本来”の魅力を、デザインによってカタチに置き換え、伝える
——八木さんにとっての「本来」とはどんなことなんでしょうか。
八木:企業や商品のあり方にはそれぞれ社会に対しての本質的な役割と、それを実現するための機能があると思うんです。だからフォーカスする機能を間違ってしまうと、必然性からはずれて人々に全く伝わらなくなってしまう。ただ美しいだけではなく、それが本来あるべき必然性に当てはまっているかどうか、が大事な気がします。だから、その本来あるべき役割や機能をイメージしてデザインするようにしています。理にかなっているかどうかを検算する、ということですね。
その企業は、そもそも社会に何を提供しているのか、その商品は、なぜ世の中に必要なのか、ということがメーカーの方の中では開発の過程で意外と抜け落ちてしまっていることが多い気がします。そのことを改めて発見し、共有できるとすごくスムーズにプロジェクトが進行します。それをデザインというカタチだけではなく、クライアントとのやり取りの中では言語化する必要がある。出来上がったデザインをどう説明すればいいのか、そこに一番時間をかけているかもしれません。
——ザインに関わる方々と話をさせていただくと、物事の本質的な部分や戦略の矛盾について、とても的確な、的を射たご指摘をいただくことが多いような気がします。そこにはデザイナー特有の視点のようなものがあるのでしょうか。
八木:一般論としてお答えするのは少し難しいですが、デザイナーが最終的に消費者との接点になる「カタチ」に目を向けていることが大きいかもしれませんね。「言葉」という抽象的なものを実際にカタチに変換していく「デザイン」という行為の中で、物事の本質が見えてきたり、あるいは矛盾に気づいたりするのかもしれません。
——最終的には「消費者に伝わる」「消費者のココロを動かす」ということが重要だと思いますが、そのためにはどんなことが必要でしょうか。
八木:世の中に出す前に、クライアントに見せる前に、自分がまず感動している、ということですね。自分が感動しているっていうことは、多分、世の中の人も感動する、ということですが、その分、自分の感覚が常にニュートラルに保たれていて、一般人として普通のことに感動できるコンディションが必要かもしれません。その上に自分の「ああだったらいいな、こうだったら格好いい」というイメージに筋を通して、無理なくつなげていくことかと。
人間には普遍的な感覚があると思うので、そういう根源的なものはずっと変わらないと思います。でもそれだけじゃ人はつまらないし、飽きてしまう。だから、「行くぜ、東北。」でも、ホンダやメニコンの場合でも、少し予想外な道筋やアウトプットになるようにしたい。そのためにいろいろな人の気持ちや意見、自分の個人的な記憶、妄想、そしてマーケティングのデータに自分が感動できるように心がけたいです。
——話をうかがって、戦略という必然にアイデアという偶然を当てはめていくこと。抽象的な言葉を、具体的なカタチに変換していくこと。そこにデザインの本質がある気がしました。八木さんの言葉でいうと「パズルを解くように」というのがとても印象的でした。そのイメージ自体がとても造形的であるようにも感じます。感性と論理といった単純な対立的な構図ではなく、「パズルを解く」という、ある種幾何学的なイメージと、方程式を解くようなマーケッターや研究者の思考をうまく融合させていけば、そこにクリエーティブやコンテンツの有効性を解明する上での新しい地平が開けてくるようにも思います。貴重なお話をありがとうございました。
〔 完 〕
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