工芸品とブランディング
中尾:今回、声をかけさせていただいた時どう思われましたか?
俊:二つ返事で「ぜひ!」という感じでした。ちょうど兄弟ふたりで新しいブランドを立ち上げて、これから新しいものをどんどん作っていきたいと思っていたタイミングだったので。
中尾:そうだったんですね。即答で、やりましょう!と言ってもらえたので、うれしかったです。
これからそのブランド小菱屋忠兵衛は、どんなことを目指していくのですか?
俊:京都の伝統工芸というだけで、敷居が高く見られがちだけど、お高く止まっていると思われて声がかからないっていうふうにはなりたくなくて。
僕らの技術を生かしてできる新しいもの作りをどんどんやっていきたいと思ってます。でも、やはり手作りのものなので、こだわって作っていくと、どうしても値段は高くなる。
そこをどうやってブランディングして、「これじゃないと」という付加価値や、その説明の仕方を考えていかないと、というのがこれからの課題ですね。
中尾:なるほど。工芸品にもブランディングやストーリー作りが大事なんですね。

伝統工芸ブーム?
中尾:最近は工芸品に対して、一昔前の「伝統工芸=古い」というイメージではなくて、こだわりのある、おしゃれな人が買うイケてるものという感じになってきてましたよね。趣味のものにちゃんとお金かけよう、という風潮がだんだんと出てきているのかなと思います。
俊:そうそう! たぶんみんな100均とかのものを一度使ってみて、これでいいのかな? 一個いいもの買ったほうがいいんじゃない? と思うようになってるんですよ。
中尾:機械に取って代わられて、そのワザ自体が消えるのか、ちゃんとこの先も続いていくのか。今が節目の時代なんでしょうね。
諒:そう。だから業界でもビニールの提灯が増えてるけど、うちはこの先も和紙のものしか作らない。安価なものを大量に作るんではなくて、しっかりとした提灯を安定した形で作り続けるのが理想ですね。
俊:最近、デザイナーと職人が組んで商品化することが少しブームになっています。でも、ひとつデザインを作れば大量生産できるわけではなく、なかなかもうからないから、Win-Winの関係というのが難しい。そこにみんなが気づいたら、今のブームみたいなのはちょっと下火になるかも、と思います。
中尾:手作りの難しさですね。やっぱり、どうブランディングするか、ということなのかな。
俊:あとは売り場作り。いいもの作っても、売る場所がなかったら売れないからね。
中尾:なるほど。これから、販売できる場所がもっと増えていくといいですよね。
デザイナーと工芸
中尾:工芸の分野に、デザイナーが入ること自体はどう思いますか?
俊:必要ですね! やっぱり中にいる人間では見えないこともあるので。今回の雲形提灯も、こんなん自分たちでは絶対に思いつかない。だからこそ、形にしたい! と思ってがんばりましたよ。
中尾:本当にありがとうございました。今回一番難しかったポイントってなんですか?
諒:やっぱり、提灯と提灯をつなぐところですかね。初めてのことだったので。和紙の力だけでちゃんとドッキングするんかな? というところとか。あとくっついても重みで横が垂れてしまうかもしれなかったし。
一番頭を悩ませた提灯のつなぎ。
俊:でもやってみたら思った以上に、うまくいきましたよね。
中尾:出来上がってみたら、ちゃんとフォルムの面白さもあって、そこに竹の線のきれいさが生きていたのでよかったな、と思ってます。
俊:そうなんですよね。よく見たら、竹のふしの模様が出てるんですよね。あれは地張り提灯ならでは。
中尾:見所ですよね。
こうして出来上がった雲提灯。工芸品ならではの繊細なディテールと、不思議な存在感を感じさせるあかりになりました。その提灯を山奥の小さな湖の上に吊るして撮影し、光る雲とそれを映す湖面という幽玄なビジュアルが完成しました。6月らしい季節感を楽しんでいただければうれしいです。
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