アドミュージアム東京で、6月25日(水)から8月30日(土)まで開催された「わたしたちはわかりあえないからこそ展」。本展ではさまざまな広告事例を通じて、ジェンダーにまつわる課題や「わかりあえないこと」の先にあるコミュニケーションの可能性が探られました。
7月30日(水)、dentsu Japan DEIオフィスがお茶の水女子大学の「サマープログラム」の一環として、本展を活用したワークショップを開催。ジェンダー課題に関する講義とワークを行いました。本記事ではその様子をレポートします。
企画展をフックにジェンダー課題を自分事として捉えてもらう
今回のワークショップの目的は、参加した学生たちが企画展を見学して気づきを得るだけでなく、自分たちにできることやジェンダー課題解決のアイデアまで考えること。ワークショップは2部構成で、前半は「わたしたちはわかりあえないからこそ展」を見学、後半はグループに分かれて2つのワークを実施しました。
参加したのは、サマープログラム受講生であるさまざまな国・地域からの留学生、お茶の水女子大学の学生および附属高校の生徒たち約60人。男子学生も数人参加し、多様な学生たちが集まりました。また、講義やコミュニケーションはすべて英語で行われました。
展示作品から浮かび上がる、日本のジェンダーギャップ
ワークショップ前半は、アドミュージアム東京で企画展を見学。最初に講師の兼崎知子さん(電通/クリエイティブディレクター)から、日本のジェンダーギャップ指数が146カ国中118位(2024年 World Economic Forum調査結果)であるという実態のほか、dentsu Japanが取り組むブランディングの仕事や、ブランディングが時にステレオタイプを生み出す可能性があることなどが語られました。また、本企画展の制作に関わった明田川紗代さん(電通/コピーライター)からは、企画展の背景について説明がありました。


その後は、4つのグループに分かれて展示をまわりつつ、数ある展示の中からピックアップされた2つの作品について、dentsu Japanでジェンダー課題やクリエイティブ制作に長く携わるスタッフが複数人協力し、英語で広告作品の説明を行いました。
働く中での「ジェンダーに関する違和感」を可視化
企画展では、「新しくしてみる」「声をあげてみる」「データから考えてみる」などのテーマごとに作品を展示。ジェンダー平等を訴える企業広告のほか、「女性らしさ」の偏見、性暴力、生理への間違った認識といったさまざまな課題にアプローチする取り組みなど、国内外の多様な事例が紹介されていました。
ワークショップで焦点を当てた展示の一つが、求人検索サイトを展開するインディードジャパンの企業広告。この広告は、同社が実施した「ジェンダーギャップに関する意識調査」の結果を「これでいいのか?」というコピーとともに、グラフィック広告としてビジネス街の主要駅などに展開されたものです。説明後、広告の詳細や広告展開後の取り組みについて学生たちが質問する場面もありました。

この広告は、職場や仕事探しにおけるジェンダー課題を解消するためのキャンペーン「ハロー、ニュールール!」の第一弾として作られたもの。調査の結果から、ジェンダーギャップを解消した方が良いと考える人が6割以上いる一方で、身近なテーマと捉える人は2割以下であることなどが明らかになりました。

東京大学に女性が少ないのはなぜ?学生たちのリアルな声がポスターに
二つ目は、東京大学が学内に掲出した「なぜ東京大学には女性が少ないのか?」と問うポスター。女性が少ない原因を可視化して問題提起を行ったポスターの制作背景や意図を説明しました。

東京大学の学生や研究者が性別にもとづいて投げかけられた言葉をアンケート調査し、集まった回答をもとにポスターを作成。センシティブな内容も含まれるため、寄せられた回答はポスターをめくることで見られる仕組みになっています。
説明後、dentsu Japanスタッフが学生たちに感想を尋ねると、イタリアやオーストラリアなど多様な国籍の学生たちが自国の大学事情について話す場面も。日本の学生はもちろん、留学生たちも自分事として捉えて考えている姿が見られました。

多様な視点でジェンダー課題を知るきっかけに
企画展ではそのほかにも、体験型のインスタレーションとして社会に潜むアンバランスを体感できる「データから考えてみる」シーソーや、多様な質問に回答して他者との答えの違いを知る「問いかけてみる」テーブルなども展示。実際に手を動かしながら体験する学生たちもいました。

企画展での気付きをヒントに、具体的なアイデアを考えるワークを実施
後半は、dentsu Japanの汐留オフィスに移動してワークを実施。企画展での気付きを生かしながら、具体的に自分たちができることやアイデアをグループワークで考えました。
わかりあえないからこそ私たちにできることは?
一つ目のワークは「私たちはわかりあえないからこそ、○○する」の、○○に当てはまる内容を考えるもの。

学生からは、「話しやすい環境を作る」「相手の発言や行動を受け入れるだけでなく、背景について思いをはせる」などさまざまな意見が出ました。そのほか「違いを楽しむ」というポジティブなアイデアも。

生理についてオープンに話すには?
次に実施したのが「生理についてオープンに話すためのアイデア」を考えるワーク。ワークの前にdentsu Japanメンバーから、生理をテーマとして扱った広告やコミュニケーションツールなどディスカッションのヒントとなるような事例が共有されました。
ワークでは、いきなりアイデアを出し合うのではなく、生理をオープンに話すことについてどう思うかなど個人的経験のシェアから始めるグループもありました。多様なバックグラウンドの学生が集まっていたため、「生理の話題を男性ともオープンに話せるかどうか」など、生理に対する考え方や課題感にも違いが見られました。
ワークの後に、それぞれのグループがアイデアを発表。多くのグループから、「学校での性教育」「男性にも正しい情報を知ってもらうための取り組み」が大切だという意見があがりました。

最後はdentsu Japanメンバーから学生たちに向けてコメント。「自分とは異なる意見でも相手を否定せず、そこからよりよいアイデアにつながるよう議論している姿が印象的だった。皆さんのアイデアやジェンダー課題に向き合う姿勢に刺激を受けた」と話し、ワークショップを締めくくりました。
【ワークショップを終えて】
・お茶の水女子大学 キャロル マイルズ先生
今年のお茶の水女子大学サマープログラムでは、ジェンダー、多様性など幅広いテーマが取り上げられ、広告業界がこれらの課題をどのように取り組んでいるかを目の当たりにでき、大変有意義でした。「わかりあえないからこそ」をテーマにした展示と生理についてのワークショップは、多様化が進む現代社会において、他者とより寛容に向き合う方法を考える貴重な機会となりました。
・電通 クリエイティブディレクター兼崎知子さん
生理ほど、「わかる」と「わからない」がはっきりしているものはない。と、同時に国を超えても痛みは同じ。わかりあえないことをわかるようにできるだろうか。それは、私たちの原点(カンヌ帰りホヤホヤから、PR、マーケティング、生理プロジェクトに関わるメンバーまで)。今夏は、電通での体験を豊かにするためにDEIオフィスの半澤さんとプロ知能とスキルを集結。学生たちの熱と「世の中はもっと良くなる」と信じる姿勢を目の当たりにし、大事なテーマと向き合う勇気をもらった。帰り際、参加者の1人が「去年の参加者から絶対にいい体験だから行ったほうがいいと言われ参加したんです。来てよかった」と言葉をかけてくれた。電通の仲間を心から誇りに思うと同時にこの連携がつづくことこそGlobal Presence Upの一歩になると確信した。
dentsu JapanのDEIに関する取り組みは以下をご覧ください。
https://www.japan.dentsu.com/jp/deandi/
【問い合わせ先】
dj-dei-office@dentsu.co.jp
※掲載されている情報は公開時のものです
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著者

半澤 絵里奈
dentsu Japan
電通入社後、メディア/営業/マーケティング/ビジネス開発/プロモーション部門を経て、現在はdentsu JapanにてDEI推進を担当している。幼少期から多様性に溢れた環境で過ごした経験を活かし、電通ダイバーシティ・ラボではDEI領域のプロジェクトプロデュース、企業のESGコンサルテーション及びウェブマガジンcococolorの編集長を務める。1984年香港生まれ。一般社団法人CancerX共同発起人。JAAA DE&I委員会委員。Advertising Week Asia "Future is Female Awards 2023" Finalist受賞。
