そして3つ目は、インターネットやスマートフォンの登場によって、ユーザーにとっての製品価値が、機能価値から「体験価値」に移ってしまったこと。たとえばiPhoneのユーザーにとっての製品価値はiPhoneそのものではなく、iPhoneで使うアプリが提供する体験に価値があるわけです。そして、その体験価値はアップルではなく、外部の会社が提供しています。アップルにとっては外部の会社にもiPhoneをうまく活用してもらう必要があるのです。
京井:僕は「商品ができたから、どう売るか考えてください」と言われても、もうその時点ではできることが限られていると感じます。共創は、ソーシャルメディアマーケティングの延長線上にも位置づけられるものです。一般的なソーシャルメディアマーケティングでは、最初のステップがリスニングで、最後のステップでコ・クリエーションにたどり着きます。ですが、現実には生活者の声をリスニングする段階で終わってしまうことが多いのも事実。もっと共創を企業活動の根幹に導入していくべきだと思っています。
冷蔵庫の材料だけではイノベーションはできない。
住友:企業が外部のリソースを活用できるようになるには、自己完結的な発想を変えなければいけません。インターネットによってユーザー間にコラボレーショングループができ、商品を買うことで得られるユーザー間の体験共有が、商品そのものよりも重要になってきました。たとえば人々がスマートフォンを競って買う理由は、スマートフォンが多機能だからではなく、FacebookやLINEといったソーシャルメディアで体験価値を共有する上で良い端末だったからです。また、生活者の視点で企業とのコ・クリエーションを考えると、できあがった商品を買うだけではなく、その商品の企画からマーケティングまでのプロセスを知ることや関わることで、商品の体験価値が高まります。
京井:生活者のニーズや欲求が「体験価値」にシフトしている。そうなると、もう企業は自社のみでは商品価値をつくれなくなっていて、生活者の力を必要としているということですね。
住友:別の視点からコ・クリエーションを考えると、コ・クリエーションとイノベーションは非常に近いキーワードだと思っています。イノベーションを実現するには多様なものが結びついて、今までと違うことを実現しなければなりません。僕は「冷蔵庫理論」と呼んでいるのですが、冷蔵庫を開けて、そこに入っている材料で料理をつくることはできるかもしれません。でもそれが、食べたい料理ではないかもしれない。私たちは、今すぐつくれる料理よりも先に「今食べたい料理」を求めています。「今食べたい料理」に必要な材料が冷蔵庫にない場合には、よそから持ってこなくてはなりません。生活者の情報が増大している現代では、生活者が食べたい料理の材料を、ひとつの冷蔵庫、つまり一社だけで全て持っている企業があるでしょうか。いまや生活者のニーズにこたえるには、外部とのコ・クリエーションが必須なのです。そして、何をつくればいいのかは生活者自身の声を聞くのが一番です。企業が主体になってコ・クリエーションを進めてしまうと、自分たちが持っているリソース、つまり冷蔵庫のなかの材料だけでつくることに意識が向きがちになります。今持っているリソースをどう使うかではなく、ユーザーの求めるモノ・コトを実現するためにはどういう材料が必要かを考えることが重要です。