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2025年、電通デジタルは初の試みとなるAIビジネスアイデアソンを開催しました。従業員一人一人がAIを駆使し、業務効率化から新規ビジネス創出まで、さまざまなアイデアを提案。500件を超える応募が集まった AIビジネスアイデアソンは、どのように全社を巻き込み、、どんな成果を生み出したのか。その舞台裏の仕掛けを、事務局メンバー4人に聞きました。

「創造力と挑戦心を引き出す相棒として、AIを使ってもらいたい」

――今回のAIビジネスアイデアソンの開催の経緯を教えてください。

濱:電通デジタルは、もともとAIへの関心が高い社風でもあり、従業員一人一人がAIの新しい可能性に敏感にアンテナを張っているという自負があります。会社としては、2023年時点で全従業員にChatGPTをはじめとするAIツールのアカウントを配布し、誰もが自由にAIを活用できる環境を整えました。

一方で、「AI=チャットツール」という認識で利用している従業員も少なくないのが現状です。もちろん、業務効率化などの便利なツールとして使いこなすことも重要ですが、それだけではありません。AIは、従業員の発想力や挑戦心を後押ししてくれる「相棒」でもあるということを、改めて実感してもらいたいと考えました。

さらに、従業員がそうした発想のもとでAIを日常的に活用できるようになることで、会社としても新たな価値や収益の柱を生み出していけるのではないか。今回のAIビジネスアイデアソンは、そうした未来への布石となるプロジェクトという位置づけです。

応募条件は唯一「AIを活用すること」

――AIビジネスアイデアソンの応募概要を教えてください。

濱:初めての開催だったため、まずはできるだけ多くの従業員にAIビジネスアイデアソンの存在を知ってもらい、気軽に応募してもらうことを重視しました。そのため、応募要件のハードルはできる限り低く設定しています。名称も「ビジネスコンテスト」や「ハッカソン」ではなく「アイデアソン」としたのは、「アイデアこそが出発点であり、最も大切なもの」という思いを込めたからです。

課題は「社内業務の効率化」と「クライアント課題の解決」の2つ。条件は唯一「AIを活用すること」のみです。応募形式も自由で、書式の指定や資料の添付も不要としました。とにかくハードルを下げて、多くのアイデアが集まるよう工夫しました。

八木:エントリー数のKPIは当初100件を目標にしていましたが、最終的に500件を超える応募があったのは、やはりハードルを下げたことが大きかったと思います。

濱:全社説明会は1回だけ実施しましたが、その際の山本 覚CAIO(最高AI責任者)のプレゼンも非常に効果的でした。AIを使えばアイデアをすぐに形にできること、AIに採点させながらアイデアをブラッシュアップするなどのデモを見せながら、「ほら、こんなに簡単にできるんだから、みんなもどんどん参加してみよう!」というような、心理的ハードルを一気に下げるメッセージを伝えたことが、応募数の大幅増につながったと感じています。

 

濱 大毅(コーポレート部門 経営企画部)、八木 雄一(コーポレート部門 事業推進部)


日常の課題意識が原動力に。電通デジタルの底力を再確認

――応募総数500案から、2度の審査を経て最終プレゼンの5案までに絞られましたね。審査の工夫を教えてください。

西生:一次審査では500案の中から40案を選出しました。まず応募内容を電通デジタルのAIスペシャリストやAIリーダー約50人に共有し、点数をつけてもらいました。同時に、評価項目を設定したプロンプトを使ってAIにも内容の要約・採点を行わせ、人とAIによるハイブリッド評価を採用しました。

40案から5案に絞る二次審査では、各チームに改めて応募資料を作成してもらいました。審査員である役員を含むAIスペシャリスト8人には、40案すべての資料に目を通したうえで、案の「新規性」「ビジネス貢献度」を評価してもらいました。

――審査においてもAIをうまく活用しながら、最後はAIスペシャリストの目で選出されたんですね。通過した5案で、最終審査プレゼンを実施しましたね。プレゼン当日の様子はいかがでしたか?

濱:最終審査プレゼンは、オフラインとオンラインのハイブリッド形式で実施したところ、オフライン会場にも約150人が集まり、立ち見が出るほどの盛況でした。各チームの応援に駆けつけた従業員も多く、会場全体が一体感に包まれ、結果発表時には涙する方も多くいました。

町:社内広報の準備を丁寧に進めたことも功を奏したと思います。開催前からしっかり周知が行き届いていました。

八木:広報チームが、各チームの紹介動画を最終プレゼン審査会の1週間前から配信してくれたのですが、それが非常によくできていたことも大きかったと思います。チームごとの個性や熱量が伝わる内容で、視聴した従業員も感情移入しながら本番を迎えることができたと思います。私自身も、プレゼンを見ながら胸が熱くなる場面が多々ありました。

――最終審査プレゼンまでを振り返っての印象を教えてください。

濱:「広告レポートの自動化」や「AI×ライブコマース」など電通デジタル特有の業務最適化のアイデアがクライアント対応に関わる部門から多く集まりました。それだけでなく、社内業務の部門からも幅広い案が数多く集まり、、「AI×より従業員に還元されるような確定拠出年金の仕組みづくり」や「AI×育児支援サービス」など電通デジタルの従業員みんなが日々の業務課題に真剣に向き合い、積極的にAIを活用し解決しよう、さらにはイノベーションを起こそうとするクリエイティビティを実感しました。

特に、最終プレゼンに残ったチームの提案はそうした課題への解決意識が強く感じられる内容で、電通デジタルの底力を再確認する機会になったと思います。AIビジネスアイデアソンは、従業員の日常的な課題意識を具体的な行動につなげるための第一歩になったと感じています。

西生 健太郎(コーポレート部門 事業推進部)、町 康二郎(データ&AI部門 AI事業統括部)

 
アイデアを形に。上位2案がモンゴルでワークショップを実施

――最終審査プレゼンの上位2案が、次のステップである技術PoCに進みましたね。モンゴルにある電通データアーティストモンゴル(以下、DDAM) で実施したワークショップの概要を教えてください。

濱:最終審査プレゼンの上位2案は、最終審査の約1週間後という早さで、DDAMでワークショップを行いました。

町:DDAMは国際数学オリンピックのメダリストが複数在籍し、高いAI技術開発力を持ちます。このワークショップでは、そんなDDAMのエンジニアと一緒に考え、アイデアを具体化・具現化することを目的としました。出国前にロードマップの策定やターゲット設定、提供価値の明確化まで検討を済ませ、現地では主要機能の検討とコア技術のPoC(概念実証)を行いました。

――DDAMでの協業の様子はいかがでしたか?

町:それぞれのチームにDDAMから3人ほどが加わり、初日に代表者から「やりたいこと」を共有。その内容を踏まえて方向性を擦り合わせ、DDAMのメンバーとともにモックを制作し、技術的な形に落とし込むという流れでした。

――ワークショップを終えての感想を教えてください。

町:このワークショップによって、アイデアが実現へ向けた具体的なステップを踏めたことが最大の成果でした。さらに、今回生まれたアウトプットが、将来の電通デジタルの事業成長の一助となる可能性を感じられたことも大きかったです。

濱:DDAMと直接やり取りしている部署はまだ限られており、「エンジニア×モンゴル」という構図に、心理的にも物理的にも少し距離を感じている従業員も多いと思います。しかし、今回のワークショップで、DDAMのエンジニアに自分のアイデアを伝え、具体的に形にしてもらうことが“意外と簡単にできる”という実感を、参加したメンバーは得たはずです。自分一人で悩むよりも、DDAMに相談する方が早い——その体感こそが一番の収穫だったと思います。

――今後について教えてください。

濱:今後は、ワークショップで形になったものを実際に実装・運用へと進めていく段階に入ります。プロダクトの構築・開発と初期リリースを行い、社内インフラへの展開・運用を順に予定しています。アイデアを出して終わり、モンゴルで体験して終わりではなく、実際の成果につなげていくことが重要です。

「アイデアを形にする」精神を“文化”として定着させたい

――今回のAIビジネスアイデアソンは、電通デジタルにどのような価値をもたらしたと考えていますか?

西生:「ビジネスアイデアを生み出すために、AIをどう使えばいいのか?」について、従業員一人一人が自分ごととして考えるきっかけをつくれたことが大きいと思います。  

八木:私も同感です。今回限りではなく、継続的に発展していく仕組みになっている点も非常に良いと思います。最終選考に残らなかった案も今後社内公開する予定なので、各部署でアイデアを起点に新しいプロジェクトが生まれ、社外への付加価値提供力が向上し、社内の業務効率化がされていく流れができれば理想的ですね。

町:日々、日常業務に追われている従業員も多い中で、意識的に立ち止まり、創造的に考える機会を提供できたのは大きな意義でした。また、自分たちが考えたアイデアが短期間で形にできることをワークショップを通して体感し、社内外でそのイメージを醸成できた——そんな「良い循環」が生まれたことも、会社にとって大事な資産になったと思います。

――来年以降のAIビジネスアイデアソンに向けた意気込みをお願いします。

濱:AIビジネスアイデアソンの思想を電通デジタルの“文化”として定着させていきたいですね。1回限りの盛り上がったイベントではなく、毎年の祭典として、さらには日常的な文化として根づくには、2年目が最も重要です。来年以降は、今回の上位2チームのメンバーが審査員として参加し、アイデアを「形にする」精神を次世代へ継承していくような仕組みにしたいと思っています。

町:来年以降に向けて、今回の成果をしっかりと“形に残る実績”にしたいと考えています。濱さんが言うように、AIビジネスアイデアソンが社内文化として根づいていくことが重要です。その醸成に少しでも貢献したいと思っています。

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著者

八木 雄一

八木 雄一

株式会社 電通デジタル

グループマネージャー事業推進部で業務効率化を担当し、2024年10月からはAI推進グループを立ち上げ、グループマネージャーとして社内のAI活用促進をリード。新たな業務改善と生産性向上の実現に尽力中。

町 康二郎

町 康二郎

株式会社 電通デジタル

国内TV放送局でスタジオ番組の番組制作などを担当。2020年から、製造業向けの画像AIスタートアップで、ソフトウェア開発・PM、採用・広報などの業務に従事。プロジェクト推進部門にてAI事業の推進を実施。 2024年に電通デジタルに入社しSTADIA基盤(TV関連)システムのアルゴリズム構築やシステム実装のPMを担当。

濱 大毅

濱 大毅

株式会社 電通デジタル

メディアプランナーとしてデータ分析やツール開発に従事し、広告効果可視化ツール「レスポンスコネクター」の開発・特許取得を通じ、現場課題を仕組みで解決するアプローチを確立。2024年より電通デジタル経営企画部に出向し、中期経営計画策定を中心に、AI×人材流動化制度の設計や統合レポート(価値創造プロセス)の構築などを推進。経営と現場をつなぐ橋渡し役として、全社の経営基盤づくりに取り組んでいる。

西生 健太郎

西生 健太郎

株式会社 電通デジタル

事業推進部 AI推進グループにて、主にコーポレート部門内のAI活用推進や社内問合せチャットボットの開発を担当。人事領域の業務経験も5年有し、多角的な視点から社内業務効率化と社内のAI活用推進に注力している。

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