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公開日: 2026/03/17

半径5メートルの経験から企画は生まれる。飯田羊の課題解決クリエイティブ

飯田 羊

飯田 羊

株式会社 電通

月刊CX編集部

月刊CX編集部

株式会社 電通

日々進化し続けるCX(カスタマーエクスペリエンス=顧客体験)領域に対し、電通のクリエイティブはどのように貢献できるのか?電通のCX専門部署「CXCC」(カスタマーエクスペリエンス・クリエイティブ・センター)メンバーが情報発信する連載が「月刊CX」です(月刊CXに関してはコチラ)。

コピーライターの飯田羊氏は、AIが絵本を自動生成するAIえほん「おぼえたことばのえほん」やエスエス製薬のドリエルが実施した睡眠計量e-SPORTS CUP「SLEEP FIGHTER」、マイナビSTARTの「CAREER TOYS」など、さまざまな企画に携わっています。

「半径5メートルの経験から企画が生まれる」と語る飯田氏。これらの企画は、普段読む本や毎日とる睡眠、誰もが直面する就活など身近なインサイトを綿密に分析して形にした点で共通しています。同氏の視点と考え方は、これから新たなクリエイティブを生み出す上で大きなヒントになるかもしれません。

今回は、「マイナビSTART」内の「CAREER TOYS」を題材に、良いクリエイティブと体験デザインを生み出す秘訣についてひもときました。

【飯田羊氏プロフィール】
電通
カスタマーエクスペリエンス・クリエイティブ・センター
プランナー/コピーライター
コピーライティングの技術を軸にしながらコンテンツ制作やPRコミュニケーションなど表現領域を幅広く手掛ける。プロダクトを起点にしたPR設計を研究中。

【「CAREER TOYS」 他クリエイティブメンバー】
伊藤光弘(CXCC)・木村里奈(4CRP)・小池駿之介(CXCC)・佐藤一葉(4CRP)・瀬川茜(16BP)

※ 4CRP:第4CRプランニング局
※ 16BP:第16ビジネスプロデュース局
※ 所属・役職は取材当時のものです。

“おもちゃ”を通じてキャリア教育を楽しくする「CAREER TOYS」

月刊CX:「CAREER TOYS」とはどのような企画なのでしょうか。

マイナビSTART

飯田:「CAREER TOYS」は、自己分析や面接練習といったキャリア教育のトピックを、おもちゃのようなツールを使って楽しく向き合う試みです。大学1〜2年生向けキャリア支援サイトであるマイナビSTARTで展開していて、2025年11月からは大学での出張授業も開催しています。

ターンテーブルを回して自分を魅力的に伝える言葉の組み合わせを探す「REWORDING RECORD」
自分の好きなことを膨らませて心からやりたいことに出会う「FLYING RULER」
過去の体験から自分の心が動いた瞬間を探すことで自分だけの旗をつくる「SELFLAG」
仮面をつけて人と話すことで自分の本音を見つける「OMEN-TOR」

飯田:おもちゃは全部で4つあり、学生たちが遊ぶようにワークショップを行います。立ち上がって3年ほどですが、毎月のようにワークショップを行い、僕自身もスピーカーとして500人以上の学生に授業をしてきました。対面で感想やリアクションをもらえるため、学生たちから受け取ったフィードバックを次の授業に生かすようにしています。

月刊CX:とてもユニークですね。キャリアについておもちゃを使って考えるという視点はありませんでした。

飯田:キャリアデザインは自分の人生を考える上でとても重要です。しかし、大学で自身が受けたキャリア教育を思い出すと「言っていることは正しいかもしれないけど、聞いていておもしろくないな」とすごく退屈に感じた思い出があります。

そんなキャリア教育を楽しめるものに変えて、どのように手触りのある形で残すかを考えたとき、ストレートに「キャリア教育を楽しめるおもちゃをつくろう」と思いました。誰かと一緒でなくても、このおもちゃを使えば一人で自分のキャリアを深掘りできます。

月刊CX:学生たちの反応はいかがでしたか。

飯田:非常に好感触でしたね。おもちゃを使うことで、人と話すのが苦手な子や自己主張が苦手な子もすごくおもしろい意見を出してくれたりして。お世辞抜きにどの学生もとても素晴らしいし、自分自身も勉強させてもらっています。

「今まで隠していたけど、好きだと思っていたことを人前で言っていいんだ」と学生から聞いたときは非常にうれしかったです。CAREER TOYSを通して、何かおもしろいことを考えている人が声を大にして発信できるきっかけをつくれたらいいなと思っています。

月刊CX:クライアントの反応はいかがでしょう。

飯田:クライアントにも非常に喜んでいただきました。マイナビの方とは相方……というと語弊があるかもしれませんが、距離の近いお付き合いをさせていただいていて。クライアントは当然学生への解像度がとても高いため、学生について教えてもらいながら、いいクリエイティブを生み出すことができました。双方の知見を結集したからこそできたことですし、クライアントとの関係値も大きかったです。3月からはさらなる展開も予定していて、現在も併走しながら企画を考えています。

「何をゴールにするか」は大事だが、ゴールはユーザーに見えないように

月刊CX:「CAREER TOYS」の体験設計で気をつけていたことはなんでしょうか。

飯田:広告全体としても言える話ですが、今回の「CAREER TOYS」でいうと“ワークショップ感”を出さないことは大きなポイントだったかもしれません。学生たちに「大人がキャリア教育をさせている」と思われてしまうと一気にしらけてしまいます。他の広告施策でも“広告感”が出た瞬間に冷めてしまったことは誰しも経験があるはずです。

「CAREER TOYS」の場合、ゴールは「キャリア教育を楽しむ」ですが、その達成目標をユーザーに見えないようにカモフラージュすることが大事でしたね。その上で重要な体験を持ち帰ってもらうということには骨を折りました。おもちゃという考え方が非常に有効だったと思います。

ただ、バナーなどで広告をかけると「何を得られるのか」を明確にしたほうが人が集まる傾向があります。しかし、来場者にとってはこちらの魂胆が透けると満足度が落ちてしまうという……。広告的には塩梅が難しいところだなと感じています。

月刊CX:飯田さんが今回の企画、ひいては企画づくりで大切にされていることを教えてください。

飯田:今回の企画にかかわらず、「何をゴールにするか」を明確にした上で「既視感のないゴールまでの道筋」を考えることが大切だと考えています。おもしろくすることは最低条件で、こういうルールでこういう体験をつくるとどのような態度変容が起こせるかを常に考えて企画づくりをしています。

今回の「CAREER TOYS」も、ゴールは「学生がどのようにキャリア教育を楽しめるようにするか」でした。そのゴールに向けてどのようにアプローチしていくかというツールが“おもちゃ”だったんです。その中でどのように体験設計をして態度変容を想定するかという見極めこそが大切なところだと思います。

月刊CX:ユーザーが目的にたどり着くまでの過程をどのようにおもしろく演出するかは、企画者の腕の見せどころですね。

飯田:その通りだと思います。ユーザーの楽しさを見極めるために周りの人の体験をヒアリングしたり、プロトタイプをつくって複数人で検証したりと、そうした努力を惜しまないことが肝心です。

生活の中での気づきから企画は生まれてくる

月刊CX:これから飯田さんが挑戦してみたいことがあれば教えてください。

飯田:身内に教育関係の仕事に携わる人が多いこともあり、昔から教育分野の企画に興味がありました。今回の「CAREER TOYS」のように、教育系の企画にはどんどん挑戦してみたいですね。

クリエイティブでは、何か新しいルールをつくって、そのルールで誰かが救われたり新しく物事が楽しめるようになったりする企画づくりができればと考えています。僕は大学生のときに「暗黙知をどう形式知に変えるか」という研究をしていたこともあり、物事をルールや構造で考えるのがとても好きなのです。自分のつくったルールで誰かが少しでもポジティブになれるようなクリエイティブをつくれたらいいなと思っています。

月刊CX:最後に、クリエイティブを課題と掛け合わせることに悩むクリエイターに向けて何かメッセージをお願いします。

飯田:うーん……あまり偉そうに言えないんですが、僕は3〜4年前から背伸びをするのをやめたんですよね。入社したばかりのころは「一流のクリエイターとしていい広告をつくりたい!」と思っていました。今でももちろんその気持ちはありますが、無理してそちらにいくのではなく、身の回りの人や自分自身の課題をもとにコンテンツやクリエイティブをつくるのも良いのかなって。そのほうが共感してくれる人が多いし、上手くいくなと最近思うようになってきました。「おぼえたことばのえほん」も自分の子どもとの経験が企画に生きていますし、「SLEEP FIGHTER」も育休中のときにしっかり寝るとパフォーマンスが良くなるという僕自身の気づきがもとになっています。

だから、アドバイスするとしたら、身の回りにいる人の課題や、自分が本当に共感できる課題から深掘っていく企画づくりが大事なのではないでしょうか。僕もそのために家族や友人、近しい人たちの話をしっかり聞いて、半径5メートルの誰かの課題や問題意識を自分ごとにして何ができるかを常に考え続けています。


(編集後記)
電通で「おぼえたことばのえほん」「SLEEP FIGHTER」「マイナビSTART」など、さまざまな企画に携わるコピーライターの飯田羊さんにお話を伺いました。

新たなルールや構造で身の回りのものを別視点からユニークに生まれ変わらせる飯田さんの手腕には思わず舌を巻きました。飯田さんの身の回りのインサイトを見つける企画づくりは、誰かの課題や自分の課題を深く考える飯田さん自身のやわらかな歩み寄りから生まれているのだと思います。

今後こういう事例やテーマを取り上げてほしいなどのご要望がありましたら、下記お問い合わせページから月刊CX編集部にメッセージをお送りください。ご愛読いつもありがとうございます。

 

月刊CX編集部
電通CXCC 木幡 小池 大谷 奥村 古杉 イー 齋藤 小田 高草木 金坂

※掲載されている情報は公開時のものです

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飯田 羊

飯田 羊

株式会社 電通

カスタマーエクスペリエンス・クリエイティブ・センター

プランナー/コピーライター

コピーライティングの技術を軸にしながらコンテンツ制作やPRコミュニケーションなど表現領域を幅広く手掛ける。プロダクトを起点にしたPR設計を研究中。

月刊CX編集部

月刊CX編集部

株式会社 電通

CXCC(CXクリエーティブセンター)

電通のCX専門部署「CXCC」メンバーがCXとクリエイティブについて情報発信する連載「月刊CX」の編集チーム。局内または社内の優れたCXクリエイティブの成功事例を取材することで、CXクリエイティブの本質や可能性を解き明かす。コアメンバーは、木幡容子、小池宏史、大谷奈央、奥村広乃、古杉佑太郎 、イースピン、齋藤敬介、小田健児、高草木博純、金坂基文で全員CXCC所属。

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