創業から125年、日本の製粉業を支えてきた日清製粉。
業務用小麦粉のトップシェアを誇り、その技術を海外にも広げてきた同社が節目に挑んだのは、単なる記念事業ではなかった。この先の成長を見据え、「未来のありたき姿」を描き直すという、経営の本質に迫る取り組みだった。
伴走役となったdentsu Japan(国内電通グループ)は、日清製粉の経営陣と共に未来像を構想し、言語化・ビジュアル化を行う「共創型クリエイティブセッション」を実施。そこから「食文化創発カンパニー」という新たな事業概念が生まれた。その背景と変革プロセス、今後の展望について、日清製粉 取締役社長の山田貴夫氏と、電通のキーパーソンが語り合った。
聞き手 日経ビジネス発行人 松井 健
※このコンテンツは2025年11月14日に日経ビジネス電子版SPECIALに掲載されたPR記事の転載です。https://special.nikkeibp.co.jp/atclh/ONB/25/dc1_dentsu1114/
※掲載されている情報は2025年11月14日時点のものです。
節目の年に見直した「未来のありたき姿」
松井:業務用小麦粉において、国内約4割のシェアを担う日清製粉さん。創業125年を迎えた2025年には、DX技術を集約した水島工場を岡山県に竣工しました。
山田:この竣工を機に、日清製粉の将来に向けたビジョンを発表しました。私たちは、「その想いに、小麦粉でこたえたい。」という新しいコンセプトのもと、グローバルに展開する「食文化創発カンパニー」を目指してまいります。
松井:ビジョンの策定にあたり、「未来のありたき姿」を模索された背景をお聞かせください。
山田:私どもの事業の中心は、業務用小麦粉の製造販売です。小麦粉は国民生活に欠かせないものであり、安定供給を担う責任は非常に重い。一方で、国内市場は人口減少や高齢化に直面しており、従来のやり方のままでは難しいと感じていました。そこでこの節目を契機に、第三者の視点も取り入れながら、当社の進むべき方向性をあらためて見直したいと考えたのです。
日清製粉 取締役社長 山田 貴夫氏松井:圧倒的なシェアと知名度を誇る御社が、それでも変革を迫られた理由は何だったのでしょうか。
山田:市場環境が変化するなか、小麦粉のあり方やビジネスモデルもこれまで通りというわけにはいきません。また持続的成長のためには、国内で培った技術や食文化を世界に広げていく必要があります。それには、大きな変革が必要でした。とはいえ、安定供給を基盤に日本の食文化を支えていく、という使命に変わりはありません。これからも小麦粉ビジネスの本質を大切にしながら、新しい挑戦に踏み出していきたいと考えています。
電通 第20ビジネスプロデュース局 シニア・統合マーケティング・プロデューサー 鹿川 耕治郎 氏松井:この挑戦に、dentsu Japanが伴走することになった経緯を教えてください。
鹿川:2023年に日清製粉グループ本社から新事業概念や「ありたき姿」の整備についてご相談をいただき、その後、広告制作を担当しました。それをきっかけにグループ全体への理解を深め、中核企業である日清製粉さんからお声がけをいただいたのが始まりです。製粉事業はグループの祖業でもあり、「ついに来たか」と身の引き締まる思いで臨みました。
経営陣との対話から生まれた「食文化創発」というワード
松井:日清製粉の未来像を創発するにあたって実施した、「共創型クリエイティブセッション」についてお聞かせください。
吉川:一言でいえば、クリエイターとクライアントさまで化学反応を起こす共創ブレストです。山田社長をはじめ役員の方々とdentsu Japanのメンバーが、クリエイティブの手法を用いて対話することで、日清製粉さんの本音を引き出し、未来に向けた新しい可能性を発見することが狙いでした。
松井:具体的には、どのように進められたのですか?
吉川:セッションは3部構成で行いました。最初は「2035年の日清製粉の記者会見」という設定で役員のみなさまに行う未来インタビューを実施。かなり先の未来の設定にすることで、現実的な壁を取っ払い、本当に実現したい未来やwillを引き出すのが狙いでした。2回目はコンセプトとなるキーワード案を提示し、議論を重ねて言葉を絞り込みました。そして3回目にはビジュアルも加え、言葉と絵を突き合わせることで、みなさんの想いを集約。その場で生まれた言葉やイメージをもとに、「ありたき姿」を明確にしました。
「共創型クリエイティブセッション」の様子。議論の内容を即座に言語とビジュアルで見える化し、想いを集約していった山田:これまでにもコンサル会社と意見交換をする機会はありましたが、今回のやり方は全く異なっていました。電通さんと対話することによって、普段は意識していなかった想いが自然に言葉となり、新たな気づきが得られたのです。私たちが125年間にわたって新しい小麦粉や食文化を生み出してきた歴史も、語るうちに一つのストーリーとして再認識することができました。
松井:経営陣との議論を通じて、新しい発見はありましたか?
吉川:当初、水島工場は「効率化やDXの象徴」と理解していましたが、その根底には、日本品質の小麦粉や食文化を世界に広げる狙いがあったことが分かりました。海外のラーメンやパスタを日本のカルチャーとして再創造してきたように、今後は海外に日本の食文化を広め、創り変えていく。その強い想いが、「食文化創発カンパニー」というワードに結実しました。これは私たちが提案したというより、経営陣のみなさん自身の議論から自然に生まれたものでした。
松井:社内の反響はいかがですか?
山田:電通さんに制作していただいたビジョンムービーを、水島工場竣工イベントで発表した際には、多くの共感が得られました。映像にはさまざまな小麦粉や食品が登場し、それを見た社員も、「自分たちはこんなにも多くの価値を創ってきたんだ」と誇らしく感じていたようです。
「共創型クリエイティブセッション」を経て制作されたビジョンムービー
ビジネスパートナーとしてのdentsu Japanの強み
松井:今回の取り組みで、dentsu Japanのイメージは変わりましたか?
山田:電通さんといえば、やはりクリエイティブ集団の印象が強くありました。ところが、実際のセッションでは、言葉の開発にとどまらず、製粉業の企業価値やビジネスの起点をどこに置くかといった議論にまで踏み込んでいただけました。今回の共創を通じて、広告会社の枠を越えた、信頼できるビジネスパートナーだと認識を改めました。
松井:dentsu Japanとして、経営課題に向き合う際のこだわりをお聞かせください。
鹿川:今の時代、単に商品を広告して売るというだけでは事業成長につながりません。クライアントさまの目指す姿や戦略そのものを深く理解することが不可欠です。そのために、「歴史やDNA」と「現在の経営者の想い」について、徹底的に学びます。もちろん、「日清製粉100年史」も繰り返し読ませていただきました。
吉川:私が重視するのは二つ。一つは「混沌(こんとん)をつくる」ことです。一般的にコンサルは「収集・整理・分析」を重視しますが、私たちは「混沌・探索・発見」を大切にしています。共創型クリエイティブセッションも、この混沌を生むための仕掛けでした。もう一つはストーリーテリングです。断片的な発言を拾い、一つの文脈や言葉にまとめる力は、電通の強みだと考えます。
電通 フューチャークリエイティブリード室 グループ・クリエイティブディレクター 吉川 隼太氏松井:そうして生まれたのが、「その想いに、小麦粉でこたえたい。」という新コンセプトですね。
鹿川:おいしさや健康、食文化を創りたいという想いに、小麦粉という素材でこたえる。その積み重ねが、日清製粉さんが世に広めた冷凍麺やナポリピッツァであり、現在注力されている「アミュリア」にもつながっていくと考えました。
山田:アミュリアは、食物繊維を豊富に含み、食物繊維の約80%が発酵性食物繊維※の小麦粉です。この原料を使用したパンや麺といった多種多様な製品を広めることによって、毎日の食事で健康に寄与していきたいという想いがあります。これも新しい食文化創りの実践の一環です。
吉川:実はセッションではもう一つ、「形がないから自由がある」というコンセプト案もありました。これは、ビジョンムービーの表現に生かされています。小麦粉はそれ単体では食べられませんが、食材や技術、人との出会いによって文化を生み、国境を越えて広がっていく。そのストーリーが映像として形になったのは、とても意義深いことだと思っています。
※発酵性食物繊維は腸内細菌の増殖をサポートする食物繊維。
新たな食文化を生むことで小麦粉の価値を広げていく
松井:今後の展望をお話しください。
山田:国内市場が大きく伸びることはありませんが、新しい食文化は次々と生まれています。そこに関わることで、日清製粉の存在価値を高めていきたいと考えています。また、海外では日本食への関心も高く、外食チェーンの進出も進んでいます。われわれもその後押しをしながら、グローバルに事業を拡大していきます。今回のビジョン構築はそのための基盤です。これを国内外にしっかりと根付かせていくために、今後も発信を続けてまいります。
鹿川:山田社長とお話しして強く感じたのは、「小麦粉は食のインフラでありながら、食文化を生み出す力を持つ」ということです。「食文化創発」は、まさにそれを表す言葉であると同時に、日清製粉さんの存在意義や事業戦略そのものを指しています。今後は、この概念を人材戦略や働き方にも拡大し、引き続き全力で伴走させていただきたいと思います。
吉川:コモディティといわれがちな小麦粉も、「食文化を創る素材」と再定義した瞬間、成長産業に変わる。そんな夢のあるストーリーをご一緒できたことをうれしく思います。今後、日清製粉さんがどんな食文化を創っていくのか楽しみですし、われわれもそのエンジンづくりの力になれるよう、ご支援させていただきます。
山田:小麦粉は原材料だからこそ、広がりがあります。単なる素材も、創造によって「食文化」へと昇華し、バリューが生まれる。これからも電通さんと共に新たな価値創造に取り組んでいくことを、私たちも楽しみにしています。
取材を終えて
日経ビジネス発行人 松井 健
125年目という区切りの年に日清製粉は、dentsu Japanという第三者の視点を取り入れることで、
自社の潜在的な強みを再発見し、次なる成長への道筋を描くことができました。
このアプローチ自体が革新的であり、「食文化創発」という新たな視座から、
製粉業界の可能性を広げる契機となりました。
dentsu JapanのBX(ビジネス・トランスフォーメーション)支援が、
日清製粉の事業拡大に実質的な貢献を果たした今回の共創は、両社にとって、
価値のある取り組みとなったのではないでしょうか。