ほぼゴミが出ない!資源循環率99.7%のサステナイベントの裏話
マーケティング×サステナビリティのすてきな関係を、チームでひもといていく本連載。
今回は、大阪・関西万博(EXPO メッセ「WASSE」)で経済産業省が開催した体験型催事「サーキュラーエコノミー(CE)研究所」についてご紹介します。
サーキュラーエコノミーという一見とっつきにくそうなテーマながら、参加者から好評を博し、現在はそのレガシーを活用して循環経済を学べる授業型イベントとして各地で展開している本イベント。
子どもたちがサステナビリティを“楽しく理解できる”体験はどのようにつくられたのか。さらに、イベントに使用した資材の99.7%を再活用するという高い資源循環率を、どのようなプロセスで実現したのか――。
企画の背景から、設計・運営の工夫、そして実装に至るまでの舞台裏を、サステナビリティコンサルティング室の澤井有香、森由里佳、電通ライブ 永川裕樹がお伝えします。
「科学漫画サバイバル」シリーズとコラボした「サーキュラーエコノミー研究所」
大阪関西万博でたった7日間(2025年9月23日~29日)だけの開催だったにもかかわらず、来場者数約5.8万人、協力パートナー100者、資源循環率99.7%——という数字を記録した「サーキュラーエコノミー(CE)研究所」。専門性の高いテーマでしたが、混雑時には30分待ちの行列ができるほどの好評を博しました。
小学生に大人気の「科学漫画サバイバル」シリーズ(朝日新聞出版)とコラボしたイベントは、楽しく学べる仕掛けが満載。会場内にはサーキュラーエコノミーを体感できる4つの研究室が設けられ、漫画の主人公のジオたちと“未来の地球を救う”ミッションに挑むストーリーを体験できます。
今回のイベントの使命は、サーキュラーエコノミー(循環経済)そのものの広報。背景には、日本人の「サーキュラーエコノミー」に対する認知率の低さがあります。
「サーキュラーエコノミー」を知っている人は、3人に1人!?
※全国の18歳以上の方1000人(10〜20代、30代、40代、50代の各世代の男女100サンプルずつ)を対象にしたインターネット調査(2025年7月30〜8月1日実施)/経済産業省調べ
経済産業省の調査によると、「サーキュラーエコノミー」の認知率は約3割。知っている人は3人に1人程度であることが分かりました。
世界ではリニアエコノミー(※1)からサーキュラーエコノミーへの移行が進む一方で、日本では認知が十分に広がっていないのが現状です。この状況を、経済産業省は日本経済にとっても大きな課題だと捉えました。
しかし、単に言葉の認知度を上げればいいというわけではありません。必要なのは一人一人の行動です。
サステナビリティは、イイコトすぎる。そのため、サステナビリティを実装したあるべき姿を提示しても、きれいごとのように感じられてしまい、見た人が日々の暮らしに取り入れるところまで落ちていかない。ならば、一人一人の行動を変えるための課題に焦点を置いた方が有効かもしれないと考えたのです。
そこで、本イベントでは「イイコトだと理解しても、具体的に何をすればよいのかイメージができていないのではないか」という仮説のもと、循環経済を実現するための生活者の行動を「循環型消費行動」として整理。サーキュラーエコノミーに資するアクションを「かう(買う)・つかう(使う)・わける(分ける)・まわす(回す)」という動詞に翻訳し、この考え方をもとに展示の企画設計が行われ、CE研究所の中に、「かう」研究室、「つかう」研究室、「わける」研究室、「まわす」研究室の4つの研究室が用意されました。
※1 リニアエコノミー=資源 → 製造 → 消費 → 廃棄という一方向(直線型)の経済モデル。「大量生産・大量消費・大量廃棄型経済」とも呼ばれる。
まじめな内容だからこそ、「学びになるけど、“お勉強”はさせない!」
いくらやさしい言葉やイラストでサーキュラーエコノミーを説明しても、みんながみんなそれを「自分の暮らしの中に取り入れよう!」とはなりません。そこで、“遊びの導線”を使い、楽しみながらクリアしていくうちに資源を循環させていく考え方を実践できるような仕掛けがつくられました。
例えば、「かう」研究室では、商店街を再現した空間で実際に商品を手に取りながら、「どうしたら本当に“イイ”買い物ができるのか?」を謎解きで体験できます。あえて大人でも悩む問題を用意し、子ども向けの入り口でありながら大人も没入できるように設計されています。実際に親子で何度も挑戦し、2時間以上滞在する参加者もいました。
「わける」研究室では、ゲーム感覚でごみの分別にチャレンジできるよう設計。来場者にはゴミに見立てた6枚の「ごみチップ」が渡されます。それを、リサイクルの町・大崎町(鹿児島県)の取り組みを参考に作られた28分類のごみの分別用の「わけまくりマシン」に分類します。例えば、科学漫画サバイバルに登場する「ノウ博士の資料の出力」は、一般ごみなのか……? 」と悩む参加者もいました。正解の分類は「コピー用紙」でした。
展示を貫くストーリーは、「この展示会でのあなたの決心とその後の行動が、滅びかけた未来を救う」というストレートなもの。最終的には、来場者が“世界の救世主として「未来新聞」の一面を飾る”という、ちょっとしたおみやげもついてきます。自分の名前や来場日、やると宣言したサーキュラーアクション(みんなのCEアクション宣言)も印刷され、万博の来場記念としての顔をうまく使いながらリマインドをかけるアプローチも印象的。他にも、ノベルティ冊子やカードゲームなど、日常にアクションを取り入れられる仕掛けが詰め込まれました。
結果として、この展示会体験を通じて99%以上の方が「サーキュラーエコノミー」を実現したいと回答。来場者の方が選んだアクションは「地元産の食べ物を食べる」「リユース品を買う」といった、身近な購買行動に関するものが多く選ばれていました。こうした結果を見ても、いかに身近で簡単なアクションに落としこむかが大切だと感じます。
驚異の資源循環率99.7%を実現した“展示づくり”の舞台裏
メッセージだけでなく、具体的な行動が伴っていないとグリーンウォッシュにもなりかねない環境領域。今回のイベントでは、施工資材そのものの資源循環率向上に向けた取り組みも実施されました。通常のイベントでは、会期後に多くの資材が廃棄物として処理されがちです。そこで採用されたのが、「作って・使って・壊す」というリニアエコノミーな前提を見直し、企画・設計の段階から“循環する前提”での制作方針でした。
具体的には、最初に部材ごと、エリアごとにレンタル品や再利用品を選定し、選んだ資材を使う前提で空間デザインが行われました。さらに、新規に手配する場合は、段ボールパネル、紙管、出力紙などマテリアルリサイクル(※2)しやすい素材に限定。素材検討の段階から「どこで、どのようにリサイクルするか」までを事前に組み込み、廃棄を前提としない設計・運用を実現。その結果、資源循環率はなんと99.7%を達成!「作っては壊す」プロセスが一般的なイベント業界の基準を大きく上回りました。
※2 マテリアルリサイクル=使用済み製品や廃棄物を“材料として”再利用するリサイクル方法
会期後は資材ごとに分別・計量を行い、QRコードを付与して回収から再資源化までをデジタルで管理。資源のゆくえを「見える化」するトレーサビリティ付与により、精度の高い循環管理が可能となりました。
イベント制作においてサーキュラーエコノミーに取り組むメリットは、単に環境負荷を下げることができる、という点だけではありません。
環境負荷低減という社会貢献に寄与するファクトができることで、イベント自体のPR価値を高められること、そして資源の無駄を徹底的に減らすことで予算効率化を図ることができることも、主催者にとっては非常に魅力的なメリットになります。
初の試みで改善点もまだありますが、多くの気づきを与えてくれたこのイベントは、サーキュラーエコノミー実装のモデルケースとして非常に有意義なものになりました。
レガシーも活用!資材も知識も“ぐるぐる、まわす”
再利用できるのは、資材だけではありません。本イベントでは、そのレガシーを活用して「サーキュラーエコノミーのがっこう」が各地で開催されています。万博で使用した展示物の一部や学習冊子を教材として再活用し、カードゲームも組み合わせた授業型の参加プログラムとして展開しています。
プログラムの主役となるカードゲームは、本プロジェクトで開発した「循環型消費行動」をもとに開発したメモリーゲーム。遊んでいると、いつのまにかサーキュラーエコノミー関連の用語やアクションを覚えてしまう仕組みです。
会場では、子どもたちが「ペーパーレス!」「シェアリング!」「サーキュラー!」と言いながら盛り上がり、大人顔負けの“CEネイティブ”が誕生していました。
授業イベントは、富山、京都、東京、埼玉でも開催され、参加者からは満足の声が寄せられています。
また、舞台を変え、希望のあった小学校でも特別授業が実施されました。
多くの子どもたちがサーキュラーエコノミーという言葉を初めて聞いたにもかかわらず、今日から自分ができる行動は何か?まで、一生懸命考えてくれました。
資源だけでなく、イベントで生まれた学びや気づきも、次の場へ、次の世代へと循環させていく。これも立派なサーキュラーエコノミーといえると思います。
サステナビリティにこそ、心躍るスイッチを。
今回は、サーキュラーエコノミーをテーマとしたイベントに焦点を当ててご紹介しました。
サステナビリティは、本来ビジネスだけでなく生活者にとっても重要な課題であり、そのことは、特に子どもたちや若い人たちのあいだでは常識になってきています。みんながうっすらと分かっているからこそ、重要なのは、いかに一人一人の行動へと根付かせていけるか。
「サーキュラーエコノミー(CE)研究所」のイベントが、サーキュラーエコノミーについて伝えるだけでなく、“やってみたくなる”仕掛けを重ねたのもそうした考えからでした。
そして、行動を促すには、“心躍るスイッチ”が必要です。電通サステナビリティコンサルティング室は、企業の皆さまとともに心躍るサステナビリティをビジネスへと実装していきます。
<今回のまとめ>
・サステナはイイコトすぎて流れてしまうので、行動を作りたければ課題起点のアプローチが効く
・まじめなテーマだからこそ、「“お勉強”はさせない企画設計」がポイント
・「生活者が明日から暮らしに落とし込むには?」という視点で出口も設計しよう
・サステナを扱うなら、企画段階から資源循環への意識を織り込んだ設計へ!
・資源も知識もぐるぐると再利用し、バトンをつないでいこう!
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著者

澤井 有香
株式会社 電通
サステナビリティコンサルティング室
コンサルタント
HR系のクリエイティブ会社を経て、電通へ入社。ビジネスプロデューサーとして飲料/食品/AI/化粧品業界を担当し、ブランド業務を中心に、広告制作・新商品開発・事業立ち上げ等、活動。保護猫を家族に迎え入れたことをきっかけに、社会課題への意識が高まり、サステナビリティコンサルティング室へ。現室では、生物多様性を中心にさまざまなサステナビリティ領域で活動中。猫とビールとキャンプを愛する。

森 由里佳
株式会社 電通
サステナビリティコンサルティング室
クリエイティブライター/プランナー
広告コピーライターを経て、BX領域へ。ブランドコミュニケーションの他、経営/環境ビジョン開発、事業開発、ナラティブ開発、表現コンサルティング、インナーアクティベーションの設計等、言語化を軸に幅広い分野に取り組む。出産を機にサステナビリティへの課題意識が高まり、SX関連プロジェクトを多く受け持つ。「バタフライチェック」のクリエイティブを担当。ウイスキーと舞台を愛する。

永川 裕樹
株式会社電通ライブ
経営推進局 ネクストビジネス開発部
2015年大阪大学大学院卒業後、株式会社電通テックに入社。2018年に電通ライブに転籍。以降、スペース部門に所属し、ショールーム、店舗開発、大規模展示会、国際スポーツイベントなど幅広い案件の空間プロデュース業務に携わる。現在は設計・施工の知識を生かしながら、イベント領域のサステナビリティ推進活動に邁進中。 一級建築士・宅地建物取引士










