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電通デザイアデザイン(DDD)は消費と欲望の関係から、さまざまなソリューション開発や情報発信を行う組織です。今回は、DDDが2025年11月に実施した「心が動く消費調査」を分析。調査結果から得られたインサイトやファインディングスをお伝えしていきます。

本記事では「限定品」「限定情報」にフォーカス。消費者の背中を押す“欲望”との関係についてDDDの立木学之が考察します。

65%の人が「限定クーポン」を“必ず使う”

「地域限定!」「季節限定!」とうたう商品・サービスを購入した経験が、読者の皆さんにもあるのではないでしょうか。

筆者自身の体験としても、大阪出張の際、大阪限定のキャラクターグッズが店のレジ前に置いてあり、思わず手に取ったことがありますし、コンビニエンスストアで冬季限定のチョコレート菓子を見れば買いたくなったりします。

「今この瞬間」や、「今ここ」にしかない状態を逃してしまうと、二度と手にできなくなってしまうのではないか、という想像が購買を後押しするわけです。

他に、「今買わないと!」を感じさせる好例として、「期間限定のクーポン券」や「割引券」「優待券」なども挙げられます。財布の中にそうした券を折って入れておいたものの、時間の経過で忘れてしまい、期限切れ後に後悔の念とともにごみ箱に放り投げた経験を、思い出せる方もいるのではないかと思います。

こうした消費者行動とその背景をひもとくべく、DDDが2025年11月に実施した「心が動く消費調査」の結果を二つご紹介いたします。

 

図1は、「期間限定のクーポン券や優待券は必ず使うか」を質問した結果です。

全体としては65.6%が、期間限定のクーポン券や優待券を「使う」(「Aに近い」+「どちらかというとAに近い」)と回答しています。つまり、回答者全体の約3分の2が、買い物の際に期間限定のクーポンを意識していることになります。

さらに、性別×年齢別に「Aに近い」+「どちらかというとAに近い」の合計スコアを見てみると、大きな差はないものの、比較的女性の方が高めであることが分かります。

また、年齢別の要素を加味すると、最も高いのは女性30代の72.2%で、最も低いのは男性15~19歳の57.3%となり、その差は15ポイントほどです。特に女性30代のスコアが最も高いのは、この物価高の世相において家計についてシビアになるであろう主婦層が多いことの表れと言えるでしょう。

“お得”に敏感なのは、「承認&優越」「保身&安全」の欲求を持つ人々

では、この「期間限定のクーポン券や優待券は必ず使う」という意識は、消費者の中にあるどのような欲望と関係が深いのでしょうか。DDDが開発した、現代の「11の欲望」のもとになる11の欲求因子ごとに集計した結果が図版2になります。

■「11の欲望」について詳しくは、こちらをご覧ください。
「新しい欲望に、名前をつけてやる。」(ウェブ電通報)
DENTSU DESIRE DESIGN、人間の消費行動に影響を与える「11の欲望」2024年版を発表
 

■11の基本的な欲望と欲求因子

 

 

グラフを見ると、「承認&優越」と「保身&安全」の二つの欲求因子において「Aに近い」「どちらかというとAに近い」の合計スコアが他と比べてやや高いことが分かります。

前者については、消費者は優待券やクーポン券を使う自分に、ある種の「優越感」を覚えており、後者は少しでもお得に買えたことへの「安心感」のようなものが、満足を感じるポイントとなっているからではないかと推察できます。

質問ではクーポンに対する意識を聞いていますが、こうした「優越感」や「安心感」が期間などを限定された状況での購買行動に寄与するのは、クーポン券以外のケースでも変わらないと考えられます。

2024年から2025年にかけて起きた社会現象として、記憶に新しいのは、「令和の米騒動」です。全国的な米の価格高騰により各地で米の買い占め運動が起きて、一時期、店頭の棚から米がなくなる状態になりました。

昭和の時代(1970年代)にも、石油危機の際に、トイレットペーパーがなくなってしまうというあるデマ情報が、生活者心理への大きなドライバーになり、買い占め行動が起きました。また、ガス欠を恐れた人々がガソリンスタンドに殺到する、といった現象も見られています。

こうした消費者行動の背景にはやはり、<他者に先駆けることができた!>という優越感と<買ってホッとしたという気持ち>、すなわちそれぞれ「承認&優越」と「保身&安全」の二つのデザイアの影響があるのではないでしょうか。

なぜ「限定」は消費のドライバーになるのか

下記は、こうした消費行動を引き起こす「限定」のパターンと具体的な例を、筆者が独自に体系化したものです。

<限定パターン>
① 割引券やクーポン券:小売店で配布されるクーポン券など
② 大衆心理で生み出されてしまう限定「感」:米騒動、閉店セールなど
③ 季節限定:冬季限定チョコ、秋味のビールなど
④ 地域限定:地ビールなど
⑤ 特別仕様:ハイブランドやファッションブランドなどとのコラボ商品など

消費者行動論や行動経済学では、「手に入りにくいものには高い価値がある」と感じる心理のことを<希少性原理>と呼びます。上記の類型では主に②、④、⑤が関わり、本当に手に入りにくいかどうかは別として、「なくなってしまうかもしれない」という焦り、「今そこでしか買えない」限定感が背中を押すスイッチになります。

また、「心理的リアクタンス」という現象も消費のドライバーとなることがあります。これはもともと、「自由が制限(強制)されたと感じるときに、抵抗や反発といった感情が起きること」を指します。

消費行動においては、「今買わなければ手に入らない」という自由の制限に対する反動として、購入意欲が高まる心理現象となり、上記類型では②と③が該当します。こうした心理現象が起きると、消費者はある種非合理ともいえる行動、つまり直感による判断に傾きやすくなる、と言えるのではないでしょうか。

「限定」が心を動かした実例

DDDが実施した同調査の心が動く消費のフリーアンサーにもそういった事例が見られる回答がありましたので、少し紹介します。

一つ目は、60代女性による「動画視聴サービス。Yuzuru Hanyu ICE STORY 2nd “RE_PRAY” TOUR」です。同サービスに心が動いたという回答に対し、「どんな気持ちになりたくて買いましたか?」と質問すると、下記のコメントがありました。

「2024年のアイスショーだが、もう一度見たいと思っていたところ放映があったため。何度見ても感動して心が満ち足りた気分になる芸術作品」

羽生結弦選手のアイスショー、つまりスポーツやショーなどのイベントは、実施される時と場所が限定的であって、「今、その場」でしか見られない典型例だと思います。回答者の方は、リアルで見たショーをもう一度見たくても2回現地に行くのは難しい。そんなときに、この「限定ショー」をある動画視聴サービス限定で見られると知って魅力を感じ、背中を押されたのではないでしょうか。

もう一つは、同じく60代女性の「モンブランケーキ。外出先で季節限定の店舗の前を通りかかり、おいしそうなケーキを見て価格は高かったがたまには良いかと思って購入したら、思うよりはるかにおいしいケーキだったので感動した」という回答です。これはまさに前出の「季節限定」による訴求が奏功した事例と言えるでしょう。

消費が伸び悩んでいる物価高の時代、「限定感」の演出が、あらためてマーケティングのキーになっていくのは間違いないでしょう。さまざまな形での訴求が展開できる「限定」ドライバー。その一つとして、現代の新たな欲望を元に訴求の形を考えてみるのも一手かもしれません。

DDDでは引き続き「心が動く消費調査」から、さまざまな観点で生活者のインサイトを考えていきます。

【調査概要】
<第11回「心が動く消費調査」概要>
・対象エリア:日本全国
・対象者条件:15~74歳男女
・サンプル数:計3000サンプル(15~19歳、20代~60代、70~74歳の7区分、男女2区分の人口構成比に応じて割り付け)
・調 査 手 法:インターネット調査
・調 査 時 期:2025年11月7日(金)~ 11月12日(水)
・調 査 主 体:電通 DENTSU DESIRE DESIGN
・調 査 機 関:電通マクロミルインサイト

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著者

立木 学之

立木 学之

株式会社 電通

未来事業創研

入社以来、世代研究や男性消費トレンド研究の他、話題・注目商品プロジェクトなどを担当。営業局にて大手自動車会社を担当した後、電通総研にて中国市場とインド市場のインサイト開発に従事。2012年1月から「日本の広告費」「世界の広告費」「情報メディア白書」の制作をはじめ、各種オーディエンスインサイトの構築を手掛ける。2016年からインターネット広告のセールスを手掛けるセクションへ異動。2019年に電通メディアイノベーションラボ、2020年から電通 未来予測支援ラボ、未来事業創研に在籍。

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