「一周回ってアナログ回帰」? ― 若者とシニアの意外な共通点 ―
電通デザイアデザイン(DDD)は消費と欲望の関係から、さまざまなソリューション開発や情報発信を行う組織です。
今回は、DDDが実施している「心が動く消費調査」を分析(調査概要はこちら)。調査結果から得られたインサイトやファインディングスをお伝えします。本記事では、2025年11月に実施した第11回の調査結果に基づき、DDDの千葉貴志が「デジタルとアナログ」をテーマに調査の結果を考察します。
多くの人が「アナログにあってデジタルにはない魅力」を感じている
私たちの暮らしは、いまやスマートフォンや各種デジタルサービスと切り離せないものになっています。情報収集も買い物も、他者とのやりとりも、画面の中で完結する場面が増えました。そうした環境の中で、「アナログや手作りのもの」にどのような感情が向けられているのでしょうか。
「アナログや手作りのものに、デジタルにはない魅力を感じるか」という問いに対し、全体の73.9%が「そう思う」(25.6%)、「ややそう思う」(48.3%)と回答しました。一方、「そう思わない」は5.9%にとどまっています。少なくとも、アナログに対する肯定的な意識が広く存在していることは確かなようです。
ただし、ここで「アナログ回帰が起きている」と単純に結論づけるのは、早計かもしれません。内訳を見ると、「強くそう思う」という回答が突出しているわけではなく、「ややそう思う」が最も多くなっています。熱狂的というよりも、穏やかな支持が広がっている印象です。強い意志としてのアンチ・デジタルというより、生活の中に自然に位置づけられている感覚に近いのではないかと考えられます。
世代比較から見えてくる、若年層とシニア層、“両端”の共通点
世代別に見ると、興味深い傾向が見えてきます。15〜19歳の若年層では、男女ともに「そう思う」「ややそう思う」を合わせるとおよそ8割に達しています。デジタルネイティブと呼ばれる世代であっても、アナログの魅力を肯定する割合は高い水準にあります。
一方、60代でも同様に肯定的な回答が高い割合を占めています。70代でも大きく減ることはありません。世代の“両端”にあたる層で、アナログへの肯定感が共通して高いという構図が見えてきます。
逆に対照的なのが、男性20代・30代です。この層では「そう思う」「ややそう思う」の合計が20代は62.4%、30代は61.4%と、他の世代と比べるとやや低く、同じ年代の女性との差も大きくなっています。ただし、これをもってアナログに否定的であると断じることはできません。6割は肯定の意を示しているため、あくまで相対的な違いとして捉えるべきでしょう。
さらにここで注目したいのは「そう思う」=強い肯定と、「ややそう思う」=穏やかな肯定の違いです。若年層では「そう思う」の割合が比較的高い一方で、60代以上では「ややそう思う」が厚くなっています。同じ肯定でも、その温度感には違いがあるように見えます。動機や背景についてはこの結果だけでは読み解けませんが、少なくとも数値の分布には世代ごとの意識の違いがはっきりと表れています。
アナログとデジタルは「二項対立」ではない
今回の結果から読み取れるのは、「アナログがデジタルと対立する存在として捉えられている」、という単純な構図ではありません。むしろ、デジタルが生活の基盤となったうえで、その隣にアナログが位置しているような印象です。
肯定的な回答が多数を占めながらも、否定が極端に少ないわけでもなく、また圧倒的な熱狂があるわけでもない。このバランスは、生活者がデジタルとアナログを「二項対立」で捉えているのではなく、それぞれの特性に応じて受け止めている可能性を示唆しているのではないでしょうか。また、図2の結果からは、少なくともアナログの魅力が特定の世代だけのものではないことが読み取れます。
もう一段階、考察を深めてみると、デジタル活用が日常のあらゆるところまで浸透しつつあるからこそ、アナログが持つ特性が改めて人々の目に留まるようになってきている可能性もあるかもしれません。
この数年間で、タイパ(タイムパフォーマンス/時間対効果)やスぺパ(スペースパフォーマンス/空間対効果)といった、「○○パ」という言葉がたくさん生まれてきました。利便性、効率が前提となった生活環境の変化によって、結果としてそれと異なる手触りや時間の使い方に意識が向きやすくなっていると考えられます。つまりデジタルが広がった結果として、アナログの価値が相対的に見えやすくなってきた。そんな関係性を示していると解釈することもできます。
“一周回った”のか、それとも“消えなかった”のか
この状況を見て、「一周回ってアナログ回帰」が起きていると感じる人もいるかもしれませんが、どうでしょうか。「一周回る」「回帰」という言葉は、流行が巡るイメージを想起させます。しかし今回の結果を見る限り、アナログがいったん姿を消し、再び戻ってきたと断定するのは適切ではないでしょう。むしろ、デジタル化が進む中でも、一定の支持を保ち続けてきた存在と捉えることができます。
デジタルが当然のインフラとなったいま、アナログは特別な対抗軸ではなく、生活のどこかに置かれ続けている選択肢なのかもしれません。強く主張されることは少なくても、世代を超えて共有されている感覚がある。その広がりこそが、今回のデータから見えてくる風景だと考えられます。
一周回ったというより、もともと隣にあり続けた。そう考えると、アナログの位置づけも、また少し違って見えてきます。デジタル・アナログで線引きをするのではなく、共存共栄の視点で考えることがこれからのマーケティングには求められていくのではないでしょうか。
DDDでは引き続き「心が動く消費調査」から、さまざまな観点で生活者のインサイトを考えていきます。
【調査概要】
〈第11回「心が動く消費調査」概要〉
・対象エリア:日本全国
・対象者条件:15~74歳男女
・サンプル数:計3000サンプル(15~19歳、20代~60代、70~74歳の7区分、男女2区分の人口構成比に応じて割り付け)
・調 査 手 法:インターネット調査
・調 査 時 期:2025年11月7日(金)~ 11月12日(水)
・調 査 主 体:電通 DENTSU DESIRE DESIGN
・調 査 機 関:電通マクロミルインサイト
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著者

千葉 貴志
株式会社 電通
第4マーケティング局
プロデューサー
営業、デジタル、テレビなどの部署を経験した後、電通総研に出向し、社会調査全般を担当して情報空間の健全性を研究。2022年より電通に帰任し、クライアントの未来の企業価値を創発する未来事業創研/消費者研究プロジェクトDENTSU DESIRE DESIGNに所属。未来と欲望を基点に、新規事業から日用品まで業界業種を問わずさまざまなビジネス開発を手がける。慶應義塾大学X Dignityセンター共同研究員。




