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研修も授業も変えていける。遊びから入るPLAY FIRSTのススメ

大山 徹

大山 徹

株式会社ルテシア

教育×クリエイティブで、日本のオリジナルな教育を面白くするために。

コピーライター・アートディレクター・クリエイティブディレクター・マーケターなどが集まって、電通社内に設立した「アクティブラーニングこんなのどうだろう研究所」。設立10周年を記念して、メンバーそれぞれが教育に関わってきた中での発見や、感じた変化をリレーコラム形式でお届けします。

「研修」や「学び」をアップデートしたい──そう感じているビジネスパーソンや教育関係者は少なくありません。しかし、新しい手法を導入しようとすると、目的や評価、正解設定が先に立ち、現場はかえって硬直してしまいがちです。

私は電通でコピーライターとして働く傍ら、企業研修・教育の現場でアナログゲームを用いたプログラム開発に携わってきました。そこで一貫して実感してきたのが、「まず遊びから入る」ことで、人は驚くほど能動的になるという事実です。

本記事では、新聞教材や算数ゲーム、アイデア発想ツールの実例を通じて、「PLAY FIRST 〜まず『遊び』から入ってみる〜」が、なぜ学びや課題解決の近道になるのかをお伝えしていきます。

正解から教える学びが、限界を迎えている

これまでの学校教育を振り返ってみると、ややもすると教師が「正解」をあらかじめ用意し、もしくは期待し、それを子どもたちに試行錯誤して答えさせる学習が多かったように思います。黒板に書かれた数式や歴史の年号をノートに書き写し、テストで正しく答えることができれば評価される。そういった「真正面から正解を子どもたちにぶつけるだけの授業」を、私たちは長く経験してきました。

しかし、AI(人工知能)が急速に進化し、社会の仕組みが根底から変化し始めた時代において、あらかじめ用意された正解を暗記することは、もはや本質的な「学び」とは呼べないのではないでしょうか。

「アクティブラーニングこんなのどうだろう研究所」の共同研究者である大熊雅士先生は、「変化の激しい社会の中でたくましく生きていくためには、子どもたちが答えのない問題に果敢に挑戦し、それを乗り越える経験を積み上げることが大切だ」と語られていました。目の前に立ちはだかる課題を自分ごと化し、他人に責任転嫁することなく解決に向けて試行錯誤する。そして協働で問題を乗り越えていく。これこそが、社会で生きていくための汎用的な能力を育む本来の学びです。

では、どうすれば子どもたちは「答えのない問題」に果敢に、そして能動的に挑戦できるのでしょうか。その最強のスイッチの一つが「遊び」なのです。

「遊び」は、能動性を引き出す最強のスイッチ

「遊び」の世界には、最初から絶対的な一つの正解が存在しないことが多くあります。勝つためのルートはいくつもあり、プレーヤー自身の選択によって状況が変化していきます。例えば、私が開発した「BEST SCOOP!」という教材があります。これは、新聞を使って遊ぶ教材です。

新聞を取っている家庭が減っており、学校でしか新聞を見たことがないという子どもも多い時代です。「活字に触れなさい」「新聞の構成はこうなっています」「新聞を読んで時事問題に詳しくなりなさい」と学校現場で正面から正解や義務をぶつけたとしても、子どもたちはなかなか新聞を開いてはくれません。新聞は文字が多く、子どもにとっては心理的なハードルが高いメディアだからです。

「BEST SCOOP!」は実際の新聞紙面を使って遊ぶアナログゲームです。テーブルの上に新聞を広げて、その新聞紙面の中から「いちばん大きな数」「ここから一番近い場所」「長いカタカナの言葉」などのお題にあった記事を、誰よりも早く探しだすというシンプルな遊びです。

しかし、「新聞紙面の中から特定の要素を探し出す」というルールを設けるだけで、子どもたちは目の前に置かれた小さな課題(遊び)を解決するために、夢中になって新聞をめくり始めるのです。

そして、遊びを通すことで、「新聞=難しくて退屈なもの」という先入観が取り払われていき、情報に対する接し方が劇的に変わっていくのです。大人が「正解」を教え込むのではなく、子どもたちが遊びを通じて自ら情報に飛び込んでいく。この能動的な姿勢を引き出すことこそが、「まず遊びから入ってみる」ことの最大のメリットです。

興味が先に立つと、学びは自然に深まる

対象に興味を持つことによって、学びの対象への印象は大きく変わります。「勉強=苦しいもの、我慢してやるもの」という思い込みに楽しさを持ち込むことは、学習効果にも非常に良い影響を与えます。

例えば、物質・材料研究機構(NIMS)が公開している「未来の科学者たちへ」という映像シリーズがあります。理系の話や物質・材料の学術的な説明は、普通に聞けば難解です。しかしNIMSは、「見えないガラス」と題して、ガラスと同じ屈折率になるように配合された混合油にガラスを入れると見えなくなる現象を利用し、特別なピタゴラ装置が不思議な動きを見せる映像を作りました。屈折率という理科の知識に「遊び心」を入れることで、見る者を釘付けにし、科学への興味をかき立てる入り口を生み出しているのです。

私自身がアナログゲームを本格的に作り始めるようになったのも、わが子の「学び」に対する姿勢を見たことがきっかけでした。数年前、小学生になった子どもが足し算を覚え始めた頃、夏休みの算数ドリルを全くやろうとしない時期がありました。理由を聞くと「(計算のやり方は)分かる、できる。だからやらなくてもいい」と言うのです。つまり、反復練習であるドリル作業が単調で「面白くない」と見抜いていたわけです。

そこで妻が、算数ブロックを両手に握って隠し、パッと出し「何個と何個?」とクイズを出してみました。すると子どもは「2個と3個で5個!」と、ゲーム感覚で何回でも飽きずに答えたのです。この体験から「ひょっとして計算がゲームになれば、ドリルをやるよりも楽しく反復練習ができるのではないか」と考え、開発したのが「ポラリッチ」というゲームでした。

足し算アクションゲーム「ポラリッチ」(2018年、ナナワリ)


最近では、このアプローチをさらに進化させた「九九ジャン」というカードゲームも開発しました。これは掛け算の「九九」と「麻雀」の要素を取り入れたゲームで、同じ段に存在する九九の数字を集めていくという分かりやすいルールのゲームです。

九九の暗記は、多くの小学生にとって最初の壁となる「苦行」です。しかし「九九ジャン」では、単に数字を覚えるのではなく、数字を見ただけでそれが「どの段に存在する数字か」を瞬時に判断する力がつくようになっていきます。12を見たら、2、3、4、6が見えてくるといった具合です。さらに、相手の捨て札を考察し、他のプレーヤーとかぶらない段を狙うという高度な戦略性があるため、子どもだけでなく大人も本気で熱中してしまいます。

「ゲームで遊んでいるうちに、数字と九九の関係が見えてくる」。これが、興味を醸成する遊びの力です。かつてゲーミフィケーションという言葉が流行した際、射幸心をあおる中毒性ばかりが注目された時期がありました。しかし、遊びやゲームの構成要素には、知的好奇心を刺激するパズル要素や、没入感を生む物語、美しいアートワークなど、人を豊かにする力がたくさん詰まっています。「遊び」を入り口にすることは、学びを楽しくし、自ら探究する力を育むための非常に強力な手段なのです。

大人こそ「PLAY FIRST」が必要な理由

「遊び」は決して子どもだけのものではありません。むしろ、固定観念に縛られがちな大人こそ「PLAY FIRST」のアプローチが必要です。

私が電通Bチーム時代に開発した「ミラクルワードカード」というアイデア発想ツールがあります。これは、「夜の___」「大人の___」「感情を持った___」といった、既存の言葉(名詞)につなげるだけで思いがけない企画の種が生まれてしまう「魔法の言葉」を100枚のカードにしたものです。

以前、NHKのディレクターと「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」の理解促進という、非常にセンシティブで難しい社会課題をテーマにワークショップを行いました。通常であれば、重いテーマの前で大人は「不謹慎ではないか」「実現可能か」と考えてしまい、沈黙してしまいがちです。しかし、ミラクルワードを強制的に掛け合わせるという「カードゲーム」の形式をとったことで、「恋する愛トラッキング(アイトラッキング技術を使った楽曲制作)」や「旅するALS(VRを使った旅行体験)」といった、普段なら絶対に考えつかないようなアイデアが短時間で次々と生まれました。

大人は「正解」を気にするあまり、守りに入ってしまいます。しかし、ゲーム感覚という「遊び」のルールの中に入ると、心理的なハードルが下がり、突拍子もない発想の飛躍が起こるのです。

これは、教育現場の先生方にとっても非常に重要なポイントです。先生もまた、授業のアイデアを練り、探究学習のプログラムを設計し、子どもたちの自由研究を評価するという「企画者」であり「クリエイター」です。真正面から「指導案」を考えるだけでなく、先生自身がワクワクしながら、楽しく、遊びのあるアイデアを発想することが求められていくでしょう。アイデア発想豊かな先生が作り出す「遊び心のある授業」は、間違いなく子どもたちの心に火をつけます。

「まず遊ぶ」ことで、課題の見え方が変わる

遊びを入り口にすれば、世の中のあらゆる課題に対する見え方が変わります。防災訓練に遊びを取り入れてシミュレーションを体験したり、難解な金融商品をオリジナルの人生ゲームで体感できるようにしたりと、大人向けの課題解決においても「遊び」は多大な効力を発揮します。

2026年3月、私は鎌倉市に「PLAY FIRST STAND」という、遊びと学びの拠点となるお店を開くことにしました。アナログゲームや書籍の販売だけでなく、「こんな遊びや教材を作ってみたい」という方のための相談窓口も設けています。教育現場や企業研修に新しい切り口を取り入れたいと考える先生やビジネスパーソンにとって、可能性を開く場になればと願っています。

PLAY FIRST STAND ウェブサイト
https://www.instagram.com/playfirststand/


「まず遊びから入ってみる」。 それは、逃避でも不真面目でもなく、私たちが本来持っている好奇心を呼び覚まし、学びや課題解決を自分ごと化するための最高のアプローチです。ぜひ皆さんも、子どもも大人も一緒に、日々の学びや仕事に「PLAY FIRST」を取り入れてみてください。そこにはきっと、想像以上の効果や変化が待っているはずです。

アクティブラーニングこんなのどうだろう研究所ウェブサイト
https://www.konnano-dodaro.jp/

関連する連載はこちら:アクティブラーニングこんなのどうだろうレポート

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著者

大山 徹

大山 徹

株式会社ルテシア

代表取締役・ゲームデザイナー / アクティブラーニングこんなのどうだろう研究所社外研究員

電通入社後、コピーライターとして広告製作、新規事業、教育事業に従事。2023年に電通を退社し、遊びを社会に実装していくゲーム会社「株式会社ルテシア」を鎌倉に設立。コンセプトは「遊びから入るとうまくいく」。2026年3月遊びと学びのセレクトショップ「PLAY FIRST STAND」を鎌倉大船に開店。

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