を高めるサービス「みんなのあしあと」を展開しています。このサービスでは、NFTを活用して生活者の行動を“あしあと”として記録・可視化し、AIがそのデータを解析することで、企業が生活者との関係性を理解できるダッシュボードを提供しています。

AIが導き出すインサイトによって、企業はこれまで見えなかった「関係の質」や、その人が何を大切にしているかという“アイデンティティ”を、属性ではなく行動の文脈から理解できるようになります。そして、生活者ひとりひとりに寄り添う形で体験を進化させていくことができます。

“行動の記録”から、“関係の構築”へ
ブロックチェーンは「行動を残す」役割を担い、AIは「行動を読み解く」役割を果たします。
この2つが組み合わさることで、企業と生活者の関係は“点の接点”から“時間を超えて続く関係”へと進化していきます。
企業が生活者の“証跡(あしあと)”を丁寧に読み取り、その気づきを次のより良い体験へとつなげていく。その積み重ねこそが、企業と生活者のあいだに持続的な関係を育てる原動力になります。
テクノロジーが生活のあらゆる場面に溶け込む今、大切なのは、データを集めること自体を目的にするのではなく、そこから「次のより良い体験をどう描くか」を考える視点です。
ブロックチェーンとAIを活用し、“行動の記録”を“関係の構築”へとつなげていく。その実践を通じて、新しい顧客接点のあり方を考え、作り出していきたいと思います。
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著者

森下 翔馬
株式会社 電通グループ
電通イノベーションイニシアティブで研究開発に携わりながら、ブロックチェーンを活用した顧客体験づくりを行うマーケティングテック企業・SUSHI TOP MARKETING では、CPO/プロダクトエンジニアとして体験設計から実装までを一貫して担当。ハッカソンでの複数受賞歴を持ち、先端技術を起点とした新たな体験創出とプロダクト開発の双方に取り組んでいる。
