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2005年から電通が開催してきたトークイベント「電通デザイントーク」の書籍化第2弾(『電通デザイントーク Vol.2』朝日新聞出版刊)を記念し、2014年12月17日、書籍内に登場するAR三兄弟の川田十夢氏、ライゾマティクスの齋藤精一氏、電通の澤本嘉光氏の3人が電通ホールに集まった。技術開発者としてユニークな発想をアウトプットし続ける川田氏、空間とテクノロジーを掛け合わせて様々な体験プロジェクトを手掛ける齋藤氏、広告クリエーティブのトップランナー澤本氏が互いに触発し合い、広告コミュニケーションの拡張方法が話し合われた。その後編をお届けする。(前編はこちら

自分たちが持っているダサさを認識する

澤本川田さんは、ご自身で色々な企画を考えられていますが、広告の依頼はどう来るんですか?

川田前にアイドルがARで出てくる映像をつくったときは、事務所から直接頼まれました。元になるネタ(「カンジブルコンピューティング」=「朝」と「娘」の漢字にスマホをかざすとモーニング娘。が浮かび上がるなど)があって、テレビで無許可で披露していたら、事務所の人が乗り込んできて。「こうやって芸能界では干されるんだ…」とびくびくしていたら、「今度新しい子たちがデビューするんで全部お任せしたい」と。僕らがライゾマさんなどと違うのは、顔出しをしていることです。技術者が顔を出すのは本当は邪魔なんです。でも、人は表情のないものに感情移入できませんから、特に新しい技術には顔をつけないとダメなんです。アイドルのCMなのに僕らがアイドルより大きく出ていて、ファンに刺されるかと思ったけど、逆に「その節はお世話になりました」って皆さん好意的で。顔を出しても悪いことはないなと。そういう活動の中で、「この人たちはアイデアがあるから頼んじゃおう!」みたいなノリで話が来ることが多くなってます。

澤本元々、「AR三兄弟」をつくったきっかけは何だったんですか?

川田ARは僕がやりたいことに一番近かったんです。でもARって誰も知らないので、今さらあえて「三兄弟」ってつけて、男が3人並んで同じ格好をしたら面白いかなと思って。昔は真面目に記者会見でプレゼンテーションしていたこともあったんですけど、すごい技術なのに、記者がすごく退屈そうで。何か申し訳ない気持ちになっちゃって。それで、お笑いっぽくしたら、みんな食い入るように見てくれるんですよね。その質量変換がヤバいと思って。三兄弟をやり出してから暇だったことがないです。これがなければ危ないところでしたね。

澤本AR三兄弟の後に続く人たちも出てきていますか。

川田全然まねされないです。それは僕らに根本的なダサさがあるからだと思うんです。何でプログラマーなのに、人前でビームを出してるんだと、たぶん思われている。僕はさっき、澤本さんのお話を聞いてグッときたんです。本(『電通デザイントーク Vol.2』)の冒頭で、「『広告だー!』と主張しているような広告はダサい」と言ってしまったんですけど、広告ってきらびやかなものだから、広告の制作者であるだけでカッコいいという感じが一部ではある。でもそれは誤解で、アートを主張してるような広告も、とてもダサいと思う。先ほど澤本さんは「広告は邪魔なもの」とおっしゃいましたけど、そういう感覚がないと拡張するときに危ないんじゃないか。広告に限らず、テレビもラジオも。澤本さんはその感覚を持っているんだと思います。

澤本自分の美的意識に合わせるのが正解じゃないから、毎回模索しています。ここまで言うとカッコ悪いだろうとか、少しあざとい、おじさんっぽいと思っても、そういうセリフの方が残るんですよね。自分がすごくいいと思う時って意外とスルーされてしまうので、それよりも心に残るものをつくろうという気持ちが強いです。

 

ラジオを拡張してみよう

川田ラジオの話をしましょうよ。澤本さんはTOKYO FMで「澤本・権八のすぐに終わりますから。」を、僕はJ-WAVEで「THE HANGOUT」のナビゲーター(火曜担当)をしています。

澤本ラジオを拡張したいですよね。僕、ラジオというものが、今日ここに初めて登場したら、みんなすごくびっくりすると思うんですよ。音声をある不特定多数に一瞬にして流せるんだから。つくってきた人がおっさんだという理由だけでみんな聴いてないけど、10代20代の人がつくったり、川田さんや齋藤さんと組んでラジオを再生できたらすごく面白いと思う。

川田僕はラジオがこれから進む道って2つあると思っているんです。今のラジオのリスナーはタクシーの運転手やドライバーが圧倒的に多いんですが、TOKYO FMの「SCHOOL OF LOCK!」は若い人に人気です。あれは、ラジオの中に「学校」という今までなかったテーマを入れたからだと思うんです。お笑い芸人が校長先生で、ミュージシャンが講師で、そのブッキングの妙も効いてる。ラジオの中にないものって、まだいっぱいありますよ。もう1つは、「ラジオ的な存在」がもっとあってもいいと思っています。その場所でしか聴けないとか、場所ごとに違うものが聞こえてくるとか。文学的な史跡でもいいだろうし、地下鉄で移動中に通過地点にひもづいたものが聞こえてくるとか…。時間と距離にコンテンツをはめこんで、そこに行くことと聴くことが同時にあるということ。今のラジオにはできないけど、それはラジオ的な存在だと思います。

齋藤音声を放送するというシステムをつくったら、色んなことがもっとできますよね。僕も世代的にはラジオっ子です。前にも一度CMを作ったのですが音をコミュニケーションのきっかけにできないかと思っています。日本人ってシャイでなかなか知らない人に声をかけられない。でも街で僕からトランペットが流れて、あっちの人からギターが流れてという風に、みんなが音を出してオーケストラになったら、ちょっと会釈くらいするんじゃないかなと思って。そこにラジオを連動させて。「ちょっと音出ちゃって…シンクロしてますね。こんにちは」というようなコミュニケーションって、ラジオにすごくポテンシャルがある。ラジオは掘れば掘るほどいろんなものが出てきそうです。

川田僕は、クルマを走らせることで物語が進んでいく「ドライブアウトシアター」をやりたいんですよね。ラジオの指示に従って車を走らせると、途中で例えば満島ひかりさんが乗り込んでくるんですよ。音でそれが分かるんです。で、どこどこに行って、と言われて走ってる間じゅう、満島さんがしゃべってるんだけど、その中にヒントがあって。走っている間にどんどん人が乗り込んでいたり、途中でさらわれたりして物語が進む。そんなことをやってみたいですね。

澤本自分には思いつかない企画ばかりです。広告が素晴らしいのは、色んなことを吸収できることです。広告という名の元に、新しい技術を取り入れて行けるのが面白さですね。

<完>

 

こちらアドタイでも対談を読めます!

企画プロデュース:電通イベント&スペース・デザイン局 金原亜紀

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著者

齋藤 精一

齋藤 精一

ライゾマティクス

1975年神奈川生まれ。建築デザインを米コロンビア大学建築学科(MSAAD)で学び、2000年からニューヨークで活動を開始。その後Arnell Groupでクリエーティブとして活動し、2003年の越後妻有アートトリエンナーレでアーティストに選出されたのをきっかけに帰国。 その後フリーランスのクリエーティブとして活躍後、2006年にライゾマティクスを設立。建築で培ったロジカルな思考を基に、アート・コマーシャルの領域で立体・インタラクティブの作品を多数つくり続けている。2009~14年国内外の広告賞で多数受賞。現在、ライゾマティクス代表取締役、京都精華大学デザイン学科非常勤講師。 2013年D&AD Digital Design部門審査員、2014年カンヌライオンズBranded Content and Entertainment部門審査員。2015年ミラノ万博日本館シアターコンテンツディレクター、六本木アートナイト2015でメディアアートディレクター。グッドデザイン賞2015-2016審査員。

川田 十夢

川田 十夢

AR三兄弟、開発者。1976年熊本県生まれ。10年間のメーカー勤務で特許開発に従事したあと、やまだかつてない開発ユニットAR三兄弟の長男として活動。主なテレビ出演に「笑っていいとも!」「情熱大陸」「課外授業 ようこそ先輩」「タモリ倶楽部」など。劇場からプラネタリウム、百貨店から芸能に至るまで。多岐にわたる拡張を手がける。「WIRED」では2011年に再刊行されたvol.1から特集や連載で寄稿を続けており、10年続く「TVBros.」での連載は20年に書籍として発売された。毎週金曜日20時からJ-WAVE「INNOVATION WORLD」が放送中。新会社(tecture)では、建築分野の拡張をもくろんでいる。

澤本 嘉光

澤本 嘉光

株式会社電通

1966年、長崎市生まれ。1990年、東京大学文学部国文科卒業、電通に入社。ソフトバンクモバイル「ホワイト家族」、東京ガス「ガス・パッ・ チョ!」、家庭教師のトライ「ハイジ」など、次々と話題のテレビCMを制作し、乃木坂46、T.M.RevolutionなどのPVなども制作。著書に小説「おとうさんは同級生」、小説「犬と私の 10の約束」(ペンネーム=サイトウアカリ。映画脚本も担当。)、映画「ジャッジ!」の原作脚本や東方神起などの作詞も担当している。クリエイター・オブ・ ザ・イヤー(2000年、06年、08年)、カンヌ国際広告祭銀賞・銅賞、ADFEST(アジア太平洋広告祭)グランプリ、クリオ賞金賞・銀賞、TCC賞 グランプリ、ACCグランプリなど受賞多数。

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