Airbnbのパートナーとして伴走してきた電通第20ビジネスプロデュース局の矢野仁一氏住宅宿泊事業法(民泊新法)の施行から7年。
「民泊」「ホームシェアリング」という言葉は、今でこそ一般的ですが、それが定着するまでには、新しい産業、新しい文化を社会に受け入れてもらうための数々の試みがありました。
Airbnb(エアビーアンドビー)は、世界中の個人が空き部屋や家を貸し出す(ホスト)と、旅行者が宿泊先として利用する(ゲスト)をつなぐ、世界最大級の宿泊予約プラットフォームです。
https://www.airbnb.jp/
2007年にアメリカ・サンフランシスコで2人のホストが自宅に3人のゲストを迎えたところから始まり、現在は220以上の国と地域で800万件以上の宿泊や体験を日々提供するまでに成長しています。
Airbnbが日本に進出した当初から、広告・コミュニケーションの側面で伴走してきたのが電通です。今回は、同プロジェクトに初期から関わってきたビジネスプロデューサーの矢野仁一氏に当時の舞台裏とAirbnbという企業の魅力について伺いました。
日本に“ホームシェアリング”がやってきた
──Airbnbが日本に進出した当初、どのような課題がありましたか。
矢野:当時の報道はネガティブな論調が多く、誤解もあったと感じています。Airbnbがどんなサービスで何を目指しているか、まず“正しく理解してもらうこと”が出発点でした。
Airbnbの日本法人が設立されたのは2014年。当時の日本では「ホームシェアリング(いわゆる民泊)」という言葉自体が一般的ではありませんでした。Airbnbという名前もほとんど知られておらず、宿泊業界やメディアからは警戒されていました。
──電通が関わり始めたのはいつごろからですか。
矢野:私の前任も含め、電通が関わり始めたのは日本法人を設立するより前の、2013年ごろからです。日本法人は社員3人からのスタートでしたが、いわばその黎明(れいめい)期から関わっています。当初はさまざまなサービスの日本での展開、マーケティング活動について相談に乗るような形でした。
本格的に関わるようになったのは、2016年、Airbnbが日本でのメディアパートナーを決定するプレゼンテーションに参加し、電通が選ばれたのが始まりです。最初から広告の仕事ではなく、「どうすればこの新しいサービスが日本で受け入れられるか」を一緒に考える、コンサルティング的な関わり方でした。
──テレビCMなどの広告展開にはハードルがあったそうですね。
矢野:CM内容の考査にたどり着く前の段階で大きな壁がありました。テレビでCMを放送するには、放送局ごとに、広告主の業種や事業内容を審査する「業態考査」というステップがあるのですが、ホームシェアリングというサービスが新しすぎて、どの放送局でも通らなかったんです。
そこからは私たちがテレビ局を一社一社行脚し、Airbnbの理念や安全対策を丁寧に説明して回りました。考査が通り、ようやくテレビでCMを放映できた時は感慨深かったですね。
日本独自の「Airbnb Partners」構想が必要だった理由

──その後も準備を重ね、2018年に「Airbnb Day」を実施されましたよね。
矢野:2018年6月、住宅宿泊事業法(民泊新法)の施行(※)に合わせて実施したイベントです。長年準備を重ねて、東京・渋谷ヒカリエホールをAirbnbに掲載されている部屋のように演出し、来場者が“暮らすように旅する”世界観を体験できる空間をつくりました。
※住宅宿泊事業法(民泊新法)=2018年6月施行。急速に増加するホームシェアリングについて、一定のルールを定め、健全なサービスの普及を図るものとして制定された。 住宅宿泊事業法(民泊新法)とは?
Airbnbは、家や部屋を貸し出す「ホスト」の皆さまあってこそのサービスです。そのため、ホストの方々もお招きしました。さらにメディアも招待して、Airbnbの理念やサービスを直接感じてもらえるような仕掛けを作ったことで、ニュースでも取り上げられ、法律の施行と合わせて、認知拡大に貢献したと考えています。
米国本社からは共同創業者のひとりであるネイサン・ブレチャージク氏が来日。「とても素晴らしいイベントだ」と評価してくださり、電通を含めた日本チームにとっても大きな自信になった出来事でした。
──このときAirbnbは、日本独自の取り組みである「Airbnb Partners(エアビーアンドビ ー・パートナーズ)」も発表しましたね。これはどういったものなのでしょうか?
矢野:Airbnbとして世界初となる新しい組織で、現在は約200社が参画する企業コミュニティです。この仕組みが必要とされた理由は、Airbnbのサービスを中心に、多くのパートナー企業と協力しながら、ホームシェアリング産業の発展を目指し、地域社会にも貢献するためです。
具体的には、
・デマンドパートナー(新しい旅の形を市場に対して共に訴求)
・サービスパートナー(高品質な旅に必要な周辺サービスを共に構築)
・サプライパートナー(多様な物件を保有し宿泊事業を運営)
の3領域を横断するコミュニティです。
現在はこれらのパートナー企業との連携により、新しいサービスや仕組みが次々と生まれています。今後も人と人、人と場所、人と体験をつなぎ、地元に根ざした「旅づくり」の更なる加速を期待しています。
この日本独自のパートナーズ構想に関して、立ち上げと当時の運営を電通がサポートしました。
観光地ではない場所を旅先に変える

──まったく新しいサービスを根付かせるために、テレビCM以外にはどんな施策を行いましたか?
矢野:例えば、Airbnbのコーポレートカラーにラッピングしたキャラバンカーを全国に走らせて、北海道から九州まで回りました。
そこでAirbnb側から、地方自治体や商工団体に対して、
「地域に根付いた宿泊のしくみが広がれば、空き家の活用や新しい観光の拡大、そして持続可能な地域経済の活性化につながる」
というホームシェアリングの仕組みを説明したんです。
「うちの町に観光客が来るのだろうか」とおっしゃる自治体担当者もいましたが、実際にAirbnbの部屋を体験してもらうと、ローカル体験そのものが魅力になると再発見されました。“観光地ではない場所を旅先に変える”――まさに「その土地に暮らすように旅をする」Airbnbの理念を広げる活動だったと思います。
また、キャラバンには各地域のAirbnbホストさんもたくさん駆けつけてくれました。Airbnbは、全国のホストコミュニティとのつながりもとても大切にしています。
──順調に普及を続けていた一方で、コロナ禍ではAirbnbも大きな打撃を受けたのではないでしょうか。
矢野:はい、それはもう……。訪日外国人の数が右肩上がりだった中で、2020年は、Airbnbが国際オリンピック委員会(IOC)の公式パートナーとなって迎える東京オリンピックイヤーでもありました。Airbnbが、世界中からたくさんのゲストをお迎えすることで、ホスト、ゲストの規模も拡大するとわれわれも期待していました。それが、新型コロナウイルスの流行で観光客が一気に消えてしまいました。
Airbnbの日本チームの皆さんが苦しかった時期だったと考えています。それでも、彼らは「Belong Anywhere=誰でもどこでも居場所が見つかる世界」という軸を失わなかった。その理念があったからこそ、再び立ち上がれたのだと思います。
「文化をつくる企業」を支える喜び
──矢野さんが感じる、Airbnbという会社の最大の魅力は?
矢野:やはり“文化をつくる会社”であることですね。単に宿泊や体験を仲介するのではなく、「Belong Anywhere=誰でもどこでも居場所が見つかる世界」という理念を実践しています。世界中どこに行っても居場所があるんだという、同社の理念であり信念です。
この理念を表す具体的な例として、Airbnbには Airbnb.org という組織団体があります。災害時には非営利団体パートナーと連携して、被災者や支援者に対して、緊急避難先となる宿泊施設を無償提供しています。この支援活動団体の設立のきっかけはホストからの申し出だったと聞いています。商売ではなく、同じ理念で結ばれている。そんな姿勢がAirbnb社員にもホストにも浸透しているんです。
実際ホストの方たちは、Airbnbという「文化」に対して愛情や熱意を持っているのを感じます。単にAirbnbの仕組みを利用してホームシェアリングをやっているというだけでなく、ホームシェアリングをすることにより生まれるゲストや他のホストとのコミュニケーションだったり、独特の文化の形成に積極的にコミットしているんです。
──従業員とホストの方々が同じ理念を共有しているというのは興味深いです。社内カルチャーにも特徴がありそうですね。
矢野:Airbnbには従業員が安心して働ける環境をつくることをミッションにした専門部署があります。多様性をテーマに対話会をしたり、社内パーティを開いたり。働く人の幸福度を上げるための制度がしっかり存在しています。あまりにすてきだったので影響を受けて、私たちの局にも同じ名前のチームをつくりました(笑)。
──10年近く伴走してきて、今あらためて思うことは?
矢野:Airbnbはアメリカの企業ですが、実はとても“日本的”なんです。地域やコミュニティに寄り添い、地に足のついた活動を続けている。電通としても、広告をつくるだけでなく、新しい文化や産業の基盤づくりに関わることができたのは大きな経験でした。
“暮らすように旅する”という思想を日本社会に根づかせる――その挑戦は、これからも続いていくと思います。そして電通は、文化の伴走者でありたい。Airbnbとともに歩んだ10年は、電通が目指すパートナー型クリエイティビティの原点を映し出しているといえるかもしれません。
Airbnbからのメッセージ
日本市場を立ち上げていく中で、電通の皆さんと長く、密にご一緒できたことを、感謝いたします。中でもAirbnb Partnersでは、「Airbnbと一緒に活動したらきっと面白いことが起こる」と感じさせる企業を多数ご紹介いただき、その一つ一つのご縁が、この座組を形づくってきました。Airbnb Day は、Airbnbらしい自由なコンセプトやデザインのもとで実施され、新しい市場の誕生を強く印象づけるものでした。電通の存在なくして実現は難しかったと思います。また、全国を共に回ったキャラバン活動では、地域の方々と真摯に向き合い、関係を築いていく皆さんの姿勢から多くのことを学びました。「Airbnbは日本的」という言葉を電通の皆さんからいただくのは本当に嬉しいです。今後も日本の文化・地域に寄り添ったホームシェアリングの市場を広めるべく、ご一緒できれば幸いです。
Airbnb Japan ホームシェアリング事業統括本部 本部長 執行役員 森 厚雄
Airbnb Partnersは、日本におけるホームシェアリングという新しい文化と市場を確立することを目指して設立されました。宿泊市場の大きなターニングポイントとなるタイミングで、日本を代表する多様な企業が参画する新しいコミュニティを構築できたのは、電通の皆さんのご支援によるものと深く感謝しています。設立当初36社だった会員数は、現在200社を超える規模に成長し、Airbnbとパートナー企業との間、あるいはパートナー企業同士の連携から、革新的な宿泊施設やサービスが次々と生まれています。今後も多様なステークホルダーと連携しながら、日本の地域課題の解決に資する持続可能なホームシェアリングを実現していくために、電通のさらなる協力に信頼と期待をしています。
Airbnb Japan 執行役員 事業開発担当 長田 英知