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オムニチャネルにまつわる5つのお題に対し、電通社員が「今後どうなっていくのか?」をフリップで答える企画。第2回のテーマは「リテール」です。
4名の回答者の自己紹介を含む、第1回はコチラ。


大きな変化を迫られるリテールは「軟体動物」化できるか

丸山:1つ目の「生活者はどうなる?」では、購買環境が充実して無意識的に買い物ができるようになる一方で、賢く吟味する人も増えてくる、あるいは選択肢の多さが時につらくなることもあるのでは、といった意見も挙がりました。

さて、2つ目の問いにいきたいと思います。リテールは、どうなるでしょうか?

A.1:「軟体動物」

神野:軟体動物のようになる、と思います。リテールは、オムニチャネル化が進むに従って、いちばん大きな変化を迫られるかもしれません。

商品が生活者へと届くプロセスは今まで、「製・配・販」のそれぞれで担う人が分かれていました。その垣根がどんどんなくなっている今、リテールはこれまでのように「店舗で“売る”ところだけを担います」というわけにはいかなくなっているだろうと。

でも、そうはいってもやはり、ものを買う接点としていちばん生活者の近くにいるのはリテールの方々だと思うんですね。だから、その特性というか、良さを維持しながら、形を変えていく必要がある。今のままでとどまろうとしても、周囲の事業環境や生活者の意識がどんどん変わっていってしまうので、淘汰されてしまうと懸念しています。

丸山:進化論みたいですね。時代に適した変化をした企業が生き残るという。堀北さんはどうですか?


A.2:「“大変”になる」

堀北:「“大変”になる」…とこの場でいうと若干問題がありますかね。でも実際、かなり苦戦を強いられていると感じています。

前回、上原さんが、生活者は「スマホやIoT機器で簡単に買い物ができるようになる」と話しましたが、こういう新しい武器をどんどん手に入れて使いこなしていく生活者に対して、まず矢面に立つのはリテールです。いろいろな要望に対応しないといけない。だから、大変。神野さんのコメントを受けるなら、軟体動物に「進化」しなくてはならないから、ということだと思います。


A.3:「商品→生活者」

松永:「商品→生活者」とは、リテールが意識すべき対象が「商品」から「生活者」へと移っている、という意味で書きました。もちろん、商品からの発想も必要ですが、より生活者を意識しなくてはいけなくなると思います。

私は日々さまざまなデータを扱っているので、データ分析の視点からいうと、今は分析によって「生活者が何を求めているのか」を昔よりもずっと明らかにすることができます。ただ、やはり小売リテール業は原則的に単品管理で、そのときに売りたい商品ごとにメーカーと商談し、店頭を展開している。すると、その間のバランスをどう取るかという課題が出てきます。

渡邉:なるほど。データ分析の精度が上がると、今まで見えなかったことが可視化される分、別の課題も出てくるというわけですね。

松永:そういえますね。例えば、メーカーやリテールの観点からは、今売りたいのはAだと。でも、データ分析からは顧客が求めているのはBで、さらに顧客のLTVからいうと、実は今Cを買ってもらうと長期的なお客さまになってもらえそうだ…。そんなことが明らかになると、こちらの都合で売りたいものだけを考えてはいられなくなりますよね。ただし、簡単に「それならB、あるいはCを推そう」とはいかないのもよく分かるので、難しい時代だと感じます。


A.4:「マス効率化 or パーソナル個客化」

上原:僕は、絵シリーズで。これはですね、左はロボットやAI(人工知能)が管理して、生活者のニーズに合わせて倉庫から商品が直接発送されるような効率重視の形。右はその逆で、これまで以上に店舗の店員さんによる接客が手厚い、サービス重視の形です。例えば、以前は各店で同一の在庫をそろえるようにしていた企業が、エリアごとにバイヤーに仕入れを任せるなど、エリアや個店の良さを生かそうという動きも出てきています。

Amazonなどは、完全に左に振り切っていると思いますが、日本だとまだこの中間で迷っているような企業が多い印象ですね。そうなると、ちょっと厳しいのではないかと。神野さんの「軟体動物」とは、逆の意見かもしれません。

テクノロジーをいつどのように取り込むか、その体力があるか

丸山:逆かも、ということですが神野さん、いかがでしょう。視点としてひとつ伺いたかったのは、Eコマースが当たり前になってデジタル起点と店舗起点という2つのリテールの形がある中で、どういう戦略で他社との差別化を図ればいいのかと。

神野:僕は、上原さんの考え方も正しいと思うんです。よく「リテールのスマイルカーブ」として指摘されますが、やはりコストコンシャスかサービス面の強化かのどちらかに振らないと、収益的に厳しくなる。そういう認識は、僕もありますね。

僕が「軟体動物」と書いたのは、「販」の世界に閉じずに、もう少し「製」や「配」、あるいはメディアの機能も兼ねていくような意味を込めています。「販」だけを見ると、上原さんが描いた両方とも、特にデジタルのテクノロジーがドライブするところが大きいと思うので、それらをどこでどう取り込むかによっても成果が変わりそうです。

堀北:変化していこうとすると、体力も要りますよね。なので、そもそも軟体動物化して生き残れるリテールの数自体が、そう多くないのかもしれません。ただ、僕らも気をつけないといけないと思うのは、そもそも買い物は楽しい体験であることが重要で、デジタルがどんなに発展しても店舗がなくなるはずはない。つい企業の視点で現状と展望を見てしまいがちですが、松永さんが指摘されたように、生活者の視点を常に忘れずにいないといけないですね。


Q.3「オムニチャネル時代、メーカーはどう変化する?」へつづく

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著者

神野 潤一

神野 潤一

大手IT企業でのEコマース事業運営経験から、顧客接点としての売場の価値の多様化を確信し、電通復帰。 コンサルティングファームにおける事業価値評価等の経験も総合的に生かし、現在、購買起点での逆算プランニングを行うプロモーション・デザイン局で数多くの販促施策開発、実施に従事。ペンシルバニア大学ウォートンスクール経営学修士。2022年12月末に電通を退社。

堀北 幸裕

堀北 幸裕

株式会社電通

2000 年電通入社。以来マーケティングとプロモーションの分野でカテゴリを絞らずクライアントの課題解決に従事。2014 年より現局にて、主にオムニチャネル領域での流通とメーカー双方のニーズを満たす企画立案と各種実施を行なっている。

松永 久

松永 久

株式会社電通グループ

電通入社後、データを活用した顧客企業のプランニングやコンサルティング業務、電通のプランニングシステムの開発に従事。メディアや小売企業、デジタルプラットフォーム事業者との新規事業開発に多数関わる。2016年より電通データ・テクノロジーセンターで、電通のデータ戦略の策定やデータ基盤の開発を担当。23年dentsu Japanのグロースオフィサー/Chief Data Officerに就任。dentsu Japanのデータ戦略策定、およびデータホルダーやデジタルプラットフォーム事業者とのアライアンス、データとテクノロジーを活用したソリューションやプロダクト開発を担当(工学博士)。

丸山 裕史

丸山 裕史

株式会社電通

2000年から大手シンクタンクでビッグデータ解析に従事。 2005年に電通入社後、マーケティング効果検証/コンサルティング業務を経て、現在は国内外のテクノロジー企業とのサービス/ビジネス開発をベースとしたソリューション提供を行っている。主な担当領域は媒体社、デジタルプラットフォーム、小売流通業など。

上原 拓真

上原 拓真

株式会社電通

大学でアートマネジメントを専攻。広告代理店、シンクタンク、事業コンサルティング会社を経て電通入社。DMP開発、位置情報分析、オムニチャネル、UI/UXデザインに従事。 美術家の思考を追体験する「アートテリングツアー RUNDA」を主宰し全国各地でツアーを開催。現在は大学院でデータサイエンスに基づいたアートシンキングの方法論を研究中。共著に『アート・イン・ビジネス — ビジネスに効くアートの力』

渡邉 弘毅

渡邉 弘毅

トヨタ・コニック・アルファ株式会社

2008年電通入社。新入社員として営業局に配属。その後、2014年から流通小売企業のオムニチャネルプロジェクトに2年間常駐。2016年から自動車メーカーのDX推進プロジェクトに6年間常駐。常駐型で大胆且つぬるりと仕事を進めることに働きがいを感じる。クライアント愛が頂点に達し、2021年1月にトヨタ・コニック・アルファ社設立の夢を形にして、そのまま出向へ。公私共に、楽で気持ちいいことが大好き。短パン出社と耳かきが止められない。

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