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ブロックチェーン×AIで広がるメディアの「体験価値」

徳永 大輔

徳永 大輔

SUSHI TOP MARKETING株式会社

森下 翔馬

森下 翔馬

株式会社 電通グループ

伊藤 弘和

伊藤 弘和

株式会社電通

片桐 耕平

片桐 耕平

株式会社電通


デジタル技術の進化で、企業と生活者の関係は大きく変わりつつあります。オンライン・オフラインを問わず、あらゆる接点で生まれる体験を、どう理解し、どう次の体験へとつなげていくのか。

そのカギを握るのが、ブロックチェーンとAIです。

ブロックチェーンは行動を“記録”し、AIはその記録を“読み解き”ます。この2つを組み合わせることで、これまで点在していた顧客接点を“ひとつなぎの体験の流れ”として把握し、その流れを次のより良い体験につなげることができます。

本稿では前回に続き、電通とSUSHI TOP MARKETINGが共同開発・展開する生活者の行動分析サービス「みんなのあしあと」にフォーカス。具体的にどのようなマーケティング施策で役立てられているのか、プロジェクトに関わる4人に伺いました。

ブロックチェーン×AIで変わるマーケティング
左から電通グループ森下翔馬氏、SUSHI TOP MARKETING徳永大輔氏、電通伊藤弘和氏、片桐耕平氏

行動をつないで捉える、ブロックチェーン×AIソリューション「みんなのあしあと」とは?

──はじめに、みなさんの自己紹介をお願いします。

伊藤:電通メディア・コンテンツ・トランスフォーメーション局(MCx局)ビジネス変革プロデュース2部でGMを務めています。メディアの次世代ビジネスをつくるというミッションのもと、NFT(Non-Fungible Token)を活用したソリューション実績のあるSUSHI TOP MARKETINGさんと一緒に「みんなのあしあと」プロジェクトを立ち上げ、全体の統括をしています。

片桐:伊藤さんと同じ部署で、「みんなのあしあと」のプロジェクト・マネージャーとして、事業推進を担当しています。

徳永:2021年、代表を務めるSUSHI TOP MARKETINGを設立しました。電通さんと一緒に「みんなのあしあと」のソリューションを開発し、全体のサポートも行っています。

森下:私は、SUSHI TOP MARKETINGのCPO(Chief Product Officer)として、本プロジェクトではソリューション開発のテックリードを務めています。

ブロックチェーン×AIで変わるマーケティング(森下翔馬氏)
電通グループ/SUSHI TOP MARKETING森下翔馬氏

──「みんなのあしあと」とはどのようなサービスでしょうか?

片桐:一言で言うと、生活者の体験が積み上がり、その流れをAIで可視化・分析できるサービスです。

生活者が参加・視聴・購入などのアクションをとると、それがブロックチェーン上に証明付きのデータとして蓄積されます。重要なのは、単発の施策ごとに分断されるのではなく、複数の施策やチャネルを横断して、同じ生活者の体験がひと続きの流れとしてつながることです。

例えば、あるキャンペーンに参加した人が、その後どの施策に反応し、どの接点で離脱したのか。あるいは、継続的に参加している人にはどんな共通点があるのか。そうした「行動の流れ」や「次に起こりやすいアクション」を可視化します。

単なる結果集計ではなく、“行動を起点にした因果の兆し”を捉えられる点が特徴です。そして、その分析結果をもとに、次に打つべき施策の意思決定につなげることができます。

──生活者の体験は、どのように可視化されるのでしょうか?

森下:生活者が特定の行動をとったタイミングで、NFTを“デジタルスタンプ”として発行し、行動のたびにスタンプが増えていく仕組みです。

例えば、テレビ番組を視聴した方やイベントに参加した方に二次元コードを読み取っていただき、NFTを発行します。取得されたNFTは「ウォレット」と呼ばれる共通IDにひもづき、スタンプラリーのように体験が重なっていきます。

NFTとは、ブロックチェーン上で扱われる固有性を持ったデジタルデータです。私たちはこれを投機的な資産としてではなく、“その人がどんな体験をしてきたかを示すデジタルスタンプ”として活用しています。

ウォレットには個人情報は含まれません。そのため企業は匿名性を保ったまま、生活者の体験の流れを把握できます。一方、生活者は、獲得したNFTに応じて限定映像やクーポンなどの特典を受け取ることができます。

このように、行動をきっかけにNFTが積み上がり、体験がひと続きの流れとしてつながっていきます。

片桐:「みんなのあしあと」は2024年にローンチし、2025年8月に「みんなのあしあと2.0」としてSaaS型へアップデートしました。

今回のアップデートでは、クライアント企業の現場担当者が、自らNFTを発行できるようになりました。これまでは都度サポートが必要だった部分を、現場主導でスピーディに実行できるようになった点が大きな進化です。

さらに、専用のAIダッシュボードを搭載し、配布されたNFTの取得状況や継続傾向、回遊パターンなどを、データ分析の専門知識がなくても、直感的に把握できるようになりました。「どの施策が接点を生み出しているのか」といった状況判断が、担当者レベルで行いやすくなっています。単にNFTを発行できるツールから、接点を蓄積し、次のアクションにつなげる意思決定基盤へと進化した。それが「みんなのあしあと2.0」です。

番組視聴の“後”の体験を可視化し、施策成果を明らかに

電通 伊藤弘和氏

──「みんなのあしあと」を開発した背景として、メディアや顧客企業はどのような課題を抱えていたのでしょうか。

伊藤:メディア側にとっては、自社媒体に接触した生活者が、その後どのような行動をとったのかを追いきれないことが悩みでした。例えばテレビ局では、これまでも視聴率などを通じて「番組を見た人」の規模は把握できていました。しかし、番組視聴をきっかけに来店や購買、キャンペーン参加といった行動が生まれたのかどうか、その流れをつかむことは困難でした。

一方で、メディアに協賛する企業側も同様の課題を抱えていました。購買数やキャンペーン応募数といった“施策単体の成果”は測定できても、それがどの体験を起点に生まれたのか、複数の施策やチャネルをまたいで検証することが難しかったのです。

結果として、メディアコンテンツと、その先にある顧客体験との関係は、定量的に検証するというよりも、経験や感覚に頼らざるを得ない状況でした。「接触は見えるが、行動の連なりは見えない」この分断こそが、私たちが解決したい課題でした。

徳永:この課題には、キャンペーンなどで収集した生活者データを、中長期的に管理し続けるコストとリスクの問題も深く関わっています。一般的なデジタルキャンペーンでは、メールアドレスを取得して会員登録を促すケースが多いと思います。しかし、そのデータを安全に保有・運用するためには、堅牢(けんろう)なシステム設計やサーバーインフラの維持が必要となり、継続的なコストが発生します。

さらに、個人情報を保有し続けること自体が、企業にとってリスクとなります。情報漏えいへの対策や法令対応、管理体制の整備など、運用負荷は年々高まっています。

つまり、「データを活用したい」というニーズがある一方で、「データを持ち続けることの負担とリスク」が年々増している。このジレンマが、メディアや企業にとっての課題でもあると認識しています。

SUSHI TOP MARKETING徳永大輔氏

──これらの課題に対して、「みんなのあしあと」はどのように貢献しているのでしょうか。

徳永:私たちは、個人情報を企業側で保有し続けなくても、生活者の体験の流れを捉えられる仕組みを構築しています。NFTはメールアドレスなどの個人情報を取得せずに発行でき、取得されたNFTはウォレットにひもづき、施策やチャネルを横断して体験が積み上がっていきます。

その結果、企業は生活者個人の匿名性を保ちながら、どの接点を経て次の行動に至ったのかを中長期的に把握できるようになります。

これは生活者の立場からすると、個人情報を登録することなく、さまざまなキャンペーンに参加したり、それによって特典が得られたりするということ。負担なく、楽しめるコンテンツが増えるという点は、生活者にとってのメリットと言えます。

──SUSHI TOP MARKETINGにはどんな強みがあり、本プロジェクトにどう生かされているのでしょうか?

徳永:最大の強みは、生活者に“ブロックチェーンを感じさせない”UXを実現できる点です。

多くのNFT施策では、アカウント開設やアプリのインストールなどの手間が発生します。しかし私たちは、二次元コードの読み取りだけでNFTを受け取れる仕組みを構築しました。LINE上で完結するフローも可能です。

つまり、生活者は特別な知識や準備を必要とせず、自然な体験の延長線上でNFTを受け取ることができます。技術を主張しないこと。それが、私たちのブロックチェーン技術の本質的な強みです。

森下:NFTの配布方法は、二次元コードの読み取りだけではありません。スタンプラリーやAR体験、アンケート回答を通じた発行、さらには特定の場所を訪れた方にGPSを用いて配布することも可能です。つまり、生活者が何らかの“体験”をした瞬間をトリガーに、多様な形でNFTを発行でき、接点のつくり方が限定されない点が、大きな強みです。

また、私たちはNFTを“体験価値へのアクセスキー”と捉えています。例えば、あるイベントに参加した人だけが視聴できる限定映像。特定の商品を購入した人だけが参加できる抽選企画。スタンプを3つ集めた人だけに開放される特別コンテンツ。

このように、「そのNFTを持っている人だけが得られる体験」を設計でき、NFTは、単なるデジタルデータではなく、“次の体験を開く鍵”として機能させることができます。

これまでのNFTは、デジタルアートやコレクションといった“所有価値”に注目が集まってきましたが、私たちは、NFTそのものに価値があるとは考えていません。重要なのは、そのNFTを持っていることで何が可能になるのか、どんな体験が広がるのかという点です。

NFTを体験の入り口として設計することで、単発の施策にとどまらず、取得履歴に応じて体験が広がっていく“連続的な顧客体験”をつくることができると考えています。

番組視聴からイベント参加まで! 体験価値をつなげた成功事例

福島中央テレビ「KICK OFF!FUKUSHIMA」と連携し、番組視聴者におみくじ形式のNFTを配布

──メディアとの取り組みで、「みんなのあしあと」を活用した事例を教えてください。

片桐:地域のスポーツ振興施策の一環として、2024年に福島中央テレビのサッカー情報番組「KICK OFF!FUKUSHIMA」と連携した取り組みがあります。番組内で視聴者におみくじ形式のNFTを配布し、抽選で地域サッカーチーム「福島ユナイテッドFC」の観戦チケットやオリジナルグッズが当たる仕組みを構築しました。

さらに、番組視聴者にリアルイベントへの参加を促すNFTを配布し、イベント会場でも追加のNFTを発行しました。これにより、「番組を視聴した人のうち、どのくらいが実際に会場へ足を運んだのか」といった体験の連なりを可視化できました。

単に視聴数や応募数を見るのではなく、“メディア接触からリアルな行動までの流れ”を把握できた点が大きな成果です。

電通 片桐耕平氏

2025年には、名古屋テレビのアウトドア番組「ハピキャン」の施策として、番組内やウェブサイト、SNSでNFTを配布し、リアルイベントではスタンプラリーに参加するとNFTが獲得できる設計としました。これにより、番組を視聴した人のうち、どれだけの人がイベントに参加したのか、また会場内でどのアトラクションに参加したのかといった行動の流れを横断的に把握できました。

さらに、近隣のアウトドア用品店と連携し、参加者に店舗で使えるクーポンを配布。イベント参加後に関連商品の購入に至ったケースも確認できました。メディアが持つ「人を動かす力」と、企業が求める「行動の可視化」を接続した事例といえます。

森下:「ハピキャン」の事例で印象的だったのは、スタンプラリーの動線や、体験ごとの滞在時間まで把握できたことです。スタンプを1つ獲得するごとにNFTが発行されるため、参加者が次のスタンプを取得するまでにどれくらい時間がかかったのかが分かり、「どこに立ち寄ったか」だけでなく、「どれくらい滞在したか」まで見ることができました。

実際のデータを見ると、多くの参加者はおおよそ一定のペースでスタンプを獲得していました。しかし、ある区間だけ、なぜか滞在時間が長い傾向がありました。後日、現場の担当者に確認したところ、そのエリアには桜がきれいに見えるスポットがあったそうです。参加者が足を止め、写真を撮ったり、景色を楽しんだりしていた可能性が高いという仮説が立ちました。

これは直接的に売り上げに結びつく話ではありませんが、「イベントに参加したかどうか」という結果ではなく、体験の細部にまで踏み込み、そこからストーリーを組み立てられることに可能性を感じました。

──メディア以外での活用として、今後どのような展開が考えられますか?

伊藤:「行動の起点」となる領域として、金融インフラとの連携も進んでいます。その一例が、セブン銀行との取り組みです。

セブン銀行ATMは全国に2万8千台以上設置されており、多くの生活者が日常的に利用する社会インフラです。こうした日常行動の接点を起点に、新たな体験へと広げていく可能性があります。

徳永:実際の事例として、東急電鉄、セブン銀行、SUSHI TOPの三社で連携し、2025年末にスタンプラリーキャンペーンを実施しました。

スタンプ(NFT)の獲得条件は、セブン銀行ATMで交通系電子マネーをチャージすること。その後、東急電鉄の駅や沿線商業施設に設置された二次元コードを読み取ることで、追加のスタンプを獲得できる設計としました。

ATMでのチャージを起点に、駅や商業施設へと回遊が広がる。こうした“行動の連なり”を設計し、可視化できることが特徴です。重要なのは、単にチャージ件数や来店数といった個別の成果を見るのではなく、「どの接点が次の体験につながったのか」という流れを横断的に把握できる点です。金融、交通、商業という異なる領域をまたいで、体験がどのように連なっているのかを可視化できます。

このモデルが地域単位で展開できれば、複数の企業や施設が連携した回遊設計が可能になります。異なるプレーヤー同士が、生活者の体験を軸に連動できるプラットフォームとして、今後さらに発展の余地があると考えています。

メディアは“広告媒体”から“共創パートナー”へ

──「みんなのあしあと」の今後の展望を教えてください。

片桐:いまはまだ、マーケティング施策の分析・設計ソリューションとして「みんなのあしあと」を活用しながら、どのような可能性が広がるのかをともに探索している段階です。今後は、メディアが持つ集客力や発信力と、顧客企業が抱える課題をより深く接続し、新しい市場の創出に貢献していきたいと考えています。単なる施策ツールではなく、接点を起点にビジネスを設計する基盤へと進化させていきたいですね。

伊藤:私は、「みんなのあしあと」によって、テレビ局と顧客企業の関係性そのものが変わっていく可能性があると感じています。

これまで、番組を見た人がその後どのような行動をとるのかは、仮説の域を出ませんでした。しかし、NFTを活用したインタラクティブな施策によって、生活者の体験の流れが可視化できるようになりました。

その結果、「どんな視聴者がいる番組なのか」「どんな行動傾向を持つ生活者が集まっているのか」が、より具体的に見えてきています。そうなれば、メディアとクライアントの関係は、広告枠を売買する関係から、一緒に生活者に向き合い、体験を設計するパートナー関係へと変わっていくのではないでしょうか。

将来的には、この技術を基盤に、複数の企業やメディアが連携するコンソーシアム型の取り組みへと発展させ、より持続的なメディアビジネスを共創していくことを目指しています。

徳永:そのような発展も、すべては生活者との接点があってこそ実現できます。今後さらに多様な生活者接点が生まれ、その一つ一つの体験が“あしあと”として積み上がっていく。その基盤としてNFTを活用しながら、メディアにとってもクライアントにとっても、そして何より生活者にとって価値のあるソリューションを広げていきたいですね。

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著者

徳永 大輔

徳永 大輔

SUSHI TOP MARKETING株式会社

代表取締役CEO

⽴命館⼤学卒業、新卒で「⼭と渓⾕社」に⼊社。広告営業、グループ会社での書籍プロデューサーを経て、メディア事業で独立し事業売却を経験。2021年にトークングラフマーケティングの⽂化創造を⽬指す「SUSHI TOP MARKETING」を創業。

森下 翔馬

森下 翔馬

株式会社 電通グループ

電通イノベーションイニシアティブ

シニア・マネージャー/プロダクトエンジニア

電通イノベーションイニシアティブで研究開発に携わりながら、ブロックチェーンを活用した顧客体験づくりを行うマーケティングテック企業・SUSHI TOP MARKETING では、CPO/プロダクトエンジニアとして体験設計から実装までを一貫して担当。ハッカソンでの複数受賞歴を持ち、先端技術を起点とした新たな体験創出とプロダクト開発の双方に取り組んでいる。

伊藤 弘和

伊藤 弘和

株式会社電通

メディア・コンテンツ・トランスフォーメーション局 メディア・コンテンツ・ビジネス変革プロデュース2部

GM

2001年、電通入社。メディアビジネス領域において、日本最大規模のエンタメ配信ライブや多様なコンテンツ事業の立ち上げを牽引。2006年以降、先進的なIPビジネスアプローチを取り、約40以上のメディアビジネス事業を創出し市場をリード。
現在は、IPビジネス拡張に貢献できるシナジー事業やソリューションの開発、スタートアップ企業との協業を推進し、メディア・コンテンツ業界との共創による新規事業開発のリーダーとして、新たなコンテンツ体験を通じた市場創出に取り組んでいる。

片桐 耕平

片桐 耕平

株式会社電通

メディア・コンテンツ・トランスフォーメーション局 メディア・コンテンツ・ビジネス変革プロデュース2部

乃村工藝社で空間演出のPM、NHKエンタープライズで映像×先端技術の事業開発を経て、2024年3月より電通MCトランスフォーメーション局所属。現在、IPの接点拡張や新たなコンテンツ体験の開発を通じ、IPビジネスの市場創出と価値最大化に取り組んでいる。

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