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前回このコラムでもご紹介した通り、なかなかイノベーションが進まない組織を変革するためのサービス「Indwelling(インドウェリング) Creators」の提供を開始しました。おかげさまですでにいくつかのお問い合わせを頂いておりますが、今日はこの「Indwelling」という聞きなれない単語についてお話ししましょう。

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これは「棲み込む」と訳されたりするので、「Indwelling Creators」はいわば「すみこみクリエイター」という感じでしょうか。ただその意味するところは、クライアント組織内に籍を置いて気軽にコピーやデザインを発注できる「常駐クリエイター」ではありません。

前回お話ししましたが、「新しい価値」を生むためには「A or B」という単純な二者択一では不十分です。経営者が唱える「現実的な理想主義」と「現場の現実」、あるいは「生活者」と「自社の商品・サービス」といったような、一見相いれない二つの要素の「ゆらぎ」を行ったり来たりしながら、なんとかして「A and B」を実現する新しい方向性を見つけなければなりません。

そしてそのためには、お互いが分析する(analyze)世界で客観的な事実を主張し合うだけではダメなのです。たとえば経営者は現場に、現場は経営者に感情移入(empathy)することで一体化し、相手の立場から物事を見なければなりません。この行為こそが「Indwelling」です。相手の“中”に棲み込んで、経験や価値観といった主観までをも共有するのです。

言い換えると、誰もが理解できる「新しい価値」という客観をつくるとき、そのスタートとなるのは、必ず個人の「こうしたい!」という主観的な想いです。それが「わたしとあなた」、二人称の世界で共有され、激しい相克(そうこく)の後に「なるほど、そういうことか!」と共感を得て初めて扉が開かれます。

一人称(わたし)の“主観”が、二人称(わたしとあなた)の“共感”を経て、三人称の“客観”へと昇華するのです。哲学の世界では「相互主観」というそうですが、難しい話はさて置き、この「Indwelling」こそがイノベーションに向けて組織を動かす、大きな大きなカギとなります。

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よく知られたところでは、ホンダの“ワイガヤ”は、この“共感”のために自由闊達(かったつ)な場をつくっています。あるいは、アジャイル開発のペアプログラミング(※)がペアである理由は(こちらはあまり理解されていないようですが)二人称の“共感”を経由しないと、個人の着想が定着しないからです。

※ = ペアプログラミング
2人のプログラマーが1台のマシンを操作してプログラミングを行う、ソフトウエア開発の手法
 

特別なトレーニングを受けた電通のクリエイターは、「Indwelling Creators」としてクライアント組織に棲み込み、徹底的に感情移入して、その立場から物事を考えます。と同時に、それを1つのきっかけとして、クライアント組織のメンバー全員が、お互いに「Indwell」して「同じ船に乗る仲間」となり、己の創造力を解放するのです。そこには電通のクリエイターは考える人、クライアントは判断する人といった区別はありません。ともに問い、ともに悩み、ともに実行します。

分析主義、効率主義からするとずいぶん無駄に思えるプロセスでしょうが、この「棲み込み」の技術は現代社会の閉塞を打ち破る強力な武器となります。このあたりについては、次回も引き続きお話ししていきたいと思います。

【お問い合わせはこちら】
opeq78@dentsu.co.jp 担当:山田

さて、なかなか解決しない二項対立といえば、わが家のお雑煮問題です。

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東京生まれ、東京育ちのぼくとしては角餅のすまし汁を譲れず、香川県高松市出身の妻は白みそにあんこ入りの丸餅(しかも具材には鶏肉入り!!)が大好きで。お互い相手に棲み込んで対話を重ねたのですが、結局正月の食卓には二種類のお椀が並びます。

一見「A and B」を実現しているかのようですが、その実態は単なる妥協。何の新しい方向性も生み出せていません。イノベーションには程遠いのですが、どっちもそれぞれにうまいから、まぁいいかっ。

どうぞ、召し上がれ!

【続】ろーかる・ぐるぐる#175_書影

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著者

山田 壮夫

山田 壮夫

株式会社 電通

明治学院大学 非常勤講師(経営学) 「コンセプトの品質管理」という技術を核として、広告キャンペーンやテレビ番組製作はもちろん、新規商品・事業の開発から既存事業や組織の活性化といった経営課題に至るまで、クライアントに「棲み込む」独自のスタイルで対応している。コンサルティングサービス「Indwelling Creators」主宰。2009年カンヌ国際広告祭(メディア部門)審査員等。受賞多数。著書「〈アイデア〉の教科書 電通式ぐるぐる思考」、「コンセプトのつくり方 たとえば商品開発にも役立つ電通の発想法」(ともに朝日新聞出版)は海外(英語・タイ語・前者は韓国語も)で翻訳・出版 されている。

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