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モビリティショーで存在感を示した、いすゞブース。豪華チームが仕掛けた未来体験とは?

 

2025年、過去最多となる522の企業・団体が参加したモビリティの祭典「ジャパンモビリティショー(以下、JMS)。

各社が最新鋭のモビリティを披露しあう中、いすゞグループは未来のモビリティをテーマにした「体験型」の空間を創り上げ、異彩を放ったブースの一つになりました。

「いすゞ/UDトラックスブース」の総合プロデュースを担当したのは、BXCCのクリエイティブ・ディレクター、Dentsu Lab Tokyoの一員でもある中野良一氏。アブストラクトエンジンやgroovisionsといったクリエイティブ界の精鋭とのコラボで作り上げたブースの制作経緯、体験設計のポイントについて聞きました。

「クルマを見る展示」ではなく、「『運ぶ』の未来を想像できる展示」に

──JMSは、前身の東京モーターショーの後継事業として2023年に新たに始まり、今回は2回目の開催でした。前身からの変化を含め、ショーの位置付けについて教えてください。

中野:東京モーターショーとの一番の違いは、従来の自動車の展示だけでなく、ドローンや自動運転、交通システムなどを含め、あらゆるモビリティを対象としている点です。もっというと、車ファンだけでなく、ビジネスの共創パートナーや一般の方々にも新たなモビリティの形を楽しんでもらうというのが大きなミッションで、「ワクワクする未来を、探しに行こう!」をテーマに掲げています。

──「ワクワクする未来」という全体テーマを、いすゞグループはよく体現していると感じました。土台にはどんなコンセプトがあったのでしょうか。

中野:まさに、「ワクワクするクルマ」ではなく「ワクワクする未来」を探しに行くというのがポイントで、モビリティを含めたライフスタイルまで体験できる展示空間への拡張を意識しました。

そのためには、来場者がモビリティを通して自分たちの未来の生活について想像を巡らせられるような、双方向のコミュニケーションの場を目指す。その意図から「『運ぶ』で描こう、みんなの未来。」というコンセプトを立てました。

──このコンセプトはどのようにして設計したのですか。

中野:いすゞが掲げるパーパス「地球の『運ぶ』を創造する」が元となっています。でも「運ぶ」で思い浮かぶものといえば、バスやトラック、あるいは無味乾燥なインフラなどだったりしませんか。いすゞの商用車が提供する「運ぶ」は、実際は私たちの生活や社会と密接に関わっているのに、生活者との心の距離が遠いというか、身近に感じる場面が少ない気がしたんです。

だからいすゞが目指す「運ぶ」が、一人一人の生活を支え、拡張するものであることに共感してもらうのが課題でした。「みんなの未来」としたのは、生活者のウェルビーイングな未来を支える身近な存在であることを強調したかったからです。

「循環と共創」を体現するVCCCを核にしたブース設計

──複数ゾーンに分かれたいすゞの展示で特に印象的だったのが、コンセプトカー「VCCC(Vertical Core Cycle Concept)」の展示です。VCCCをブースの主軸にした狙いは何ですか。

中野:VCCCは、「循環と共創」をテーマにしています。通常は横に伸びるトラックのフレームを縦型にすることで生まれるフレキシブルな機構で、多彩かつ柔軟で迅速な架装が可能です。状況に応じてバスにもトラックにもタクシーにもキッチンカーにもなります。「循環」は、必要に応じて形を変えてフレキシブルに人とモノを循環させ、ヒト・モノの流れを止めないこと。「共創」は、さまざまな運び方でビジネスの共創が生まれることを示しています。

この説明を最初に聞いたときに、まさにブースのコンセプトを体現した車だと直感しました。to Bだけでなくto Cの共創もあり得るので、誰もが「運ぶ」ということを自由に選べる未来の姿をVCCCが体現しているのです。

トラックにもバスにもタクシーにも架装可能なコンセプトカー、VCCC。

中野:もう一つ、ウェルビーイングというと、何か問題があるマイナスの状態からゼロの状態に戻すという文脈で語られることが多いですよね。例えば、凸凹な道路をユニバーサルデザインにするなどが分かりやすい例です。

それも確かに重要なのですが、今回は「未来のウェルビーイング」の話なので、ゼロを100にできる、前進した世界、誰もが何かにチャレンジし、生き生きと暮らしていける未来が舞台になります。だから、そんな未来を支える「運ぶ」の象徴であるVCCCを中心に据えて、ブースを設計することにしました。

──ブースの全体構想の設計から完成形ができるまでは、どんなプロセスがありましたか。

中野:まず、このコンセプトを体現するために必要な「体験」をすべて設計した上で、クライアントに提案しました。もちろんいすゞのソリューション技術や理念が「体験」の土台となるので、いすゞが未来に提供できる価値とは何か、ワークショップを重ねて考えていきました。

そこで設定した「提供価値」を伝えるための具体物への落とし込みを行い、コミュニケーション方法をアップデートしながら、約10カ月かけてブースの完成までこぎつけました。

夢のクリエイティブチームで、期待を超える体験空間を追求

groovisionsが手掛けた、「動くジオラマ」的なアニメーションムービー。町の中でVCCCがさまざまな形に架装し、人やモノを運び、24時間人々の営みを支える未来の様子が描かれる。実際の展示では、循環する町の様子をずっと見続ける子どもの姿も見られた。

──いすゞの商用車が提供する「運ぶ」を、一般の方がより身近に感じられるような体験設計を意識したとのことでしたが、展示の構成部分ではどんな点を意識しましたか。

中野:まず、「循環と共創」というコンセプトを伝えるには一つの展示では難しいと考え、三つのパーツに分けて構成しました。

一つ目はクルマの機能や機構を伝えること。二つ目は未来のクルマのコンセプトを伝えること。三つ目は、それを提供した未来で一人一人の日常のウェルビーイングが具体的にどう変化しているのかを伝えるため、コンセプトムービーでは、フラワーアーティストである主人公の日常を描きました。

──いすゞが描く未来の生活について、groovisionsが手がけたアニメーション映像がとても分かりやすかったです。

中野:VCCCによって循環する未来の街の一日を描いているのですが、説教くさくなく、かつノンバーバルで、子どもも楽しめるものを作る必要がありました。VCCCの三つの映像展示をGMO ENGINEと制作を進めている中で、このアニメーションは、groovisionsにお願いしようということになりました。期待以上の映像表現に仕上がっていたと思います。

──groovisionsの他にも、アブストラクトエンジンをはじめ、国内のクリエイティブ業界をリードする豪華メンバーが多数参加していますが、どのようにこのドリームチームを組成したのですか。

中野:大前提として、一般来場者の方は3000円の入場料を払って「ワクワクする未来」を探しにモビリティショーに来るわけですが、それが個人的にとてつもなく大きなプレッシャーでした。クルマの宣伝で終わらせずに、3000円を払ってでも見たい展示や体験を作らなければいけない。

そのためには各分野の強みを持ち、第一線で人々を喜ばせているプロフェッショナルの協力が不可欠だったので、この人たちと組みたいと思っていました。

アブストラクトエンジンへの依頼は、ステージショーを中心にした「運ぶ」テーマパークのようなブース空間にしたいという意図からでした。会場でVCCCを動かすことは無理でも、動いている姿をリアルに表現したかったのです。ロボット技術と空間を生かしたショーができるのは彼らしかいないので、ぜひ一緒に作りたいとオファーしました。

──VCCCに見立てたロボットがステージで動く様子を、リアルタイムにAR合成し、モニターに投影したり、映像の中に登場した花が会場に実際に飾られていたり、とても立体的な構成になっていましたね。

中野:ARのアイデアは、同様の事例を手掛けたことのあるアブストラクトエンジンからの提案で、実際に動くモビリティとそれによって世界が拡張していく姿を同時に見せるのにぴったりでした。彼らがロボティクスの制作とAR合成システムの開発を、ARムービーの演出はTAKCOMが行い、素晴らしいショーを完成させました。

リアルタイムでAR合成し、投影するのはとても難しかったはずですが、このチームだから実現できたと思います。

アブストラクトエンジンが中心となって手掛けたステージショーでは、ブース内のあらゆるモニターが連動して動く演出となっていた。

──ブース全体を貫くビジュアルコンセプトはどのように作ったのですか。

中野:みんなのウェルビーイングがテーマなので、特定のトーンや人種、文化を感じさせないものにしたいと考え、人のモチーフを使った大胆なデザインを取り入れました。またトラックはハードな印象があるので、中和できるような柔らかいトンマナも意識しました。

中野:アートディレクションとトンマナの設計は、ソフトでお茶目なデザインが得意なカイブツの木谷友亮さんチームと共同で行い、スタッフの衣装もジェンダーレスなフォーマルカジュアルに刷新するなど、小物の細部までデザインを統一しました。

他にも、ブースや体験コンテンツのデザインは展覧会プロデュースの経験が豊かなWOW、動画のCG制作はMARK、ショー音楽は新進アーティストのPeterparker69と、それぞれの強みを発揮していただきました。もちろんわれわれDentsu Lab Tokyoのメンバー、電通ライブも、全体の設計に関わっています。

モビリティショーで見つめ直した、展覧会クリエイティブの本質

美術館、オフィス、旅館などが「運ぶ」で動き、さまざまな空間を移動する未来体験ができるバスツアー。このように自動車の展示ではなく、未来の「体験」ができることを目指したのが、いすゞ/UDトラックスブースの特色だった。


──いすゞブースにはファミリー層の姿も多く見られましたが、全体的な反響はいかがでしたか。

中野:ステージショーの観覧率や企業からの訪問率は非常に高く、また子供の来場者が楽しんでいる様子も連日見られました。いすゞに対するイメージについても「親しみやすい」「身近に感じる」という声をいただけた点では、手応えがありました。

一方で、JMS全体で見ると、まだまだクルマ愛好家に向けたイベントの作りになっており、一般層への訴求が不足しているとも感じます。今は100万人もの来場者で盛況ですが、長期的にファン層が広がらないと、イベントのスケールが縮小していくのではと危惧しています。

──逆に、今回のブース制作から、未来の展覧会のアイデアなど見えてきたものはありますか。

中野:新たな発見というより、展覧会のクリエイティブで自分が大事にしていることの再確認ができたと思います。

一つは当然のことながら、支払っていただいた入場料の対価として、来場者の期待や想像を超えるものを提供しなければいけないということ。そのために、幅広い業界と向き合い培ってきた私たちのクリエイティブの経験や知見、そのすべてを注ぎ込む必要があるのだと再認識しました。

二つ目は、イベントに来場したファンの熱量を外に広げていくことの重要性です。そもそもJMSのようなイベントやミュージアムでの展覧会は、その商品や作品のファンが集まる場なので、彼らの熱量を「内側」に掘り下げていくことは容易です。モビリティショーで言えば、最新のクルマをカッコよく見せることに注力しがちですし、ファンも喜びます。でも会場で撮った写真をクルマ好きでない家族や友人、同僚に見せることがなければ、熱量は広がりませんよね。

IPやブランド、ひいては産業全体を持続させていくためには、ミュージアムというパブリックな体験空間を外側に広げるための装置として捉え、ファン層を広げていく仕掛けが必要なんです。

これは広告の本質と同じで、世間一般の人たちが見たときに共感したり、「自分も参加したい」と思わせたりするような盛り上がりを作れているのかがカギになります。その点で、私たちの強みが発揮できる余地があるはずですし、この視点を今後も大事にしていきたいですね。

クリエイティビティとプロデュース力で展覧会のコンテンツ価値を拡張する「dentsu Exhibition Value Design」提供開始
https://www.dentsu.co.jp/news/release/2025/0207-010840.html
 

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著者

中野 良一

中野 良一

株式会社 電通

BXクリエイティブセンター

クリエイティブ・ディレクター/プランナー

印刷会社、PR会社を経て電通に入社。営業/プロデューサー経験を経て、戦略部門に異動し、その後CR部門にて戦略からコミュニケーションプランニング、統合クリエイティブ・展覧会企画運営およびクリエイティブディレクション・商品開発などを手がけるようになる。Cannes、One show、Clio、Adfes、日本空間デザイン大賞ほか受賞。著書に「ラグビーのルール超・初級編」など。

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