「好きを力に仕事をする」をテーマに、社員の個人的な関心や情熱を起点に活動する電通の社内プロジェクトや人を紹介する本連載。
今回のテーマは、サッカーです。40年以上にわたり日本サッカー協会オフィシャルトップパートナーを務めるキリンホールディングス。同社で「キリンチャレンジカップ」などのアクティベーション施策を担ってきた泉伸也氏と、その取り組みに伴走する電通の一芝賢太氏に、「好き」が力になる仕事のリアルを聞きました。
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幼いころに魅了されたサッカーが仕事になるまで
──まずは、お二人の普段のお仕事について教えてください。
泉:キリンホールディングスのマーケティング戦略部でサッカーを通じた企業ブランディングに携わっています。キリンは1978年からサッカー日本代表を応援し、今年で48年目。私はサッカーを通じて人々の心をつなぎ、社会的・経済的価値を生み出すことをミッションに、関係各所と日々取り組んでいます。
一芝:電通で統合マーケティング・プランナーをしています。企業のマーケティング戦略における課題抽出、メディアプランニング、クリエイティブ監修、認知獲得〜購買までの設計・PDCAを一気通貫で行うのが主な仕事です。どんな案件でも、機会があればサッカーを絡めて相乗効果を生み出せないかと考えてしまうくらい、サッカーは自分にとっての原動力です。
──そんなお二人が、サッカーに惹かれたきっかけは?
泉:原点は、子どものころに夢中で読んだ「キャプテン翼」です。ただ、小学校からずっと剣道漬けの日々で、本格的にサッカーを始めたのは大学からです。強く心を動かされたのは1993年の「ドーハの悲劇」ですね。サッカー日本代表の奮闘する姿に心を奪われました。
高校時代に偶然テレビでキリンカップを見て、「キリンってサッカーに関わっているんだ」と関心を抱くようになり、サッカーが好きだからという純粋な気持ちでキリンを志望しました。内定式でいただいた、サッカー日本代表のエンブレムの下にKIRINのロゴが入ったピンバッジが本当に誇らしくて。それを胸につけたまま家まで帰ったことを、今でも覚えています。
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──サッカー関連の仕事には、いつから携わっているのでしょうか?
泉:2017年からです。長く応援してきたからこそ、その価値を信じて仕事に向き合っています。社内には、「サッカーが好きでキリンに入った」という社員が多く、サッカーは社員のエンゲージメントにもつながっていると感じます。
──続いて、一芝さんとサッカーとの関わりを教えてください。
一芝:5歳からサッカーを始めて、大学までずっとサッカー部でした。大学のリーグ戦でアウェーの地で見知らぬ人たちが応援してくれて、自分たちの勝利を一緒に喜んでくれたことがとても印象に残っていて。サッカーで誰かを喜ばせたり元気にできるって、すごくいいなと思ったんです。
多くの人が難しく考えることなく心を動かされるような仕事をしたいなとぼんやり思っていたら、たまたま父に「それなら電通に行けば?」と勧められて。電通はサッカーに関わる仕事もしていると知り、入社しました。私の場合は、最初から何かサッカーに関わる仕事がしたいという気持ちで電通に入った感じです。
──入社後、サッカーの仕事にはどう関わっていったのですか?
一芝:最初は関西のマーケティング局に配属されました。さすがにいきなりサッカーの仕事ができるとは思っていなかったのですが、関西オフィス全体では、フットサル大会が一大イベントとしてあって各局員総出で競い合うカルチャーがあるんです。そこで活躍して優勝したことがきっかけで、「サッカーといえば自分」と認識してもらえるようになりました。その後、ある先輩から「クライアントがブラジルのサッカー選手を起用したがっている」という話を相談され、当時まだ若手でほぼ無名だったころのネイマール選手を活用した企画を提案したら、それが見事に採用されて。
泉:もうスカウトですね(笑)。
一芝:そんなことがありつつ、2018年に東京に異動したタイミングで、自分から社内のキリン担当に売り込みをかけました。飲料の仕事を経て、1年後にサッカー案件にも関われるようになりました。
泉:2018年の初めての打ち合わせ、覚えていますよ。青いスニーカーで来られて、「サッカー日本代表は青なので」とおっしゃっていたのが印象的でした(笑)。
一芝:覚えてくださっていてうれしいです。その後もありがたいことに、サッカーの仕事を継続して担当させてもらい、プライベートでも定期的にボールを蹴っています。BUKATSUではサッカー好き社員で集まって、マーケティング局に限らず他局やグループ会社のメンバーとも交流しています。若手からベテランまで、役職も部門も越えてつながれるサッカーは、本当に価値ある素晴らしいコミュニケーションツールだとも思っています。
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本気で「応援」したい気持ちから生まれた、前代未聞の広告施策
──改めて、キリンがサッカーとどのように関わっているか教えてください。
泉:キリンでは「サッカー日本代表を応援する」という姿勢をずっと大切にしています。スポンサードや協賛という言い方もできますが、私たちはあくまで「応援」という言葉にこだわっています。選手たちだけでなく、ファンやサポーターの皆さん、そしてサッカーの輪をともに広げていく関係者や私たちも含めて「一緒に応援する」というスタンスです。
その中核にあるのが、強化試合として行われる「キリンチャレンジカップ」。これは日本サッカー協会が主催するものですが、私たちはそこに出資し、試合を盛り上げるアクティベーション施策をパートナーの皆さんと一緒に展開しています。
また、近年はサッカーを通じた社会課題解決にも力を入れています。その一つが「ウォーキングフットボール」。歩いて競技する5対5のサッカーで、ゴロでパスをつなぎながらゴールを目指すものです。性別や年齢、障害の有無、サッカー経験の有無を問わず、誰もが一緒に楽しめる。コロナ以降、希薄になった人と人のつながりを、ともにボールを蹴り合うことで再び感じられる場になっています。
能登半島地震の後には、避難所となっていた小中学校のグラウンドでウォーキングフットボールを実施しました。高齢の方々も飛び入り参加してくださって、「久しぶりに体を動かして、元気が出た」と喜んでいただけたことが忘れられません。私たちのほうが、逆に元気をもらった気がしましたね。
──「応援」という言葉の意味が、よく伝わってきます。一芝さんはキリンと一緒にさまざまな施策に取り組んできたと思いますが、特に印象深かったアクティベーション活動は?
一芝:2021年の「ライブLED応援企画」です。キリンチャレンジカップの試合中、SNSに投稿されたファンやサポーターの応援メッセージを、ピッチサイドのLED看板にリアルタイムで表示する施策です。
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一芝:当時、コロナ禍で無観客試合が続き、選手たちは観客の声援を感じられない状況が続いていました。サッカーでは「ホームが有利」と言われるほど、観客の声援が選手に与える影響は大きく、実際Jリーグや代表戦に関わる選手たちからも「応援が必要」という声があり、ファンやサポーターも「声援を生で届けたい」と気持ちが高まっていました。
そこで生まれたのが、「ピッチ横の看板に広告を出すのをやめませんか?」という提案でした。従来、看板にはブランドロゴを掲出しており、テレビにも映るブランディングの要となるスペース。それをあえて広告を出さずファンの声を届ける場に変えるという発想でした。ピッチで最も選手に近い場所にあるからこそ、そこにファンの言葉をのせることに意味があると考えたんです。
泉:一芝さんから提案を受けたときのこと、今でもはっきり覚えています。想像もしなかったアイデアでしたし、正直「本当に実現できるのか?」という不安もありました。ただ、観客の声が届かない状況で、ピッチ上の選手たちに応援が届いていることを感じさせる場をつくれるなら、ぜひやってみたいと思ったんです。
一芝:実現にはいくつものハードルがありました。SNS投稿のリアルタイムチェック、メッセージの選別、リスク管理など。重要な広告枠に企業ロゴを出さないという前代未聞の挑戦にも大きなハードルがありました。それでも、いろいろな方の協力を得つつ、キリングループのシンボル「聖獣麒麟」がメッセージを運ぶというストーリーを組み合わせて、「キリンらしさ」を表現することでなんとか実現できました。
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──選手やファンの反応はいかがでしたか?
一芝:選手たちからは「励みになった」「ありがとう」という声をたくさんいただきましたし、X(当時Twitter)では試合のたびにトレンド上位に入るほどファンの間でも話題になりました。自分自身が選手・サポーター・マーケターという三つの視点をもっていたからこそ考えられた企画だったのかなと思います。
泉:まさに、キリンが大切にしている「応援」の姿勢を体現する企画だったと思います。社内でも「粋なチャレンジだった」とすごく前向きに受け止めてもらえました。今思えば一芝さんの純粋なサッカー愛と熱量がこもった提案だったからこそ、大きなハードルがあってもみんなで乗り越えて実現させようという気持ちになれたんだと思います。
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AI時代にこそ、「好き」という熱量が武器になる
──お二人は「好きを仕事にする」を、どう捉えていますか?
一芝:好きなサッカーを仕事にしていることを、ネガティブに捉えられてしまうときもありました。「仕事と遊びは別」だ、と。でも私はちょっと違うと思っていて、好きだからこそ深く考えられるし、自然と視野も広がり、他の人が思い付かないようなアイデアを生み出すことができます。なにより、熱量をもって提案できることは大きな武器になります。
今の時代、誰にでもできるような提案はAIが代替してくれます。自分にしかできないことは何かを考えると、それは「好き」の中に答えがあるんじゃないかと思うんです。特に私たちは、まだ世の中にないものをつくることに挑戦している会社なので、踏み込んでチャレンジするためにも「好き」という原動力は大切だと思います。
泉:共感します。もちろん仕事である以上、冷静な判断が求められる場面もあるのは事実です。公私混同してはいけない。でも一方で、その仕事に関わる人の熱量がなければ、人の心は動かせないとも思うんです。調査を行い、コアファンやライトファンのニーズを分析しながら冷静な判断を行う一方で、「好き」という熱い気持ちは常にもっていたいですね。
実は、もともとサッカーが大好きだからこそ、仕事にはしたくなかったんです。好きなものを仕事にすると、嫌いになってしまうかもしれないと思って。でも実際にやってみたら、「あれ?こういうこともできるんじゃないか」「これまでの取り組みに、自分なりの熱量を込めたらもっと面白くできるかもしれない」と思えるようになりました。
例えば、より多くの人に思いを届けるにはライトファンにも届くことは重要ですが、だからといってコアファンを軽視するようなことは絶対にしたくありません。自身がコアファンだからこそ、そのような視点をもつことができると思うんです。
──社内のサッカープロジェクトのメンバーも、サッカーが好きな人が多いんですか?
泉:いえ、チーム全員がコアファンだと偏ってしまうので、そうじゃない人も含めていろんな視点をもったメンバーをそろえています。でも逆に、関心のない人たちの集まりだと、本当に好きな人たちの心の「機微」が、きっと見えなくなる。そういう意味で、好きな人がその中にいるって、すごく大事なことなんだと思います。
AIがどこまで進化するかは分かりませんが、人って、言葉にしなくても伝わる瞬間があるじゃないですか。例えば口角がふっと上がったり、目尻が柔らかくなったり。「あ、この人は本当に好きなんだな」って分かる。そういう人間らしさに、私は本物を感じるし、心を動かされるんです。好きだからこそ熱量をもって本気で取り組めて、その思いが相手にも伝わる。それは人間がもっている根源的な力だと信じています。
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サッカーの力を信じて、人の心が動くような「機微のある仕事」をしたい
──最後に、今後サッカーに関わる仕事で挑戦したいことを教えてください。
一芝:サッカーを軸に、これまでにない施策に引き続き取り組んでいきたいです。特にキリンさんとはサッカー日本代表というスケールの大きなテーマでご一緒できているので、またこれからも新たなチャレンジができたらうれしいですね。
日常にサッカーがなくても、人は生きていけます。でも、サッカーがあることで日常がちょっと豊かになる。サッカーには人や社会を元気にする力があると信じています。そんなサッカーの力を借りて、人の心が動くような施策をたくさん生み出していきたいです。
泉:キリンがサッカー日本代表の応援を始めたのは1978年。今でこそ多くの人がサッカー日本代表を応援していますが、当時は観客もまばらでした。そんな時代からずっと応援し続けてきたのは、やっぱりキリンが本気だったからだと思うんです。そうした先輩たちの思いを受け継ぎながら、今年のキリンチャレンジカップ/キリンカップサッカーはもちろん、ウォーキングフットボールを通じた社会課題解決活動に本気で取り組み、サッカーの力を信じて新しい挑戦をしていきます。一芝さんのように「好き」を原動力に、情熱をもって向き合える人たちと一緒に、これからもサッカーを通じた「機微のある仕事」ができたらいいなと思っています。
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